第13話「最強アールヴ登場」

 俺達はフレデリカが手配してくれた店舗をくまなく調べ、チェックした。

 地上3階、地下1階……この店舗はドーマータイプと呼ばれる石造りの建物である。

 ドーマーとは屋根窓を指し、屋根から窓が突き出た様式だ。

 前世でもお洒落なアパートメントか何かで見た事がある。


 ドーマータイプは、この異世界で金持ちが建築する際に採用する仕様だ。

 内装も当然お洒落であった。

 壁は清潔な白壁で表面はすべすべして綺麗である。

 1階は販売用の商品展示専用、2階部分も店舗として使うが、間仕切りを造ってミニオークション用の会場と、個人面談用の部屋を置く事を考えている。

 3階は事務所として、会議室も配置する予定だ。


 しかし重大な事が決まっていない。

 それは、この店の名前……店名だ。


 まず口火を切ったのはジュリアだ。


「まず、あたし達のクラン名、バトルブローカーは……このお店にはそぐわないよね」


 確かにバトルブローカーは冒険をする時は良い。

 だけどこの店には相応しくない……と思う。

 案の定他の嫁ズも同意する。


「確かに……」

「ちょっと……」

「お客さんと戦うとか……うふふ、ある意味戦うかも」


 最後にアマンダが面白い事を言ったが、バトルブローカーは却下。

 と、なると各自に思うところを挙げて貰おう。


「じゃあどんどん言ってみてくれよ」


「「「「「「了解!」」」」」」


 嫁ズが返事したのを見て、エドヴァルド父も命名の参加を打診して来る。


「面白そうだな、私達も参加して良いか?」


「全然OKですよ、アイリーンさんも良かったら店の命名に参加してくださいよ!」


 俺は当然ながら、快諾した。

 そして秘書のアイリーンさんにも声を掛けたのである。


「え? 私も?」


 参加を要請されると思っていなかったのだろう。

 アイリーンさんは一瞬戸惑った。

 しかし俺は重ねて参加をお願いする。


「はい! ぜひ」


 俺のアイコンタクトでアイリーンさんも意図が分かったようだ。

 先程のジュリアといい、俺といい「エドヴァルド父の事を宜しく!」と言いたいのだ。

 今回の件はエドヴァルド父の亡妻ミレーヌへの思いを強くしてしまったが、俺とジュリアはアイリーンさんの事を応援したいとエールを送ったのだ。

 エドヴァルド父にはこれからずっと公私とも支えてくれる人が必要だからだ。


「分かりました……ありがとうございます、トール様」


 と、いうわけでこの場に居る全員参加で店名の相談が始まった。

 まずはイザベラの提案でスタートした。


趣味ストラディウム


 イザベラの提案に対して、首を傾げたのはジュリアである。

 相変わらず大反則で可愛い。


「趣味か……ストレート過ぎない?」


 ジュリアが否定するとイザベラが反論する。


「ジュリア! 否定するなら案出ししてよ」


「じゃあ奇跡ミーラークルム


「奇跡って私達、神様じゃないし! と、いうか私は悪魔だもの」


 イザベラが不満そうに頬を膨らませた。

 シルバーの美しい長髪がなびく。

 可愛いな、こいつ!

 それに言っている事はごもっとも。

 納得だ。


「ええっと……じゃあ、感謝グラーテース


 ジュリアが代案を出すとイザベラも追随する。


時代アイタースってどう?」


 ここはふたりをフォローだろう。

 気分良く考えて貰わねばならない。


「両方とも、いい線行っているかな」


 俺が褒めたので他の嫁ズも参加を開始した。


不滅ペルペトゥスというのはどうじゃ!」と、ソフィア。


 金髪の髪がさらっさら。

 綺麗だ!

 碧眼もキラキラ光ってる。


「良いと思うぞ」


 名前は良いが、店名にはちょっとピンと来ないかな。

 しかし否定はしない。

 俺が褒めたのを見て……


「じゃあ、私! お兄ちゃわん、運命ファートラムとかどうかしら!」と、フレデリカ。


「うん、良いかも!」


 俺が相槌を打つと……


「運命なんて……あんまり店名が重過ぎるとお客さんが構えちゃうわ」


 ここでアマンダのチェックが入った。

 姉の指摘に今度はフレデリカが首を傾げる。


「そうかなぁ……」


 金髪からアールヴ特有の小さな耳がちょこん。

 ああ、こいつもジュリア同様、このポーズは大反則で可愛い。

 ここでアマンダが提案する。


「じゃあ、私も……旅人ウイアートルとか……どうかしら?」


「旅人って……アマンダ姉、それって宿屋みたいな名前だよ」


「うふふ、駄目?」


 アマンダの「てへぺろ」

 そしてぶるんと巨乳が揺れた。

 これも大反則だろう。

 癒し系お姉様の最高峰と言って良い。

 そんなこんなでわいわい言っていたら……いきなり凄い気配が!


「おっと……いらっしゃったみたいだぞ」


 俺達が居る店舗の少し先に凄まじい魔力を感じる。

 アールヴの最高権力者ソウェル、シュルヴェステル・エイルトヴァーラが現れたのだ。

 そしてアールヴ女性がふたり。

 ひとりはこのゲネシスの町長フローラ・エイルトヴァーラで、もうひとりはフレデリカの命令でシュルヴェステルとフローラを呼びにやった俺の嫁ハンナだ。


「お祖父様をお迎えに行きましょう、フレデリカ」

「はい! お姉様」


 自分達の偉大なる祖父の登場にアマンダとフレデリカが走り出していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 小柄で華奢な体格。

 アマンダやフレデリカと同じ綺麗で長い金髪。

 澄んだ碧眼に鼻筋が通って整った顔立ち。

 ハリウッドイケメン俳優が究極的に渋くなった雰囲気。


「おお、トール久し振りじゃな。ああ、エドヴァルドも居るのか? 皆、元気そうだ」


 シュルヴェステル・エイルトヴァーラ……7千年近く生きているアールヴ族の長である。

 フローラさんとハンナと共に現れたシュルヴェステルは相変わらず神々しかった。

 間近に来られるとはっきり分かる。

 圧倒される魔力波オーラのスケールは悪魔王アルフレードル以上なのだ。


 しかし俺から見たら頼もしく気の良い爺ちゃんでもある。

 シュルヴェステル様はにこにこしながら、いきなり爆弾を投下したのだ。


「アマンダ、フレデリカ、儂の可愛いひ孫はまだかな?」


 ああ、それってセクハラ発言。

 でもこの異世界でアールヴ族にそんな理屈は通じないか。


 だがアマンダとフレデリカは祖父を諌める。


「ソウェル! ……そのような事を仰ってはいけません」


「そうだよ、お祖父様! 私達まだまだお兄ちゃわんと新婚生活を楽しみたいんだもの」


「ははははは! ところでこの場には幸せの魔力波オーラが満ちておる。ふうむ、出所はジュリア、そしてエドヴァルドか!」


 さすがにシュルヴェステル様だ。

 来たばかりで状況を見抜いてしまうとは。


「ははは、良ければ話してくれないか? 多分、お前達の始める新たな商いに関係のある事なのだろう?」


「私もぜひお聞きしたいわ」


 フレデリカの母であるフローラさんも興味津々のようだ。

 女性は幸せに敏感だから。

 機嫌がとても良いのか、俺に満面の笑みを向けて来る。


「さすがはシュルヴェステル様です。実は……」


 エドヴァルド父は自分の過去、そして先程起こった奇跡を静かに語り出したのであった。

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