第3話 真実への道

  案内人エルに案内された一行は、最初に訪れた草原を歩いていた。

 草原には多数の道が作られており、その中をエルの案内に従い進み続けていた。

「さっき返事をしなかったから念の為に確認しておきたいのだけど、あなたはこの想区の『主役』と『物語』を知っているのよね?」

 レイナの問い掛けにエルが振り向く事なく背を向けたまま返事をする。

「さぁ?どうなんでしょうか?」

「てめぇ、まだ俺たちをからかうつもりか?」

 エルの答えにタオが怒り詰め寄ろうとするのをシェインが間に入り、制止する。

「落ち着いて下さい、タオ兄。彼女はずっと自分のやり方で案内をしているだけです。いちいち怒っていては話が進みません」

 制止され黙ったタオの代わりにエクスがエルへと問い掛ける。

「エル、君はこの想区の全てが分かる場所に案内すると言っていたけど、それなら君は『主役』と『物語』を知っているんじゃないのか?」

「そうですね。知っているといえば知っているのかもしれません。ですが、知らないといえば知らないとも言えます」

 返事を聞いたシェインが三人が何か反応する前に歩み出る。

「三人共、今はとにかく案内人さんの案内に従って付いて行きましょう。それしか方法もありませんし」

「確かにシェインの言う通りか」

「むぅ、仕方ないわね」

「うん、行こうか」

 納得のいかないままエルに付いて行く事を決めた一行だったが、暫くしてエクスが周囲を見回して立ち止まる。

「どうしたの?エクス」

「いや、何だろう。この辺り違和感がするんだけど」

「そうか?俺は何も感じないけどな」

「………」

 シェインが周囲を確認し、考え込む。

「多分、僕の気のせいだよ。気にせず先に進もう」

「いえ、新入りさんの言う通りです。迂闊でした。案内人さんの案内は気付く事が重要でしたのに」

 シェインがエルの方に視線を向けると、前に進むのを止め、振り返り一行を微笑みながら見つめていた。

「これも次の案内に必要な事ですかね?案内人さん」

「正解です」

「どういう事だ?」

 タオの問い掛けにシェインが答える。

「周りを見て下さい。この辺りから急にいろんなものがなくなってるんです」

「たまたまそういう場所なんじゃないの?」

「よく見て下さい、姉御。あの森や川を、まるで切り取った様に綺麗に同じ位置で急になくなっています」

 シェインに説明されて三人が驚く。

「本当だ、あそこの岩と木も同じ位置で切り取ったみたいに途切れてる」

「でもよ、これってどういう事なんだ?」

「シェインにはそこまでは分かりません。ですが、案内人さんは理解しているんですよね?」

「勿論です。その答えも含めこの先に行けば全て分かりますよ」

 前を向き、再び歩き出すエル。

 一行は顔を見合わせ頷く。

「もうこなったら最後までとことん付き合ってやるわ!」

「おうよ!この想区の全てとやらをこの目で確認してやらぁ!」

 レイナとタオがエルの後を荒い足取りで付いて行く。

「二人共、少しヤケになってない?」

「まぁ、ここまで焦らされれば仕方ありませんよ。行きますよ、新入りさん」




 エルに案内されるままに、暫く草原の道を進んだ一行。

 気付けば複数あった道は一本道になり、周辺の景色には何も見えなくなっていた。

「どうなってんだ?何にもなくなっちまったぞ」

「うん、草原だったのに草もなくなったし、それどころか石ころ一つ落ちてないよ」

「道も一本道になったし、いよいよゴールが近いのかしら?」

「だとしても、油断は出来ませんよ。この風景はかなり異常です。ここまで何もなくなるなんて。空を見て下さい。雲までなくなってます」

 一行が警戒心を強めるとエルが立ち止まり、振り返る。

「皆さん、到着しましたよ」

 エルが指差す方向を見ると、道に白い扉が一つだけ置かれていた。

「到着したって、何もないじゃない」

「いえ、姉御。あそこに扉があります」

「あんなもんに意味ねぇだろ。開けたところで反対側が見えるだけだろ」

「どういう事なんだろう?」

 一行は困惑してしまう。

「扉を開けて下さい。それで分かりますよ」

 エルに促され一行が扉に近付こうとした瞬間、突如扉の周りにヴィランが大量に現れ始める。

「クルル!クルッ!」

「グルルッ!」

「ヴィラン⁉︎なんて数!」

「メガ・ヴィランもだ!この数!やばいぞ!」

 この事態に一行がエルを問い詰めるように見る。

「困りましたね。これでは扉を開けられません」

「何を呑気な!」

 エルの反応にレイナが怒鳴る。

「仕方ありませんね。私もお手伝いしましょう」

 エルが左手を前に出し、開いた手を握ると光り輝き、その手には身の丈程もある大剣が握られていた。

「案内人さん、戦えたんですね」

「剣はレディの嗜みですよ」

 当然の事のように答えるエル。

「では、こちらはお任せ下さい。」

 ヴィランの大群が一気に迫る。

 大剣を両手に握ったエルが大剣を振るい、ヴィランを吹き飛ばす。

「…すげぇ馬鹿力」

「タオ兄、女性にそれは失礼です」

「そうよ、失礼な奴ね」

 女性陣からタオに批難がとぶ。

「でも、あれは凄いと思うよ」

「何はともあれ、これならなんとかなりそうですよ」

「よし!いきましょう!」




「お疲れ様でした、皆さん」

 自身も離れて大立ち回りを演じていた筈だが、そんな様子は微塵も見せずにエルが、一行に労いの言葉を掛ける。

「戦えるなら、最初から手を貸してくれればよかったじゃない」

 レイナが半目でエルを睨み、不満を口にする。

「全くだぜ、そうすりゃ楽出来たのによ」

「私はあくまでも案内人ですから。それに、皆さんの実力なら私の力は不要だと思いましたので」

 なおも、半目で睨んでいたレイナがだったが、ふと表情を和らげる。

「でも、助かったわ。ありがとう、エル」

 レイナが感謝を口にすると、エルは驚き頬を赤く染めて顔を背けてしまう。

「あら?どうしたのかしら?」

「姉御は、そういうところがすごいというか、ずるいというか」

「えっ?えっ?何?私、何か変な事した?」

「いや、お嬢はそれで良いんだよ」

「うん、それがレイナの魅力だよね」

 周りの態度にレイナはすっかり困惑してしまう。

「何よ、みんなだけで納得して」

 仲間外れにされたと思ったレイナは唇を尖らせる。

「まぁいいわ。ヴィランも撃退したし、先に進みましょう」

 そう言ってレイナは扉の横を通って進もうとする。

「姉御、扉を開けないと」

「別にこんな扉開けなくても、先に進めるじゃない」

「いけません!レイナ様!」

「えっ?」

 エルに呼ばれ、歩きながら振り向いたレイナが突如壁に頭をぶつけたかの様に倒れる。

「レイナ!」

「お嬢!」

「姉御!大丈夫ですか⁉︎」

 頭を抱えたまま倒れるレイナに三人が慌てて駆け寄る。

「いったーーーい!何⁉︎何なの⁉︎何かにぶつかったんだけど!もう!どうなっているのよ⁉︎」

 突然の事にレイナが大騒ぎする。

「大丈夫ですか?レイナ様」

「大丈夫じゃないわよ!たんこぶできちゃたじゃない!」

「姉御、落ち着いて下さい。正直、自業自得かと。案内人さんは扉を開けるように言っていたのに、無視するから」

「何でよ⁉︎あんな扉開けたって意味ないでしょ⁉︎」

「俺もそう思ってたんだが、何かあるのか?あの扉」

 シェインがエルを見つめ説明を求める。

「案内人さん、説明してもらえますか?でないと、姉御が納得してくれませんので」

「分かりました」

 エルは一度目を閉じ、ゆっくりと目を開く。

「まず、この先に進む事は出来ません。見えているのは幻ですから」

「幻?では、この先には?」

「何も存在しません。あるのは扉を開けた先にある場所で最後です」

 シェインとエルの問答が続く。

「この扉は何なんですか?」

「開けて頂ければ分かりますよ」

「教えてはもらえないと?」

「全ては扉を開けた先でお教えします」

 問答を終えたシェインは溜息を吐く。

「どうします?危険かもですよ」

「そんなもん決まってんだろ、今更危険だからって止めるかよ」

「そうだね」

「仕方ありませんね」

「じゃあ、行くわよ」

 仲間の意思を確認した一行はレイナを先頭に扉の中へと入って行った。

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