第16話「抱きしめたい!」

 俺の嫁、ジュリアはさすがだ。

 商人としてキャリアは浅いながらも、いわゆる叩き上げである。

 

 俺の嫁ズの中心に居るのは伊達じゃない。

 最初に俺の嫁になったからという理由だけでもない。

 気配りや優しさは勿論、度胸も充分あって6人居る嫁ズの纏め役をやっているのだ。


 今回も俺が一旦案件を受けた後で、シュルヴェステル様に対していろいろと交渉してくれたのである。

 結果的に、これがとても助かったのだ。


 俺は教訓を得る事になる。

 このような案件は条件を詰めずに安易に受けてはいけない。

 たとえ目上の身内であっても!


 ジュリアのシュルヴェステル様に対しての追加交渉は多岐に渡り、言葉は丁寧で柔らかかったが要求自体は強気であった。


 もしも宝剣を落札出来ずともペナルティは一切なし。

 手数料と税金はシュルヴェステル様が別途負担する。

 そして多めの予算1億2,000万アウルム完全前払いとバートランドへの交通費、宿泊費を含んだ費用も別途請求可能……


 以上の申し入れをして、何と!

 全てを認めて貰ったのだ。


 凄い! のひと言である。

 詳細なスケジュール確認と共に、俺がやりやすいように段取りをしっかりと組んでくれた。

 そんなジュリアの交渉に刺激されたのだろう。


 アールヴ族の身内であるアマンダとフレデリカもシュルヴェステル様へ頼んでくれた。

 しかもフローラさんまでが俺の為に口添えしてくれたのである。

 ああ、どこへ行ってもやっぱり人脈は大事だ。


「ではトールよ、頼んだぞ」


 ヴァレンタイン王国の都市バートランドでのオークション代理参加を頼んだシュルヴェステル様は、笑顔で手を振り、フローラさんと共に帰って行った。


 残った俺達はこれからの事を打ち合せる。

 ちなみに店舗に関しては全く文句無しなので、フローラさんにはぜひ賃貸したいと申し入れしておいた。

 何せこの豪華で立地最高の店舗が賃料がタダなのだ。

 身内びいきといわれようが使えるモノは使う。

 不正な事をしているわけではないし、全然気にしない。


 さあて、まずは人数を分けなくてはならない。

 俺と共にオークションに参加する為にヴァレンタイン王国バートランドへ行く者と、このゲネシスに残って開店準備をする者にだ。


「旦那様、ここはあたしに任せて!」


 またもやジュリアが仕切り役を買って出てくれた。


 エドヴァルド父はアイリーンさんと共にまだ時間には融通がきくと店内に残っている。

 先程のシュルヴェステル様への交渉といい、妻達を纏める姿といいジュリアの成長が嬉しくてたまらないらしく、愛娘の姿を頼もしそうに見守っている。


「ええっと……旦那様と一緒にバートランドへ行きたい人!」


 ジュリアが嫁ズに挙手を求めた。


「はい」

「行きたいっ」

「はいっ!」

「は~い」

「お供したいです!」


 予想通り全員が手を挙げる。

 まあ当然だろう。


 しかしジュリアの仕切りが上手いのはここからだ。


「旦那様がバートランドから帰って来たら、今回の留守番組が入れ替わりで竜神国へ行く事にしたから」


「わああっ」

「ええっ!?」

「迷いますわ!」

「どちらも行きたい!」

「どことでも」


 嫁ズの悲鳴?が交錯する。

 留守番組の竜神国行きを提案するとは、不公平さを失くすアイディアでグッドだ。

 どちらを選択するかは自分なのである。


 だが驚いたのはエドヴァルド父である。

 まさかジュリアが自ら『里帰り』を言い出すとは全く予想していなかったからだ。


 エドヴァルド父は思わず叫ぶ。

 声がうわずっている。


「おおっ! ジュ、ジュリア! お前、里帰りしてくれるのか!?」


「うん! お父さん、あたしはお父さんの生まれた国へ行ってみたい……あたしの第二の故郷を見てみたい。それに商売も上手く行きそうな気がするから」


「や、やったぁ! ジュリアが来る、ジュリアが竜神国へ来るぞぉ!」


 オーバーアクションで喜ぶエドヴァルド父。

 くすりと笑うアイリーンさん。


 ジュリアもにこにこしていた。

 大きな鳶色の瞳が栗鼠のように可愛い。

 日に焼けた健康的な肌が眩しいぞ。

 ボーイッシュな栗色のショートカットで健康系美少女の魅力が炸裂って感じ。

 ああ、愛おしくなってしまう。


「うふふ、皆良い? と、いうわけであたしは今回、留守番組。お店の開店準備をするから。じゃあ改めて希望をとります。あたしと一緒に竜神国へ行きたい人は?」


「はぁい! わらわは竜神国希望じゃ!」


 最初に勢いよく手を挙げたのはソフィアである。

 金髪碧眼のフランス人形みたいな可憐さと気高さを兼ね備えているのがソフィアの魅力。

 それでいてベタというくらい家族思いの優しい少女。


「バートランドにはいつでも行ける! 竜神国はそうそう行ける場所ではないじゃろう」


 ソフィアの言う事は一理ある。

 実は竜神国はこの世界には存在しない。

 悪魔王国同様、異界にあるのだ。


「じゃあ私も竜神国希望! 魔界と違う異界って興味あるわ」


 続いて手を挙げたのはイザベラである。

 イザベラの希望を聞いてまたまたにっこりしたのがエドヴァルド父だ。

 かつてジュリアを無理矢理連れ去ろうとした時、厳しく嗜められたのを機にイザベラには一目置いている。

 はっきりいって『好み』らしい。

 シルバーの髪をなびかせるクール系美少女がお好み?

 それとも侠気溢れるスカッとした性格が? 

 まあ変な意味ではないだろうが。


 元気一杯で手を挙げたのはフレデリカだ。

 相変わらず神秘的な可憐さをふりまいて、アールヴの妖精チックな魅力満載である。

 どんどん俺へ甘えてくれ!


「はいっ! 私はバートランド希望よ! お兄ちゃわんと離れたくないし、お祖父様のご依頼だし!」


「で、あれば……私もフレデリカ様にお供致します」


 こうなると元従士だけにハンナはフレデリカに追随した。

 ハンナは栗毛で鳶色の瞳。

 ジュリアのアールヴ版って感じで健康的な魅力が堪らない。

 抱き締めると若草のような香りがする。

 

 そして……

 ここまで発言を控えていたのが、アマンダである。


「じゃあ私はバートランドへ……久々に行くのが懐かしいわ」


 そうか!

 アマンダは元冒険者。

 そして冒険者ランクBの腕前。

 

 この輝く美貌と、ぶるんとした柔らか巨乳は眩し過ぎる。

 なのに、リョースアールヴとデックアールヴの子供は呪われている!

 Hしたら即座に死ぬ! なんて、くだらない迷信があって本当に良かった。

 本当はこんな事は言っては不味いのだろうけど、お陰でこんなにい女が誰にも口説かれずにいたのだから。


 もしも竜神国行き組になってもアマンダは快くOKしていただろう。

 最後まで発言を控えたのは他の嫁ズに選択を譲った為だ。


 アマンダは相変わらず優しい!

 言うなれば大人の気配りである。

 

 ああ、嫁ズが皆、超可愛く見えて来た。

 

 全員を抱き締めたい!

 

 おっと、不謹慎だが下半身がムラムラして来る。

 しょうがないよね、健康男子だから。


 だが、いかん!

 今は仕事モードであった。

 夜まで我慢、我慢。

 俺は首をぶるぶると振る。

 

 それに俺はまだまだ力不足。

 愛しい嫁ズに助けられっぱなしではいかん。

 頑張って勉強して、経験も積んで一人前の商人にならないと。


 そんな嫁ズを見れば中心でジュリアが大きく頷いている。


「よしっ、じゃあこれで決まりだね!」


 場を締めるジュリアのひと言でこの場はお開きとなったのであった。

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