第6話

 振り向くと、愛はケータイを弄っていた。どうやらTwitterに先程のことをツイートしているようだった。これからどういうことになるかわかっていないから、こんなにのんびりとSNSに集中できるんだろうな。

 外は風が強くなってきたようだ。窓がガタガタと音を立て、風が電線を揺らす。雨まで降ってきた。

「そういや、悠太とはどうなんだ?」

「順調かな。来月は旅行の約束してるの。そこでプロポーズされちゃったりしてー。結婚式にはりょーちゃんも絶対呼ぶからね」

「おお。そりゃあ良かったな」

 最近仕事の関係で悠太と会ってないからどうなっているか心配していたけれど、順調そうなら良かった。2人が幸せならそれで良いんだよな。それで。

 その後は世間話なんかをした。昔のようにはしゃぎまわるようなことはしなかったけれど、長くて短い時間のように感じた。1時間ぐらいした頃だろうか。こやけが戻ってきた。手に赤で満たされたビニール袋を持って。

「ご依頼完了しましたよ。こちらがその証拠です」

「証拠? うぇっ!」

 ビニール袋を受け取った愛は、すぐにそれを投げ、吐いた。液体だけの嘔吐物は床に広く拡がる。そこに広がる光景は、想像を超えていて、泣けばいいのか叫べばいいのか、それとも気を失えばいいのか分からない。ドロドロとした赤が床に広がっていく。女の生首が白目を向いているが、こちらを睨んでいるようにも見えた。非現実的な現実。俺は愛の背中をさすりながら、タオルを差し出す。こやけは不思議なものを見るような表情をしながらビニール袋に生首を戻していた。

「せっかく持ってきてあげたのに、こんな扱いをしてはいけません」

「そんなものいらない」

「殺した証拠がないと、仕事を終わらせたかわからないでしょう。まあ良いです。それでは、次は貴女に代価を支払って頂きましょう。そう、今すぐに」

 こやけは右手にビニール袋を抱えて、左手で愛の腕を引っ張る。俺はそんな彼女の腕を掴んだ。彼女はこれまた不思議そうにちょこんと首を傾げて俺を見上げる。

「りょーちゃんさんは何か?」

「俺も連れて行ってくれ」

「フム。ですが、また夕焼けの里に行くことになりますよ。『帰ることはできない』と言われているような場所にまた行くのですか? 今度は本当に帰れないかもしれませんよ」

「それでも、俺は行く。連れて行ってくれ」

「わかりました。そんなに彼女のことを愛しているのならば、悠太さんとやらを殺してあげましょうか?」

「悠太には関わるな」

「人間というのは理解しがたい生き物ですね。わかりました。では、お連れしましょう。これから先、何があっても振り向いてはいけませんよ」

 こやけは少しだけ低い声で毒を含んだ笑顔で言うと、すぐにリビングから出て行った。俺は泣いている愛を支えながら、こやけの後ろを歩く。彼女は慣れたような足取りで、近くにある神社へと入っていった。ここの神社には幼い頃によく遊びに来ていた。確か、ここの神様は――

「蛇神だよ」

 後ろから声が聞こえた。


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