第7話
放課後。
4人はスターバックスにて対策会議を開いた。その前に、リカの携帯電話の中身をプリントしておく。
「佳乃。改めて聞くけど。解放されたいと本気で思ってるの?」
「そりゃ思うけど、あいつら人も殺すんだよ」
佳乃は叫びたいのを押し殺して、低い声で言った。清楚なルックスとはちぐはぐに。
「え。なにそれ!?」
リカが食いついた。詩織も佳乃を見ている。
「春に3年生が死にましたよね?」
リカと詩織はぶんぶんとうなずいた。
「あー、あたしそいつと同じクラスだったのよー。だから死んでしばらくたった後も警察に聞かれたよ」
リカが伸びをする。詩織が彼女のわきをつついた。
「あたしその人が死ぬ前の日にその人と寝たんですよね」
「それとヤツの死がどう関係あるの?」
リカはわからないという顔。
「その人あたしのこと心配そうにしてたんです。だから和田に美人局やめさせようとして奴に殴られて殺されたんじゃないかと……」
「それ警察に話した!?」
「話してません……あたし警察に何も聞かれませんでしたし、テレビのリポーターには聞かれたんですけど」
「今から警察行って話そう」
リカがエキサイトするが、
「警察に言ったら、『年少出たらお前につきまとって縁談から就職から全部ぶっ壊してお前の親父も会社にいられなくしてやる』って和田が言ってましたからね」
佳乃はうつむいている。
「ダメだよ。警察行かなきゃ」
「今から行こう」
「そういう狡猾な奴ほど警察に突き出さなきゃ」
詩織がお嬢さま風の外見に似合わない発言をしてから、
「美咲、あんたひとりで佳乃ちゃんを守るなんてヒーロー気分でいたかもしれないけど、奴らは裁かれるべきだと思うわ」
リカが最年長らしくまとめた。
地元の警察署の入り口で、4人は1度足を止めた。
「いい? 行くよ」
「リカ、落ち着いて」
「大丈夫です。すみません、つきあっていただいて」
佳乃は吹っ切れた顔でこう言った。
「女性の刑事さん呼んでもらおうね」
「ありがとうございます」
「男の刑事じゃ性犯罪についてろくでもないこと聞くって言うよ。今回は『一緒になって札びら数えてたんだろう』とか言うに決まってる」
「先輩どこでそんな言葉覚えてきたんですか」
いつものように美咲がツッコミを入れたところで、
「ちょっと入り口で何してんの。邪魔だからどいてくれないかな」
と、グレーのスーツを着た、たたき上げの刑事風の男が通りかかって4人に言った。
「すいませーん」
とリカが笑ってごまかし、彼は通り過ぎる。
「ところで警察と言ってもいろいろあるでしょ。何課に言ったらいいのかな?」
「被害者も加害者も高校生だから少年課でいいんじゃない?」
「詩織先輩、あったまいいー」
「さ、みんな電源切って。行きましょう」
褒められて赤い顔をしている詩織が言うと、全員が携帯電話の電源を切って、歩き出した。
窓口で対応した女性は、4人の制服を見てハッとした。
少年課の女性の警官にお話したいことがあるのですが、というと、すぐに通してくれた。
薄いグレーの、打ちっぱなしの壁。
その壁にたくさん貼ってある貼り紙。
狭い応接室で女性3人を前にして佳乃がぽつりぽつりとしゃべる。
佳乃が話している間に、先ほど4人を注意したグレーのスーツの男が入ってきた。
4人はあっと言う顔をし、男は、
「また会ったね」
と笑い、こう続けた。
「少年課課長の横沢です。よろしく」
「課長、実は……」
と1人の女性が横沢に耳打ちすると、彼は言った。
「若い男3人と女の子による美人局の被害は、もう3年ほど前から20件くらい届け出があるんだよ。佐々木、ちょっと資料持ってきて」
「はい」
と言って佐々木と呼ばれた女性警官は消えた。
3分で佐々木巡査はひとかかえの書類を持って現れた。
「まずこちらを見てください」
と言って彼女が出したのは鉛筆描きの絵、数枚だった。
「似てる……」
後ろに控えていた美咲たち3人も絵を覗き込み。驚いた。
描かれていたのは和田たち3人と、
「これあたしだ!」
佳乃は叫んだ。
後ろでリカが鞄をごそごそ漁っている。
「被害者から特徴を聞きながらこちらの安永巡査が描いたんだ。そんなに似てるかい?」
「似てます!」
「これ見てください!」
リカが声をあげた。
リカが出したのは、携帯電話で写した、和田たち3人に佳乃を足した、4人の写真だった。
見て横沢課長は優しく言った。
「これまで届けを出してくれた被害者に来てもらって、この写真を見てもらう。あ、園川さんには彼らの顔を見るためにここに来てもらうからね。この写真は預かっていいよね?」
この横沢課長は、刑事ドラマで「ホトケのなんとかさん」とか呼ばれそうなタイプだ、とリカは思った。50代に見える。
「じゃあこれを参考にしてまた捜査を続けます。どうもありがとう。
被害者のアポが取れたら電話するんで、ここにまた来てくださいね」
「はい」
「逮捕できないんですか?」
「まだ……園川さんに顔見てもらってからね」
その時ドアがばたんと開いた。 「課長、ちょっと……」
と言って、いつの間にかここから姿を消していた女性の警官がひとり戻ってきて、横沢課長に耳打ちした。
「そうか……。
風が吹いてきたな」
「どうかしたんですか?」
「リカ、私たちには関係ないでしょ」
いつものパターンを始めたリカと詩織だが、
「いや、あるよ。7時のニュース見てごらん。今入ったこの話題で持ちきりだから。楽しみにしてなさい」
横沢課長が言う。
佳乃たちは顔を見合わせた。
佳乃が帰宅してみると、千歳がぱたぱたと、
「大変大変、和田さんのお父さん逮捕されちゃった」
と言って玄関に出てきた。
「ええっ!?」
と言った佳乃は、数拍置いて、横沢課長が言ってたことってこれだったのかな、と思った。
着替えもしないでテレビにかじりつく。
「ちょっと佳乃さん、着替えてきて。テレビ見るんなら台所手伝いながら見て」
千歳が言ったので、
「はあい」
2階に上がった佳乃は、「動き出すな」と思いながら着替える。
携帯に電源入れてメールチェックすると、和田ばかりメールが12件。
ちょっとため息。
で、佳乃は夕食をつくる千歳の手伝いをしたのだが、妹・理緒の方がさっさと動くため、
「普段うちにいないからよ。これから手伝ってもらいますからね」
と彼女に言われ、3人でカレーライスとシーザーサラダを食べ終わった後で、父が帰ってきた。
テレビが、
『今日午後0時12分。衆議院議員和田弘行容疑者が東京地検特捜部に……』
と言うのを父が遮る。
「おい、大変なことになったな」
「和田さんのこと? なんで知ってるの?」
「タクシーの中のラジオで知ったんだ」
「お父さん、ちょっと話したいことがあります。理緒には席外してもらっていいですか?」
佳乃の顔がいつになく真剣なのを見た父は、
「じゃあ俺の部屋に行こう」
「あ、いいですよ。理緒、一緒に部屋行きましょう」
そして、二手に分かれた。
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