距離を置く様になっても、桃が気がかりだった。あんな風に女性に感情を露にされたことは初めてだったし、驚いて拍子抜けしたという気持ちもある。

だけど、これ以上、自分から連絡することは、できなかった。

一週間が過ぎた後、桃から連絡がきた。

『初めてデートした喫茶店で会いませんか』

僕は迷ったあげく、二日後に、うん、とだけ返信をした。

十六時に午後休をとり、久しぶりに午前中をゆっくりと過ごし気持ちを落ち着けて、僕は約束の時間、十八時よりだいぶ前に、喫茶店に来ていた。

学校帰りの子供達の陽気なはしゃぎ声が、外から聞こえてきた。夏休みだからだろう。

最初にここへ来た時、桃は何を頼んだんだっけ……。

考えていると、マスターが近づいて来た。

「ご注文は」

店内は、閑散としている。

「アールグレイティーと、チーズケーキを」

「かしこまりました」

別れ話をするなんて、マスターは一ミリも頭にないだろう、と思いながら、平和な雰囲気の中、腕時計を気にしていた。

小説を読みながら、時間を潰していると、店内にカランコロンという鈴の音が響いた。

腕時計は、十七時四十五分を指している。

桃は目の前の椅子に腰をかけて、口に手を当てて、微笑んだ。

「紅茶とチーズケーキ。初めて会った時と、同じ」

桃の笑顔は、太陽のように眩しい。

「私も、そうしようっと」

声をあげて大泣きしていた桃が嘘のように、晴れやかな表情だった。

まるで、どしゃぶりの雨の後の晴天のように。

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