第80話 事件のその後。




 騒動から四日が過ぎ。


 私は振り出しに戻ったように、病院と警察の双方に顔を出していた。

 でも事件後の四日間は、急遽お休みを貰えたので、少しは気持ちの整理をつけることができた。


 カメさんの方も、療養期間としてお休みを貰えたそうだ。

 あの手じゃパソコンを弄るのは辛いだろうし。色々と会社がバックアップをしてくれると言っていたので、良かったと思う。


 そうそう、私がお休みを貰えたのは、小鹿さんではなく店長からのはからいだったみたいだ。


 電話で小鹿さんから聞いたけど。私がトラブルに巻き込まれたことを知って。意外にも一番取り乱したのはあの店長だったみたいだ。


「鵺ヶ原さんが消えて、剣木さんまで辞めたらどうしよう。剣木さん、絶対に落ち込んでる、暴行を受けたんだから……、え? 未遂? ほんと? ……よかった……ええいや! だっ、だとしても、どう接したらいいかわからない。自分がなにか下手なことを言ったとしたら、きっともう次の日から剣木さんは来なくなる。まずは休ませることが大事、ですよね? 小鹿さん……?」


 と――ほんとうにこんなことをバックヤードで言って頭を抱えていたらしい。


「店長あれで結構人間関係気にしてるんだよ。頑固だけど……根は小心者なんだろうねえ」


 なにそれ、信じられないです。と言ったら、小鹿さんは笑って言ってたっけ。

 想像ができないけど。

 店長、ありがとう。


 あれから、鵺ヶ原さんは強制わいせつ、殺人未遂の罪で逮捕された。


 そのニュースにはペットショップだけでなくホームセンター中が飛び跳ねるぐらいに驚いたという。

 私だってまだ信じられないくらいだ。あの優しかった鵺ヶ原さんが、あんなことをしただなんて。


 最初は罪を否認し、あろうことかカメさんになすりつけようとしていたらしいが。押収された携帯の中にあった、私を映した動画が決定的な証拠となって、そこから全てを自白したそうだ。

 他にも同じような音声データや動画、写真なども自宅のパソコンから出てきて。調べあげるとそれらは全て過去に関係をもった女性たちのものだったという。

 警察曰く余罪はまだまだ掘り返せばありそうだとのこと。そのどれもがネットに流出されていなかったことが幸いだったが、保管されていたコレクションの一つに自分もされていたと思うと、今でもゾッとする。


 警察の報告から知ったことだけど、どうやら鵺ヶ原さん、数年前に大きな整形手術を受けていたらしい。

 小さな頃から外見にコンプレックスを抱き、学生時代はそれが原因で酷い虐めを受けていたとか。

 特に女性絡みで嫌な思い出があったらしく。だから彼は整形して今の容姿になったのだという。


 そしてその容姿を利用して、恋愛感情ではなく、女性への復讐心を奥底でたぎらせ、いくつもの関係を築きあげ、わざと壊すといった行為を繰り返していたらしい。

 私を襲った動機も、フラれて自尊心を傷つけられたから、という身勝手で歪んだものだった。


 たとえ過去に辛い思いをしたとしても。その感情を無関係な人間にぶつけることなど決して許されるはずがない。


 彼のせいで、一体今までどれほどの女性が言葉にならない叫びを飲み込み。胸が張り裂けそうなほど辛い思いをしてきたのか。

 そういう恐怖って一度植えつけられたら簡単には消えないものだ。

 婦警さんや看護婦さんたちからも何度も言われたが、未遂であって本当に良かった。でなければ今の私はここにはいない。猫村さんとカメさんに助けられた恩をきっと私は一生忘れないだろう。


 警察もこの件に関しては徹底的に調査を進め。女性への侵害、殺人への軽薄な思想を持つ鵺ヶ原さんに重い罰が下されるだろうと言っていた。


 私も、多数の被害者を思うと、ぜひそうしてもらいたいと思っている。

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