第12話「フレデリカ、まかり通る!」
俺達は屋敷を出て、今、ゲネシスの街中を歩いている。
「お兄ちゃわん、こっち!」
フレデリカが甘えた声を出して、俺の手を引っ張った。
これから俺達はフレデリカが手配したという俺達の店の店舗の候補を見に行くのだ。
しかし!
「おおっ! フレッカだ! フレッカが歩いている! フレッカー!」
「本当だ! フレッカだぁ!」
「フ~レッカー、フ~レッカー」
人間の冒険者が目を丸くしている。
フレデリカと同じアールヴの美少年が大きな声をあげている。
アールヴとは宿敵な筈のドヴェルグの鍛冶師がにこにこして手を振っている。
俺の嫁、アールヴの美少女フレデリカは超有名人だ。
彼女の故郷であるアールヴの街ベルカナではファンクラブがあったくらいだ。
それも同じアールヴなら分かるが、人間のファンクラブである。
フレデリカ人気恐るべし! と、いったところだ。
ちなみに『フレッカ』とはフレデリカの愛称だ。
そしてご覧の通り、この
そう、数多の種族が会員となったフレデリカファンクラブがだ。
当然俺は認めていない。
つまり非公式ファンクラブだ。
誰もが想像した事があるだろう。
もしアイドルが自分の嫁になったらと。
それは大体が夢という虚しい妄想に終わる。
転生する前の俺もそうだった。
だが、今の俺にはリアルな現実だ。
「うふふふ……」
「ははは」
俺とフレデリカが歩く後方から笑い声が聞こえる。
振り返って見てみる。
俺の嫁のひとりであるジュリアと彼女の父、竜神族の王エドヴァルドが手を繋いで歩いていた。
昨日、俺達が持ち帰った悪魔ベリアルの財宝の中にサプライズがあった。
ジュリアの母の形見である碧玉を載せたミスリルの結婚指輪が入っていたのだ。
亡き妻が戻って来た。
ジュリアとエドヴァルドの喜びようは半端ではなかった。
そして少しやりとりがあった。
その指輪を誰が所持するかである。
結婚指輪という事でエドヴァルド父はジュリアが左手につけるべきだと主張した。
愛娘に、亡き妻の指輪を受け継いで欲しかったのである。
しかしジュリアは首を横に振ったのだ。
「この指輪はお父さんがつけるべきよ。いつもお母さんと一緒に居られるから」
「でも……」
「うふふ、大丈夫。あたしには旦那様が居る。結婚指輪もほら、もうしているから」
ジュリアは俺から贈られた守護の指輪を見せた。
地味な銅製の指輪。
僅かながら守護の効果がある魔道具だ。
最初に俺がジュリアとイザベラへ贈ったものであり、その後も俺の嫁には同じ物が贈られている。
しかしエドヴァルド父は何とかジュリアへ贈りたいらしい。
「これはミレーヌの形見だ。だから……」
「だからお父さんが持つべきなのよ。そうしたら……頑張れるでしょ!」
「……良いのか? 本当に?」
「いいの! お母さんに会いたくなったら、お父さんに会いに行けば良いから」
「それって!」
ジュリアはにっこり笑う。
父親にとっては最高の瞬間だろう。
――そんなやりとりがあって、指輪は今、エドヴァルド父の左手薬指に、はまっている。
サイズ?
魔法の指輪は持ち主に合わせて自由にサイズが変わる。
とっても便利なのだ。
「お兄ちゃわん! 駄目!」
フレデリカが俺の袖を引っ張った。
「もうよそ見しちゃ駄目! 午後はジュリア姉ではなくて、私のパートなんだから!」
「おお、御免!」
「冗談よ! 私もさっきは感動したからOK。ああいったものを一杯扱って、いろいろな人達を幸せにしてあげよう」
「ああ、そうだな」
フレデリカはやる気になっている。
俺達は「急いで!」と促すフレデリカに従い、店舗へ向かったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うっふふ~ん」
フレデリカが得意げに胸を張っている。
俺達が案内されたのは
当然新築で地上3階、地下1階の大型貸し店舗だ。
眩しそうに店内を見渡すジュリアに、フレデリカが言う。
「良いお店でしょう、お姉様」
「ええ、凄いわ……でもどうして?」
何故、このような優良物件が空き店舗のままなのか?
俺と同じ疑問をジュリアも持ったようである。
それには理由があった。
フレデリカが説明してくれる。
「こんなに良い立地でしょう? 当然問合せが殺到して今でもず~っと続いているわ」
ジュリアが納得してうんうんと頷いている。
「やっぱり! 絶対そうでしょうね」
そんなジュリアの仕草を見て、フレデリカが得意げに胸を張る。
「でもぉ! 私の為にお母様が一切断わっていたので~す」
「ええっ!? フローラさんが?」
フローラさんと言うのはフレデリカの母でこの
この街の店舗は全て貸し店舗であり、アールヴの所有となっている。
土地の権利等で街が外部の者達から侵食されないようにとの防衛策である。
ちなみに店子の借地権等の譲渡も一切不可となっている。
「うん、私がお兄ちゃわんといずれ商売をやるって常々言っていたからぁなので~す」
身体が反り返るくらい胸を張るフレデリカ。
さすがのジュリアも圧倒されたのか、たじたじだ。
「う! そ、そうなの?」
「は~い! 私、燃えてますよぉ。絶対にお父様やお兄様には負けません!」
フレデリカの父マティアスと兄アウグストはエイルトヴァーラ商会を創業して手広く商売をやっている。
元々は息子が最初に商売をやりたいと言い出して最初は戸惑った父ではあったが、次第に自分も同じ事をやりたいと感じたらしい。
結局は親子でアールヴの商会を創ってしまったのだ。
人間族、竜神族、そして裏ルートで悪魔族との交易ルートが出来上がっていたので商売は順調に行っている。
超美少女ながら、フレデリカは大変な負けず嫌いだ。
商売をやるのなら父や兄に絶対負けたくないらしい。
「お兄ちゃわん、それにお姉様方、気に入ったならこの店舗で即契約だね。これからお母様、そしてお祖父様もお店へ来るよ」
「ええっ!?」
「さっきハンナに命じて呼びに行かせましたから」
凄い手廻しの良さだ。
しかしアールヴの長であるソウェルも呼ぶということは……
「フレデリカ、町長のフローラさんはともかく、シュルヴェステル様までいらっしゃるの?」
「ええ、お祖父様ったら、今日は絶対に大事な何かが起こるので、この街へ来るって前々から予定を入れていらっしゃったわ」
それって予言?
なんちゅう能力だよ。
「とりあえずもう少し店内を見ませんか……でも家賃って、一体いくらかしら?」
こんな時に冷静な判断をしてくれるのが、元宿屋の女将アマンダだ。
フレデリカと父を同じくする異母姉妹である。
「ふふふ、この私に抜かりはないですわ、アマンダお姉様。勿論、家賃はタダなので~すっ!」
「「「「「「「「ええええっ!?」」」」」」」」
家賃が……タダ?
フレデリカの衝撃発言に、俺の嫁ズ以外のエドヴァルド父とアイリーンさんも吃驚して大声をあげていたのであった。
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