第12話
「もうここでいい」
愛は力のない声で言うと俺の方も向かずに家へと入っていった。時刻は0時42分だ。終電には間に合いそうだ。俺は駅へ向かって歩きはじめる。いつものように何も変わりない街並みだ。ただ妙に胸がざわめく。ここは夕焼けの里ではないのだから振り向いても何も問題ないだろう。俺は振り向いて愛の家を見る。気のせいだろうか。考え過ぎだろうか。あの様子だと部屋に入ってすぐに眠りにつくだろう。そう思うのだろうが心配だ。
「僕の御守り役にたったでしょ?」
聞き覚えのある。ねっとりと色が絡みついたような声だ。白檀の香りと共に、着物姿の男が目の前に姿を現した。
「そんなに怖い顔をしないでよ」
「あんたも夕焼けの里の住民なんだろ?」
「そうだよ。生きられなくなったんだから仕方ないよね」
「死んでるのか?」
男は否定するでも肯定するでもないように首を振った。ちらりと着物から見えた腕には無数の切り傷。リストカットの痕だろうか。眼帯をしているし、化粧をしているし、そういう種類の人なのだろうか。
「自己紹介が遅れたね。僕は
「は?」
「そういう設定の人種だとか思わないでね」
「はあ。で、俺に何の用だ? 代価の抹茶プリンなら――」
「こやけと契約しちゃったんだ? へえ。そりゃあご愁傷さまだね」
「どういうことだ?」
「そのままの意味だよ。こやけは願いを必ず叶えてくれるよ。必ず、ね」
きゃはっ! と明るく笑うと、弐色は俺に背を向けて歩いていってしまった。いったい俺に何の用だったんだ。
終電に乗って、俺は自宅へと辿り着いた。ひどく長い1日だったように感じられる。俺はベッドに倒れこみ、そのまま泥のように眠り込んだ。
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