第20話
《死》そのものが俺の背中に取り憑いている? そして、ここで行われるのは、俺のためのシキ。俺は瞬時に理解した。俺はここで死ぬのだ。でも、それで良いのではないだろうか。俺は2人を死なせてしまった原因を作っている。それならその罪を償うべきだろう。ここで潔く罰を受けるべきだ。
「貴方が何を考えているか私にはさっぱり理解できませんが、これだけは言わせていただきましょう」
こやけは俺に歩み寄り、手を取った。人より高めの体温を感じる。キッとした瞳で俺を見ると、唇を開いた。
「貴方の願いは何ですか? 私が叶えて差し上げましょう」
「願いなんて無い。ここで死ぬなら、それでも良い。俺はそのくらい2人に怨まれているだろうし、殺されて当然だろう」
「フム。りょーちゃんさんは相変わらずの死にたがり屋さんですね。絶を望むのは結構ですが、景壱君は貴方に言ったはずです。本来なら私が言うべきセリフの『お生きなさい』を」
「生きるも何もここは生きられなくなったものが来る場所なのだろう? ここに招待された時点で俺はソレじゃないのか? それに、既に《死》が取り憑いているのだろう?」
「そのくらいの《死》なら簡単に落とせます。ついでに言うと、ここで行われるのは、お葬式ではありません。ここは神社です。神様の坐場所なのです。荒ぶる御霊を鎮めている場所なのです。まあ貴方には関係ない話です。それよりも、貴方は私に願うべきなのです」
「願うって何を?」
「貴方が心から願うことをです」
こやけは俺の手を握りしめている。少し痛い。俺が心から願っていることは、2人の幸せだ。しかし、2人は死んでしまった。夕焼けの里に住んでいるようだが、まだ姿は見ていない。それに俺は2人を死なせてしまった原因を作っているのだ。そんな俺から幸せを願われたところで、2人の怨みを増やしてしまうだけだろう。これは俺のエゴでしかないのだ。それなら俺はここで潔く《死》を選んだ方が良いだろう。
俺はこやけの手を振りほどき、目を真っ直ぐに見つめた。
「俺を、殺してくれ」
「貴方の願いはそんな安っぽいちっぽけなものですか? 確かに私ならサクッと貴方を屠り去ることも可能です。ですが、そんな願いを叶えたところで、私は何を得するのですか? こっちは商売でミセをしているのです。損するような願いは叶えられません。私は貴方に感謝しているのですよ。抹茶プリンのお店に連れて行ってくださいましたし、お店の移転までさせてもらいましたし、とても感謝しているのです。ですから、本来なら同じ人からの依頼は受けないのに、こうして再び『願いは何か』尋ねているのです。それだというのに貴方はどうしてそのようなことを言うのです。幻滅です。人間もちょっとは信用してみようかと思ったところでこれです。これでは商売あがったりなのですよ。サァ、改めてお尋ねしましょう。貴方の願いは何ですか? 私が叶えて差し上げます」
こやけは俺に詰め寄りながら言葉をぶつけ続けた。赤い瞳は燃え上がったかのような錯覚を抱かせる。自分の意見を押し通す強さを感じる。この瞳を見ているだけで、夕焼け空の中を浮遊しているような不思議な感覚になった。俺の脳内で誰かが声をあげている。そいつは俺自身だ。俺の脳内で俺が声をあげている。そう。とっくに願いは決まっていた。
「俺を、元の場所へ帰してくれ」
「私が求めている願いではありません」
「死にたくない」
「そうです! それです! 私が求めていた願い! それを聞きたかったのですよ!」
こやけは笑いながら右手を真っ直ぐ右に平行に伸ばした。赤い数珠についた金色の鈴が鳴り響く。すると。左手に身の丈以上の大きな鎌を握っていた。刃先が赤黒く汚れている。
「佐用なら、再び会うことが無いように――」
鎌が振り抜かれ、俺は、俺自身を見たような、気がした――
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