第19話
「夏休みまで残り少ないからってまだ一学期は終わってないんだからな。しゃきっとしろよ、しゃきっと」
授業後のホームルームでミスターが喝を入れているが、浮き足立つ生徒たちには馬の耳に念仏であった。僕はホームルーム終了とともに教室を出た。教室から出る間際、竹中の様子を横目で伺うと、彼は不良仲間と大声で猥談中だった。彼は小さい子どもなんだ。目の前に玩具がぶら下げられると、喜んで飛びつく。次の玩具が現れるともう前の玩具のことは忘れてしまう。彼にとって柳川系も僕達も玩具同然の対象なのだ。悔しいなんて思わない。あんな奴ら、構うだけ時間の無駄だ。
正門を出て西高生が列をなす通学路からは外れて、川原へ向かう。西高の南側の川原が僕たちのたまり場だった。
蒸し暑さだけが原因でない苛立ちの中を歩く。
土手を下ると川の流れが目の前に広がった。僕の荒れた気持ちとは正反対に今日も多摩川の流れは穏やかだ。きらきらと太陽のかけらを水面に弾かせている。絶えることなく流れ続ける川の流れは、悠久なる大自然の営みを感じさせてくれる。台風が来る度にあれ程の濁流になるとは、今の流れからは想像も出来ない。
川縁の消波ブロックの上に正也とあずさは座っていた。この消波ブロックも、梅雨前までは川の底に沈んでいたし、ジャンプで渡れる程目の前に迫った中洲もこの前まで随分向こうにあった。川の流れは昔から変わらず海に向かって流れていくのみなのだが、僕たちの縄張りであるこの狭い多摩川は季節や天候によって表情を変える。 二人が座っている場所は夏になると生い茂る草木のおかげで、土手の上からは見つけにくい場所なのだが、僕にとっては毎度の場所なのですぐに二人の場所を見つけることができた。
「よう」二人に声をかけ隣のブロックに腰掛けた。
正也は僕の方も向かず対岸の草野球場の辺りをぼんやり眺めている。それは僕も同じで正也の隣に座ったからと言って何かを言うわけでもなく、おんなじように黙って川の流れを眺めていた。
しばらく対岸のグラウンドの金属バットや歓声を聞いていた。口を開いたのはあずさだった。
「笹井さんのこと、聞いたよ」
こちらの表情を探り探りあずさは切り出した。
「こういうのって変な噂なんかで聞きたくはなかったけどね」
「ああ」僕は水面を見つめたまま答えた。
「笹井さん、帰っちゃったんだって?」
「体調崩した。ってことになってるけどな」
ホントはショックで帰ってしまったんだと思うけど。
「そうなんだ……。酷いこと言われたの?」
「竹中の野郎、ぶん殴ってやればよかったのによ」
正也がぶっきらぼうに言う。
「んなことしねえよ。竹中は笹井には絡んでないし。あいつとやりあっても面倒くさいだけだし」
苦笑気味に返す。僕は喧嘩なんてしない。面倒ごとを起こしたくない。いや、クールを装っているけど、ホントは怖いんだ。勿論そんなこと言わないし思わないようにしている。考えなければ思っていないのと同じだから。
「俺だって、なんで笹井があんな風になっちゃったのか、わかんねえもん」
今日のことを思い出しながら僕は話し始める。
「一時間目が終わった時にクラスの女子数人が俺の所に来たんだ。普段だって女子とも普通に会話はするけど、「明信君……。ちょっといい?」なんて意味深に上目遣いの女子が寄ってきたら、そりゃ何かあるのかなって少し緊張もするじゃん。自然に振舞おうと思って、出来るだけ普通に「なんだよ」って言い返したんだけど、その言い方もちょっと気障っぽかったかなとか、どうでもいいこと考えたりしてたんだ。そしたら、「今日の朝笹井さんと歩いてたでしょ」って言われたんだ。寝耳に水って感じで、なんて返そうかちょっと迷ったよ。でも、その女子の聞いてきた感じも、全然嫌らしさとかなくてさ。俺はこれをきっかけに笹井もクラスの輪に入れるんじゃないかなって思ったんだ。あ、女子女子って言ってもわかんねえよな。松本だよ。わかる?」
「胸でかい子だよな」
正也は相変わらずそんなことしか言わない。無視して続ける。
「あいつ結構裏表のない奴なんだ。せっかく同じクラスなんだから笹井とも仲良くしたいと思ってたらしいんだよ。笹井の前の席ってのもあるみたいだけど」
松本美波は学級委員だ。頭もいいし、ハキハキしていて世話焼きの子だ。性格もいいし男子にも結構人気あるんじゃないかな。
正也は相変わらずぼんやりと川を眺めていた。もしかしたら松本の胸元の妄想でもしてるのかもしれない。正也は制服のズボンを捲り上げて足を川に放り投げている。お世辞にも綺麗な川とは言えないが、この暑さには耐えられなかったんだろう。
「松本さんって学級委員の子だよね。去年同じクラスだったよ。いい子なんだろうけどあたしはちょっと苦手だな」
珍しい。好き嫌いのなさそうなあずさがそんなことを言うなんて。
「で、どうしたの?」
「うん、でさ。一緒に来たって言っちゃったんだよ。笹井も話してみるといい奴だよ、なんて偉そうなことまで言っちゃった」
「そもそも、笹井さんといつの間に仲良くなったんだよ。聞いてねえぞ」
ようやく、正也がこちらを向いた。
「黙ってたのは謝るよ。てか、別にそんな大々的に発表することでもないだろ」
「ま、そりゃそうだけどな」そう言うと、ぷいっと顔を背けてしまった。
「最近だよ最近。実はあいつとはちっさい頃から知り合いだったんだよ。それも最近気づいたんだけどね。まあ、それはいいよ。何処まで話したっけ?」
「一緒に来たってカミングアウトしたところだろ」
正也は、ばしゃばしゃと中州へ水しぶきを飛ばそうとしている。
「カミングアウトってほどでもないけど。で、そしたら、そうなんだー、とかって急に他の女子も沸き立ったんだよ。あとで聞いたけど、俺と笹井がつき合ってるとかって噂になっていたんだろ? なんでそんな根も葉もないことになるのかな」
「ああ!?つき合ってんじゃねえのか!?」
今日一番の大声で正也が振り返った。
「はあ? 違うし!」
僕も一番の大声で返す。
「なあんだ。そんなことだろうと思ったよ。まさやん変な情報に惑わされてんじゃないよ」
あずさが安心したように笑い正也をはたいた。
「まさやんね、アッキーが私達に彼女できたことを隠してたって言って怒ってたんだよ」
「だってそういう話だったんだから仕方ねえだろ」
なるほど、正也の不機嫌はそれが原因だったのか。人の噂も七十五日なんていうけれど、本当に約三ヵ月も誤解を解くのに必要なのだろうか。ていうか、彼女が出来たのを内緒にしていたということで怒っちゃう正也はなんだ。乙女か。
「笹井はいつも休み時間になると、ふらってどっか行っちゃうから、その時も教室にはいなかったんだ。クラスは変な雰囲気になっちゃってたし、その時はいなくてよかったと思ったよ。それがさ。俺が三限目の数学で問題を当てられて、黒板に答えを書きに行ったときに、教室を見渡したら笹井の姿がどこにもなかったんだ。でもその時は、なんでいないんだろうって思っただけ。休み時間にまた松本から話しかけられて、その時に初めて笹井が早退してるってわかったんだ。松本は俺に話しかける前にもう笹井に聞いてたんだって。俺と一緒に学校に来たのかって」
松本美波が突っ伏して睡眠時間を補おうとしている僕の机の前にやってきた。
「明信君」
呼ぶ声は微かに震えていたように思う。
「冷やかすつもりとか全然なかったんだけど、合田さんが言っているのを小耳に挟んだから、授業中に笹井さんに聞いたの。明信君と一緒に学校に来たのって。だけど、配慮が足りなかったね。私はただ笹井さんと話をするすきっかけにしたかっただけなんだけど、周りの生徒も輪に入っちゃって。そうしたら笹井さん急に顔色が悪くなってしまったの。それで、次の時間には早退してしまっていたわ。私のせいだよね。彼女が嫌な気持ちになってしまったのって。本当に申し訳ないのだけど、明信君は笹井さんと連絡とれるんでしょ?ごめんなさいって、そう伝えてくれない?」
あっけに取られた表情で松本の話を聞いていた僕の所に竹中がやってきた。
「松本ぉ、今の話本当か? 明信が柳川系と一緒に学校来たのか? はっはっは、お前モテねえからって柳川系なんかにちょっかいだしてんのかよ」
松本の話を聞いて寄ってきた竹中。松本は申し訳なさそうに俯いていた。その後は正也が教室に来るまで僕はからかわれていた。無視してやったけど。
「無視っていうのか、あれ。いいようにからかわれていただけだろ。たまにはキレろよ、お前も」
正也が痛いところをついてくる。うるさい。
「松本はさ。笹井がみんなと仲良くなれたらいいって思ってくれてたんだな。でも、その後は責任感じてんのか肩を落としてたよ」
「ふうん」と正也は相変わらず川の水をバシャバシャと蹴りながら僕の話を聞いていたが、あずさは随分と真面目に聞いていて、うんうんと頷いたり、「でも」と口を挟もうとして躊躇したりと繰り返しながら聞いていた。 僕があらかた話し終えて二人の反応を伺うと、あずさがおずおずと身を乗り出した。
「松本さんには気をつけた方がいいよ」
意外だった。あずさがそんなこと言うなんて。さっきから口を挟もうとしていたのはこれを言うためだったのか。
僕だって、松本よりあずさや亜希子の方が親しみを持っているし信頼も信用もしている。でも、陰口みたいなことを言うなんてあまり気持ちよいものではない。
「それはあずさが松本のこと好きじゃないからだろ」
努めて冗談っぽく言ったつもりだったが、若干の嫌みが込もってしまったのをあずさは見逃さなかった。
「なによそれ。それとこれは別。アッキーは鈍感だもんね」
あからさまな嫌味を混ぜてくる。すぐ意地を張るのはあずさの悪いところだ。いや、それは状況によるか。負けず嫌いだからこそ、一緒にいて楽しいのだが。
「どういう意味だよ」
「そういう意味だよ」
つっけんどんに答えるあずさ。
「は?だから……」
「デカパイちゃんは明信のことが好きなんだよ」
バシャバシャを止めた正也がこちらを向いて意味深に笑う。
「は、意味わかんねーし。ありえねーだろ」
「結構本人だけは気づかないもんなんだよな」
また足をばしゃばしゃし始めた正也がぽつりと呟いた。その言葉は誰に向かって発せられているのかすぐには分からなかった。
正也は目を細めて上空を見上げた。気持ち良さそうに鳥が飛んでいる。カラスだろうか。羽ばたくわけでもなく翼を広げたまま風に身を任せ漂っている。気持ちいいんだろうな。僕も正也の視線につられて上空を見上げていた。
「俺もこのあいださ、中学校の同窓会で女子に、実は私正也のことが好きだったんだよー。って軽い感じで言われてさ。しかも、俺だけ知らなくてみんなは気づいてたって言うんだよ。なんなんだよそれ。友達にもさ、正也は意識してあいつのこと避けてんだと思ってたよ、なんて言われてさ……」
正也は立ち上がり尻を叩き汚れを落として、靴を履き、消波ブロックの上だというのに器用に助走を取って中州へ向かってジャンプした。砂利の中州へ見事着地。
「……っと。そんなこと今更言われても知らねーっつうの。ふざけんな! 一発ヤらせろってんだよ!」
正也は中洲の石を拾って叫びながら下手投げに川へ投げ込んだ。
石は水面を何度か跳ねて、そして消えた。
「そんなこと大声で叫ばないでよ」
あずさが言うが正也はちらりと見ただけでしゃがみ込んで石を選別し始めた。
「今更言ってもさ。もう俺なんか過去なんだよ。女にしてみりゃ。卒業して二年もたってないってのに俺の事なんて、その女にとっては『片思いの良い思い出』っつう厄介なカテゴリに分類されちまってんのな」
複雑な表情の正也を見て僕は去年の秋のことを思い出した。体育の授業でグラウンドを五周しろと言われたのに、何を勘違いしたか、正也は五周を過ぎても走るのをやめなかった。しばらく走り八周ほど回ったところで教師に指摘されて走るのやめた。
正也は十周走らなければならないと勘違いしたのだそうだ。あの時のやるせない表情が、まさに今の正也の表情と同じだった。分かってんなら先に教えてくれよという顔。
でも、正也は告白されていたとして、つき合っていたのか。好きな人が他にいるんだろ。
「いいか、明信。学校には女子が何人いると思う? クラスの半分は女子なんだから一クラスに十五人くらいはいるだろ。で、一学年に五クラスもあって、更に三学年もいるんだから単純計算でも四百人はいるんだぞ」
僕の隣で指折り数えていたあずさが、そんなにいない。と呟いたが正也は無視して続けた。
「そんだけ人数がいればな、自分のことを好きになってくれる奴の一人や二人絶対にいるはずなんだ。彼女が出来ないっつって僻んでる奴はな、結局自分から行動していないだけなんだよ。普通に話したりしてれば彼女くらい出来るんだ。間違いない。間違いないよな……?」
尻つぼみになる正也。勝手に力説されて勝手に不安になられても困る。意図がわからない。
「自分が好きな奴が自分のこと好きになってくれる確立ってどんくらいなんだろな」
正也が呟く。本音が出たな、と僕は思った。
「ヤスコとつき合ってたらよかったのにね」
爪の手入れをしながら興味なさそうにあずさが返す。僕は正也とあずさの表情を交互に伺う。この二人の関係はいつからこうなんだろう。進展するのかな。
「何よ」あずさは僕の視線に気づいた。慌てて目を逸らす。
「いや別に。っつうかさ。もし、松本が俺のこと好きだったとしても、それは本人から聞くべきものだろ。お前らに言われたって変に意識するだけでいいことないよ」
僕の意見は正論で、あずさも正也もそれは分かっているはずだ。売り言葉に買い言葉でそんな発言してしまった浅はかさを後悔しているのだろうか。二人ともこちらに顔は向けないでいる。
「だがな、明信。さっきの話じゃないが、本人は気がつかないもんなんだよ。それに女も変に言ってこなかったりするからな。明るい奴とか仲の良い奴なんか特にそうだぞ。地味であんまり話したこと無いような奴のほうがフラれても、もともと仲良くないからって、思い切って告白できるんだよ。仲が良かったりすると、現状を壊したくないから告白も出来ないんだよ」
それはお前の話じゃないのか、とつっこんでやろうとしたが、面倒な事態になっても困るのでそれは自粛する。あ、そうか、周りだって現状を維持したいと思うから仲間の気持ちに気づいていても告白をするようにけしかけないんだな。
「だからな、逆に良かったと思うんだな俺は。どうせ松本に告られてもつきあう気はないんだろ、だったら未然に防げるじゃん。勘違いされそうな行動を慎むことができるんだからさ」
「だからそういう問題じゃねえっての」
「でも、松本の場合は確信犯だろ。自分からわざとそうやって噂を広めてんだから」
「そうなの?」
あずさに意見を求める。
「なんていうのかな、テクニック? あの人が好きなの、って宣言しちゃえば他の子に対する牽制になるでしょ。松本さんが計算してやってんのかはわかんないけど」
「いや、あいつは計算高い」
断言して正也は頷く。
「全然わかんねえけどなあ」
「そりゃ明信にはわかんねえようにやるだろ。俺言われたもん」
「松本さんに?何を?」あずさが尋ねる。
正也はなぜか、しまったという顔をした。
「いや、まぁ、いろいろだよ。根回しみたいな感じ。イヤなんだよ、あいつ」
正也は歯切れの悪さが気になる。
「それよりさ、笹井さんには連絡したのか?」
「あ、そうだよ。アッキーがフォローしてあげないと」
あずさがこちらを向く。その向こうで正也がホッと胸を撫で下ろしていた。松本に言われたことってあずさにも関係あることなのかな。
「聞いてんの?」
「うん。メールはしたけど、返信はないよ。悪いことしちゃったな」
「家も近いんだろ。行ってみればいいじゃん」
「行っていいもんなのかな」
「メールをしたのなら、いったん返事を待ったほうがいいとあたしは思うけどなぁ」
あずさは否定的。確かにそうかもしれない。今日だって僕が余計なことを言ったから亜希子が嫌な目にあったのだ。
「会って話すのが一番だろ、回りくどいのは面倒じゃね?」
「会いたくないから帰っちゃったんでしょ。そっとしておいて上げたほうがいいよ」
僕もどちらかと言えばあずさの意見に賛成だ。
「そうだな、様子見たほうがいいかもな」
僕は亜希子に対して何が出来るのだろうか。亜希子は僕に何も言ってくれないのなら、それは僕に対して一線を引いているということではないのだろうか。メールの返信をくれないというのならば無理に僕は踏み込んでいけない気がした。彼女が何も言ってくれないのなら、僕は沈黙するしかないのだ。
「なんだよ。つまんねーなあ」
正也は平たい石を拾うと川へ投げこんだ。穏やかな水面を跳ねる小石。何度跳ねた所で結局は川の底だ。
「不思議だね。こんなちっちゃい石も、川上の方では岩だったんだよね。はじめは角ばっている大きな岩だとしても、流れにながれて転がる岩はいずれ丸くなるんだねー」
あずさがのんびりした口調で言った。
「あたしたちも、大人になっていくに連れて、この小石みたいに小さく丸くなっていくのかなぁ。大人になるって、そういうことなのかなぁ」
小石を手にしみじみと呟く。
「大人になってみないとわかんねーな」
投げやりに正也が言う。小石は水を切り跳ねていく。僕もやりたくなった。もやもやを投げ飛ばしたくなった。立ち上がり中州へジャンプ。
「何回跳ねるか勝負!」
手ごろな石を拾い正也の隣に立つ。
「よし。負けはジュースおごりな」
正也がにやりと笑う。
「あずさはやんない?」
つまらなさそうな顔をしたあずさは小さい子でも見るように「あたしはいいよ」と答えた。
「どうせ勝てねえもんな」
正也が挑発する。
「言ったね。よし、勝負! 買った人に負けた二人がジュースとカラオケおごりね」
出た。単純負けず嫌い。あずさは立ち上がりミニスカートだってのに構わず大またを開きジャンプしてこちら側に来た。勢いあまって僕に体当たり。
「いてえ! てかカラオケおごりはきついよ」
「負けなきゃいいのよ。でしょ正也」
ストレッチをしながらあずさが不敵に笑う。
「そのとおり」
腕組してえらそうに正也が答える。
小石拾いから戦いは始まった。高校生にもなって何をやってんだろうか。
結果、優勝あずさ、準優勝正也、敗北者僕となった。
「口ほどにも無いわね」と汚れた手を払いあずさは満足顔だった。
「くそ、こういうときに限って、悪運の強い女だ」
悪態をついてみても勝負は勝負だ。僕と正也が半額ずつ出し合ってあずさの分の代金を払うことになった。
「よし、さあカラオケに行こうではないか、負け犬諸君」
あずさが胸を張って得意顔だ。
「残念。今日はバイトだ」
「じゃ、明日ね。逃げられると思わないことね」
あずさは念を押すと、明日が楽しみだと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます