第18話「冒険者の街②」

 冒険者ふたりに絡まれた俺は、念話でアマンダへ話しかける。


『アマンダ、このバートランドもジェトレ同様に過剰防衛はNGなんだよな?』


 ジュリアと旅をしていた時、同じヴァレンタイン王国のジェトレ村でもこんな奴に絡まれた事がある。

 ジュリアをナンパして来た男の態度があまりにも悪かったので、ついカッとなって肩を握り潰してしまった。

 あの時はジュリアに正当防衛に関して諭されたのだ。


 やはりアマンダは頷き、答える。


『はい! 先に攻撃されたら反撃しても構いません、剣を抜いたら最悪殺してもOKです。この国の法律で正当防衛になりますから』


 やっぱりそうか。

 それがヴァレンタイン流って奴だ。


『成る程! 了解』


 このように確認は大切である。

 対処の仕方も決まって来るというものだ。

 俺は怒りに顔を歪めるふたりの冒険者に向かって、再びきっぱりと首を横に振った。


「ああっ、てめぇ! 俺達を知らないのか?」


 冒険者達は凄む。

 俺が怯えて態度を変えればという作戦だ。


「知らないも何もさっき言った筈だぜ、この子達は3人共俺の嫁、だから断わる」


「俺達はなぁ……泣く子も黙るクラン大狼だぜ!」


 こいつら、勝手に名乗りやがった。

 まあ名前なんざどうでも良いのだが。


 それより、俺は断りの意思を示しているのに、奴等は聞こうとしない。

 まあ仕方がない。

 話を合わせてやるか。

 それにしても……


「大狼? その名前はどっかで聞いた事があるぜ」


 えっと!

 俺は暫し考える。

 そして……思い出した。


 ああ、確か大狼って、以前ジェトレ村の近くでぶっ倒した奴等じゃなかったっけ。

 確か、あの後ヴァレンタイン王国騎士隊から強盗逮捕協力の謝礼金を貰った筈だ。

 だけど、こいつらは別人だ。

 同じ名前って何だ?


「大狼って……確か逮捕されて潰れたクランじゃなかったっけ? それにお前等たったふたり?」


「う、うるせ~! 使用禁止の名前が解禁になったから冒険者ギルドへ申請して俺達が貰ったんだよ、それにふたりじゃ悪いのか!」


 ああ、そんな事が出来るのか?

 もしクランが犯罪を犯したら、そのクラン名は無効になるのか。

 しかし、俺だったらそんな縁起悪い名前はパスだ。

 絶対やらない。


 まあ良いや。

 何か脱力した。

 こいつら変だ。

 面倒臭そうな奴等だから、もう係わりたくない。


「…………分かった、お前達は凄く偉いよ。じゃあ、そういう事で」


 俺は嫁ズを促して、行こうとした。

 考えてみれば早く、商業ギルドへ行ってオークションの参加手続きをしなくてはならない。

 教えて貰った日時は確か明後日の筈だ。

 急ぐに、越した事はない。


 しかしクラン大狼はしつこかった。


「ま、待てぃ!」


「何だよ、お前達に構う暇はないの、急いでいるから」


「な、舐めやがってぇ!」

「このヤロー!」


 ああ、こいつら殴りかかって来た。

 よっし! これで正当防衛成立!

 遠慮なく、やらせて頂きます。


 ビシっ!

 ズダーン!!!


「ああっ!」


 ひとりの冒険者……仮にAとしよう、が俺に近付くといきなり倒れた。

 冒険者Aが倒れたのを見て、相棒のBは呆気に取られてる。

 何が起こったのか、分からないだろう。


 分かる人は相当な動体視力を持っているのと……経験者だ。


 フレデリカは倒れた冒険者を見て、眉間に皺を寄せる。


「ああっ、お兄ちゃわんのあれ、結構痛いのよ」


 フレデリカがあれと言ったのは、俺が放ったデコピンだ


 フレデリカは以前、ペルデレの迷宮に潜った際、俺のお仕置きでデコピンされていた。

 姉であるアマンダの悪口を言ったからだ。

 まあこれがきっかけで結婚したのだから運命とは分からないが……


 ここで呟いたのがハンナである。


「……確かに、フレデリカ様のデコピン……痛かったです」


 あれこれあって俺を好きになったフレデリカ。

 人間に惚れた主を見て、俺を罵倒したらハンナが今度はフレデリカから痛いデコピンを喰らったのだ。


「良いじゃない、あれって愛の鞭なんだから、貴女の無知を私の鞭で覚ましてあげたのよ、うふふ……ちなみに『無知』を『鞭』にかけたの」


 フレデリカが得意げに言う、が……


「フレデリカ様の親爺ギャグは全然面白くありません」


 ハンナにきっぱりと言われ、フレデリカは口を尖らせた。

 絶対に揉めるから言えないが、確かにさっむい。


 ここで笑いのツボに入ったのがアマンダである。


「うふふふふ」


 アマンダが笑ったのを見て、フレデリカがまた胸を張る。


「何、言っているの? アマンダ姉には受けているじゃない」


 しかし、アマンダは手を左右に振る。


「違うの、貴女達のやりとりが面白いのよ」


 ハンナが醒めたような視線を、フレデリカへ投げかける。


「ほら、やっぱりフレデリカ様の親爺ギャグは駄目駄目なのです」


「ううううう」


 ハンナに駄目出しされ、犬のように唸るフレデリカ。


「あはははは」


 アマンダは更に大笑いだ。

 いつも笑顔が素敵なアマンダだが、これは笑い過ぎだ。


 こうなると『放置』された冒険者Bは切れてしまう。


「こ、このやろ~」


 ビシっ!

 ズダーン!!!


 今度はフレデリカの必殺デコピンだ。

 冒険者Bは呆気なく意識を手放した。


 フレデリカはにこっと笑う。

 すっきりしたという表情である。


「ふうう、これでいらっとしていたのが消えたわ……」


「おい、こら~っ」


 ここで衛兵がふたりすっ飛んで来た。

 この街の衛兵はいかにも制服という感じではない。

 お揃いの革鎧を着用し、粋な冒険者風の出で立ちである。


 まあこんな時はいつも思うけど、あんた達、遅いっつ~の。


 衛兵達は倒れた冒険者を被害者と見たらしい。

 いきなり詰問口調である。


「何だ、理由もなしに殴り倒したのか? 本当の事を言わないと為にならないぞ」


 いきなりの犯人扱いに、フレデリカはまたもや、いらっとしたのであった。

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