第17話「冒険者の街①」

 ヴァレンタイン王国バートランド上空は快晴。

 雲ひとつ無い大空が広がっている。


 そこへいきなり光り輝く鳥らしき4体が遥かな北から現れた。

 4体は矢のように飛んできたと思うと……すうっと街道附近の雑木林に降りて行った…… 


 バートランド――この街はヴァレンタイン王国の祖、英雄バートクリード・ヴァレンタインが約2,000年前に造った街である。

 バートクリードは自身が冒険者であった事から、魂と肉体を鍛えて人間の限界を超えれば望みは叶うと広言し、人々に自己修練を実践させる為に冒険者ギルドを創設した。


 人々は一介の冒険者から一国の王にまで登りつめたバートクリードに憧れ、敬った。

 その結果、種族や国家を問わず、そのバートクリードの意志に賛同した冒険者達が集まり、バートランドは冒険者の街と呼ばれ繁栄したのである。


 しかしバートクリードと円卓の騎士と呼ばれる者達が亡くなると、産まれた時から貴族として振舞う事が当たり前と考える子孫達は、元々は冒険者であった事など忘れて徐々にこの街の荒々しい雰囲気を嫌うようになった。

 その結果彼等は少し離れた場所に新たな王都セントヘレナを造り、そこへ移ってしまったのだ。


 主であるヴァレンタイン王家が不在となっても、バートクリードが創った冒険者ギルドは健在であった。

 円卓の騎士の中で王都へ移らず唯一残ったドゥメール公爵家がバートランドの領主としてバートランドを守って来たからである。

 お陰でバートランドは今もなお『冒険者の街』と呼ばれているのだ。


 以上が、事前に俺が勉強して得たこのバートランドに関しての知識であった。


 俺達はゲネシスの街を今朝早く出発して、バートランドの正門から少し離れた街道を歩いている。

 珍しく周囲に人は居ない。


 ちなみに大陸の北に位置するゲネシスから南のバートランドまでは推定1,000㎞ ……

 遥かに離れている。


 え?

 俺達がどうやって移動したか?

 それは……


「お兄ちゃわん」


 フレデリカが甘えたように言う。

 菫色の瞳がキラキラして嬉しくて堪らない表情だ。


「私、感動しちゃった! すっごく広くて真っ青な大空を、風を切って飛ぶ事があんなに気持ち良いなんて」


「わ、私もです、ご主人様マスター! す、凄い魔道具ですね」


 驚くハンナも、フレデリカと同じ意見らしい。


 一方、傍らで黙ってうんうんと頷くのはアマンダだ。

 俺とアマンダはもう既に飛翔を体験済みなのである。

 悪魔王アルフレードルから賜った、この素晴らしい魔道具の威力を存分に味わっている。


 そう、今回俺達はバートランドへ来る手段として鷹と白鳥の羽衣を使ったのだ。

 鷹と白鳥の羽衣とは古に繁栄した北の神が造ったといわれる伝説の魔道具……

 アルフレードルによると複製品レプリカらしいが、効力は同じ。

 装着した者は鷹と白鳥に変身して、素晴らしい速度で飛翔する事が出来る。

 その上、俺達が所持するモノはテオちゃんが更に改良してあり、通常に飛翔する以外に転移魔法も使える事が出来るようになったスーパーパワーアップヴァージョンだ。


 今回の旅は最初から転移門を使えば手間と時間はかからないが、今回のメンバーであるフレデリカが強く望んだのである。

 以前、姉貴分のジュリアから羽衣の効用を聞いてからというもの機会があれば使いたいと強く望んでいたらしい。


 フレデリカが未練がましい口調で言う。


「お兄ちゃわん! 私、もう少し大空を飛んでいたかったぁ!」


 確かに大空を目一杯の速度で飛ぶのは気持ち良い。

 だけどこのような魔道具の話を、ぺろっと口が滑ったばかりにどこぞの冒険者が聞きつけてトラブルになるのだけは避けたい。


 だからフレデリカも含めて、俺は嫁ズへ口止めする。


「俺もそう思うよ。だが他人が居る場所では絶対に喋らないようにしてくれよ……皆も徹底してくれ」


 フレデリカが顔をしかめて唸る。


「分かった……うう、この感動を他人へ喋れないなんて辛いけど我慢するわ」

 

「かしこまりました、旦那様」

「了解です、ご主人様マスター


 アマンダとハンナも続いて了解してくれた。 


 そんなこんなで暫し歩くと冒険者の街バートランドの高い城壁といかめしい正門が見えて来る。

 俺が目で合図をすると、アマンダ、フレデリカ、ハンナが頷く。

 いかにも長い旅をして来たかのように、ちょっと疲れた風情でバートランドの街の正門に向うのだ。


 正門で辺りを睥睨しているのは衛兵というよりも冒険者の戦士という出で立ちの門番担当の衛兵達だ。

 そしてこれもまた粋な革鎧を纏った役人達が街へ入る為に行列を作って並ぶ人間をチェックしている。

 

 いくつか行列があったが、どこに並んでよいか分からないので俺達は冒険者達が多く並んでいる行列に並ぶ。

  行列の進みは結構早かった。

 担当の役人は20代半ばくらいの人間族の女性で一見華奢ながら、バランス良く筋肉がついていた。

 この若さで責任ある立場を任されているという事はなかなかの『腕』なのだろう。

 若い女性にしては堂々としていて、顔付きもふてぶてしいものがある。


「冒険者の街、バートランドへようこそ! 歓迎しますよ、イケメンさんに美人さん達!」


 俺達は事前に取得しておいた冒険者ギルドのランクカードを提示した。

 これは自分達の実力を証明すると同時に、全世界共通の身分証明書も兼ねている。


 ちなみに俺達は全員ランクBだ。

 ランクBに達していない者は、改めて冒険者ギルドの認定試験を受けたのである。

 

 正門をくぐって中に入ると昔からの街らしいたたずまいを感じる。

 2,000年の歴史を感じさせる重みがある。

 古代遺跡が混在する新築ラッシュのゲネシスとはまた違った佇まいだ。

 

 見渡すと、周囲に居るのは俺達と同じく、この街に着いたばかりの冒険者が多いと思われた。

 しっかりとクランを組んでいるらしい4,5人のグループ以外はきょろきょろ辺りを見回してしているからだ。

 このきょろきょろには大きく分けてふたつ目的がある。


 ひとつはスカウト。

 クランメンバーが足りないクランやフリーの冒険者が逆に手頃なクランに当たりをつけるためだ。

 そしてもうひとつは……


「おい、ガキ! 美い女3人! それもアールヴばっかり連れやがって!」


 お約束の嫌味兼ナンパだ。

 冒険者がふたり、俺達をねめつくような目で見ている。


「お前には勿体無い! ここはバートランド、自由恋愛の街だ。男の魅力満載の俺達に口説かせろや」


 しかし俺も嫁ズもこういう手合いはゲネシスの街で散々慣れっこである。


「……悪いが、3人共俺の嫁だ。断わる!」


 当然ながら、俺はきっぱりと断わったのであった。

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