二章 刻の穴

 埼玉県の岩槻は、現在は統合されてさいたま市の一つの区になっているが、もともとは築城の名人、太田道灌が築いた岩槻城を戴く戦国時代から続く城下町だった。

 江戸時代になると、将軍の日光参詣の通り道で宿泊する地となっている。

 また、この岩槻という地には不思議な伝承が残っていて、妖怪の伝説まであった。

 岩槻といえば、昔から人形作りで有名なのだが、人形というものは元来、呪術的な意味を持つものであって、人間の良くないケガレを移して守ってくれる存在であったとされている。地方の神社の行事でも人の形の紙にケガレを移して川に流す習慣があったりするが、平安時代の陰陽師、安倍晴明が人形の式神を橋の下に隠していたものが河童に変化したという伝説もある。

 河童は邪悪一辺倒の妖怪ではなく、滑稽で愛すべきところもある。人間の対応次第で善にも悪にもなるということである。

 だからこそ、人形を飾る習慣は、家の守り神とする素朴な信仰が基礎になっており、怪談やホラー映画のような邪悪な人形の話はむしろ例外中の例外なのである。

 岩槻には、遠い土地に暮らしていた数百年も昔の記憶を持つ者が現れたという伝承があり、「刻の穴がある」と噂されていた。

 一説に、西遊記でおなじみの三蔵法師の骨を納めた寺、慈恩寺があることから、不思議な現象を招くのではないか?ともいわれていた。

 あるいは、明智光秀が姿を変えたとの伝説もあり、家康、秀忠、家光の三代に仕えた異能の僧侶として知られる天海僧正が、風水術を駆使して江戸城を中心とする関東の霊的結界を張った時の要所であることが関係しているのでは?ともいわれる。


 二O一五年八月二十六日の夜。

 服部優花と父、出雲は、岩槻の城址公園の駐車場に居た。出雲が祭りの実行委員になって集まりがあった帰りに、優花が学んでいる剣武天真流居合の稽古が終わった頃を見計らって車で迎えに来たのである。

「父さん、明日、友達とお祭りに行く約束してるんだけど、いい?」

「お前は居合の稽古と遊ぶのだけは熱心だな~。その情熱を、もうちょっと勉強に向けてくれたらな~?」

「父さんの娘だから、勉強は向いてないんだよ。それより、ほら!」

 優花が手のひらを上にして差し出す。

「何、それ?」

「お祭りに行くのにお金が無いと困るじゃん?」

「おいおい、俺の安月給で生活きついの知ってるでしょ?」

「母さんの銀行口座があるでしょ?」

「あいつ、通帳もカードも持ったまま出ちゃったから・・・」

「じゃあ、母さんの会社に頼んでみたら・・・」

「うん、頼んだんだけど、俺から連絡があっても取り合うなって言われているそうだから、当分は俺の給料だけで生活するしかないんだよ」

「ちぇっ、大学の非常勤講師じゃ無理ってことですか? あ~、そうですか? だから、母さんに家出されちゃったということですか? 養子はきついっスね~?」

 ふて腐れて皮肉をいう優花に、痛いところを突かれて出雲が絶句した。妻の静香は目下、家出中なのだ。彼女が経営する会社には連絡もあるらしいのだが、居所は口止めされているらしく、誰も教えてくれない。出雲は大学の非常勤で民族学の講師の仕事をしているが、名前が売れていないので、給料は雀の涙であった。

「お前な~・・・んっ?」

 車のヘッドライトの先、駐車場の先にある雑木林の中から、フラフラと着物を着た少女が転がるように出てきた。

「誰っ?」

 着物の少女がバッタリとアスファルトの上に倒れ込む。

「いかんっ!」

 出雲が車を停めて、ドアを開けて飛び出す。と、優花も即座にドアを開けて続いた。

 うつ伏せになった少女を抱え上げて顔を上向かせると、二人とも絶句した。

 気を失っているが、優花とそっくりなのだ。

「父さん、この子?」

「お前と、そっくり・・・だな?」

「父さん、どうする? 病院に運ぶ?」

 出雲が手首と首筋の脈を取る。

「大丈夫。気を失ってるだけのようだ。家に運んで目を覚ましたら事情を聞こう」

 出雲が少女を抱え挙げて車の後部座席に運んだ。

 突発的な非常時の出雲は、いつものチャランポランな性格とは違って頼り甲斐があり、優花も、こういう時の父の姿は頼もしく感じる。

「母さんも、こういう姿に惚れたのかな?」

「んっ? 何か言ったか?」

「ううん、何にも言ってないよ」

 発進した車から見上げる月が異様に大きく赤かった・・・。


 篠が目を覚ました時、布団の中に寝かされていた。家の中だが、人吉の篠とお仙が住んでいた家とはまったく違う。見たこともない家具が有るし、箪笥に鏡台、高そうな人形も飾ってある。

(ここは、一体どこだ? 黄泉の国か? 私は生きているのか? そうだ・・・私はあの時、お頭に追われて崖から落ちて・・・)

「母さんっ!」

 篠がお仙のことを思い出していた。丸目蔵人佐に立ち向かい、斬られたお仙はどうなったのか?

 その時、ガラス戸がガラガラと開いて、隣の部屋から優花が顔を出した。

「良かった~! 目が覚めたんだね?」

 篠が優花の顔を見て絶句する。まるで自分の顔と瓜二つなのである。着ている服と髪形が違うくらいである。

 続いて出雲も顔を覗かせる。

「ほら~、ビックリしてるじゃないか~?」

「あ、そっか? ごめんごめん。ビックリさせちゃった? でも、昨日は私も驚いたんだよ? 私達、ちょっと似過ぎてるよね~」

 篠が、素早く布団から抜け出すと、枕元に置いてあった寸延び短刀を抜いて半身半立ちの忍法体術の構えを取る。

「お前達は何者だ? ここはどこだ?」

「きゃーっ! カッコイイ~ッ!」

 優花が歓声を挙げる。予想外の反応に篠が唖然とする。

「あ~、まったく刀女子だからな~、優花は・・・。こっちは服部優花。俺の娘。俺は服部出雲。君の名前は?」

「篠・・・」

「うん、篠ちゃんか? それじゃ~、まずは話をしようか?」

 出雲が、篠の前に、どっかと胡座をかいて座った・・・。


「何っ! ここは関東の岩槻で、私が生きていた頃から四百年以上先の時代だというのか? そんな・・・信じられん・・・」

 出雲から説明を受けた篠にも、想像がつかない話だった。

「そりゃ~、こっちだって信じられないよ。九州人吉の相良忍びというのは、俺も今度発表する大学の研究論文でテーマにして調べているんだけど・・・」

 篠が突然、短刀を抜いて身構える。

「何っ! 相良忍びについて調べるとは、さては貴様は隠密かっ?」

「もう、危ないから、やめなさいよ。刃物振り回すのは~。今の世の中には忍者はいないの。侍もいないし、身分の差も無いの」

「そうだよ。人間は誰でも自由に生きていいんだよ」

「自由?」

 自由という言葉の概念を知らない篠には、何とも理解しがたい話だった。

「自分の生き方は自分で選べるということだよ。君は、この世界では忍びの掟に縛られなくていいんだ」

「そんな・・・ことが、許されるのか?」

「許されるんです!」

 優花と出雲がハモッて断言したので、篠は反論できなかった。郷に入りては郷に従えと言うではないか?

「まあ、慣れるまで多少の時間はかかるだろうけど、優花とそっくりなのは都合が良かったかもな? 九州の田舎から出てきた従姉妹ってことにしようや」

「それって・・・?」

 優花も篠も出雲の言葉の意味を図りかねた。

「しばらく、うちで暮らせばいいだろ?」

「やったーっ!」

 優花が歓声を挙げた。一人っ子で育った優花は、ずっと姉妹が欲しいと思っていた。

「優花、篠ちゃんはこの時代のことが何もわからないんだから、お前が教えてやるんだ」

「わかってま~す!」

 初めて会った父娘なのに、篠にはなぜか懐かしい家族のような奇妙な感慨が湧いてきて、戸惑いを感じていた。

「さて、それじゃ~、早速、街に出よう! 案内するよ」

 顔ばかりでなく体格もほぼ同じだったので、篠には優花の学校のセーラー服を着せるが、篠がこれだけは手放せないと言うので、短刀だけはベルトの背中側に差した。右手で逆に抜く右手(めて)差しという戦場向けの差し方である。

 もともと着ていた着物の内側から革袋を取り出してセーラー服の内側に入れる。

「それ、何? お守り?」

「まあ、そんなところだ」

「人に向けて使うんじゃないよ?」

 出雲が笑顔でいうと、篠が一瞬、ビクリとする。革袋には手裏剣が入っていたのだ。


 優花はお気に入りのワンピースで篠を連れ出した。

「へっへっへ・・・作戦成功! 実は、今日、学校の補講があるんだよね~。篠ちゃん、頼みがあるんだけど~・・・」

 玄関を出て二人だけになってから、優花が篠に合掌して拝んだ。

「・・・という訳で、教室で黙って座ってるだけでいいから、お願いっ!」

 何と、期末テストで点数が悪かったので補講を受けねばならなかったのを、篠を身代わりにしようというのだった。

 優花が教室の見取り図まで出して篠に計画を教える。

「承知。このくらいのことで恩返しができるのならば・・・」

「えっと、それと、このことはくれぐれも父さんには内緒にしといてね?」

「信頼してくれ。忍びたる者、受けた依頼の内容は口外せぬ!」

「ええっと~。まっ、いっか? それじゃ、宜しく~」

 優花は、篠に補講を押し付けて、自分は友達と祭りに行くつもりなのだった。もちろん、出雲の財布から千円札を数枚、失敬してきたことは言う間でもなかった・・・。

(篠ちゃん、ごめんね。帰ったらおいしいもの御馳走してあげるから、勘弁!)

 流石に気がとがめたが、根っから能天気な性格の優花は、篠が過去の世界からやってきて右も左も解らない状態だという点に気が回らなかった。

 いや、そもそも信じていなかったのであるが・・・。


「さて、ここが学校というものか?」

 篠が校門に立っていると、補講を受ける同級生が数人、集まってきた。

「優花~? あんた、バックレると思ってたら、意外とマジメちゃんだったんだ~?」

「えっ? うん・・・」

 優花から、誰とも口を利くなと言われていたので、黙っていた。

「あれっ? その背中に差してるのって、刀?」

「さっすが、刀女子! 常にサムライの魂を忘れないために模擬刀持ち歩いてるんだ?」

「でも、学校に持ち込んじゃダメでしょう?」

「いやいや、夏休みなんだから、硬いこと言いなさんな。武士の一分ってヤツだよ」

 同級生達がキャーキャー言うのを無視して教室に向かった。見取り図は完全に頭の中に映像化されている。

 教室に入ると、まっすぐ優花の席に向かって椅子に座った。ここまでは完璧だ!

「ちょっと、優花~? 靴のまま入っちゃダメでしょ~?」

(しまった・・・慣れない履物だったから、うっかりしてしまった・・・)

 篠が黙って靴を脱いで裸足になった。

「ね~、あんた、今日、変だよ? 別人みたい・・・」

「先生が来たよっ・・・」

 同級生達も慌てて自分の席に着いた。

「よう~、落ちこぼれボーイズアンドガールズ!」

 妙に軽い大学生みたいな教師が教室に入って来た。

「今日は歴史の問題を解いてもらうぞ!」

 プリントを配る。前の席から順番に一枚ずつ自分の分を取って残りを後ろに回している様子を見ながら、篠も真似た。

(むっ、何だこれは?)

 篠がプリントの縦と横がわからずドギマギしてしまう。「横書き」を知らなかったのである。

「服部、字の読み方も忘れたのか?」

 教師がプリントを縦にして指先でトントンと机を叩いた。

 漢字と平仮名が横から書かれていることは理解したが、やはり、読めない?

 篠は顔を向けずに眼球だけ動かして隣の者の視線の動きを追って、ようやく理解した。

(そうか。これは左から右に向かって読むんだな? んっ・・・何だ、簡単なことだ。こんなことは誰でも知っていることだ・・・)

 プリントは歴史の問題だった。戦国時代がテーマ。偶然にも篠が生きていた時代のことだったのだ。

 しかし、答えは解っても、次の大問題があった。優花の筆箱を開けて鉛筆を持った瞬間、面食らってしまったのだ。

(これは何だ? 筆ではない?)

 また、隣の者の様子を窺った。シャーペンでカリカリ書いている。

(はは~、あれが四百年後の筆ということか? それなら、これは筆ではないのだな?)

 鉛筆を筆箱に戻してシャーペンを手に取った。

(むっ? 何だこれは? 書けないぞ?)

 シャーペンで紙を引っ掻いても文字が書けない。焦って何度も引っ掻いたら紙が破れてしまった・・・。

「おいおい、服部、何やってるんだよ~?」

 教師が篠のシャーペンを分捕ってお尻をカチカチとノックした。黒い芯が覗く。

「ちゃんと芯は入ってるじゃないか~? ほら、プリント代えてやるから、さっさと書けよ」

 破れたプリントを代えてもらい、篠は遅れた分を取り返すようにスラスラと解答を書いた。

「キャアーッ! ゴキブリっ!」

 教室内に悲鳴が轟いた。壁にゴキブリが動いている。

 篠が解答を書き終わって立ち上がると、悲鳴が轟く教室をスタスタと歩いて教壇にプリントを提出する。次の瞬間、内懐に手を入れて、シュッと素早く抜き放つと、教師に深々と一礼して教室を出た。

「えっ? 何?」

 壁のゴキブリが手裏剣で縫い止められていた。

「ねっ、これって? 優花がやったの?」

「まさか・・・?」

 冷や汗を拭った教師がプリントを見て、固まった。

 答えはすべて縦書き。しかも、達筆過ぎて読めなかった・・・。


 学校を出て、朝に優花と待ち合わせした公園に来た。早過ぎたようだ。が、忍者である篠にとっては待つことは苦にならない。

 何しろ、何日も床下や屋根裏に潜まねばならないこともあるのだから・・・。

「おいっ、服部!」

 誰かに呼びかけられた。が、篠は無視した。明らかに自分に向けられたのは解るが、声に敵意があったからだ。

「シカトしてんじゃね~よ。お前、服部優花だろ?」

(そうか、優花殿と間違えられたのか? ならば、仕方ない)

 篠が振り返ると、小柄な少女が睨んでいる。

「どなたか?」

「あたしだよ、あたし・・・」

「私は優花殿では・・・」

「問答無用!」

 少女がいきなり右パンチを出してきた。咄嗟に避けたが、身体を回転させて左のバックハンドブローを振ってきたので避け切れず、受けた。体格の割りにパンチが重い。遠心力が効いているのだ。

「な~んだ。刀が無いとダメなんだと思ってたら、結構、やるじゃん? なら、本気出して行くぞぉーっ!」

 少女の猛攻が始まった。突きと蹴りが連続し、空中で身体を翻して蹴りを放つ。後旋飛腿。中国北派拳法の特徴的な技で、跳躍して後ろ廻し蹴りを出す。

 流石の篠も内心、舌を巻いた。忍法体術ともまったく異なるスピードと変則的な動きが読めず、防戦一方となった。が、しばらく戦っているうちに少女の動きのパターンが解ってきた。受けた手を逆関節に捕る。

 一瞬、動きが止まるが、捕られた腕を波打つようにしならせて解く。と、指先を奇妙に曲げた形で逆に関節を捕られる。蟷螂捕蝉式という蟷螂拳の特徴的な手技である。

 篠は逆関節が極まる寸前にバク宙して振り解いた。

「やるな~、お前・・・」

 少女が荒い息をしている。篠がはじめて攻撃に転じた。飛び込み前転のように受け身を取って少女の足元から片手倒立しながら蹴り上げる。慌ててのけ反って躱す少女の伸びた腹に当て身を入れた。うっと呻いて少女が吹っ飛ぶ。

 加減はしたが、かなり効いている筈である。少女は咳き込んで立ち上がれない。

「貴殿は優花殿にどんな恨みがあるか知らぬが、私は優花殿ではない」

「・・・何? 別人だって~? 道理で強いと思った・・・」

「私は篠。貴殿の名前は?」

「木田・・・美幸」

「木田美幸殿。初めて見る技だったが、何流か?」

「あ~、何流って、日本の武道じゃなくて、中国武術だよ」

「中国武術・・・とな? うむ、実に見事な技だ」

 腕組みして、しきりと感心する篠の様子に苦笑しながら美幸が立ち上がった。

「負けちゃったら、しょうがないよ・・・」

「篠ちゃ~ん! ごめ~ん。待ったぁ~?」

 優花が手を振りながら駆けてきた。美幸が、ぎょっとして振り返る。

「あれぇ~? 美幸? 美幸じゃ~ん?」

 優花が、はしゃいで美幸に向かうと、美幸は唖然として固まる。

「すっごい、久しぶりじゃ~ん? 小学校以来だよね? 確か、お父さんの仕事の都合で香港に行ったんじゃなかったっけ? いつ、帰ってきたの? ねえ、ねえ・・・」

「うっ、うるさいっ!」

 美幸が顔を真っ赤にして怒鳴った。

「きっ、今日は帰る! 篠、今日の借りはそのうち返すよ。じゃっ、あばよっ!」

 美幸がプンプンしながら帰っていくのを、不思議そうに優花は見送った。

「美幸ちゃん・・・何、怒ってるんだろ? 篠ちゃん、何かあった?」

 服部優花・・・小さなことは気にしない性格であることが、周囲の者に迷惑をかけてしまうことが多々あった・・・。

 木田美幸は、恋愛に関して奥手であった。優花とは幼稚園から小学校と同級だったが、美幸が片思いする男子が次々に優花と仲良くなる。単に優花が社交的なだけなのだが、美幸から見れば、好きな男を次々に取られてしまったように見えていた。

 要は、美幸から見れば、優花は友達の彼氏を次々に誘惑する「ヤな女」だったのだ。

 小学校卒業と同時に父親の仕事の関係で香港に移った美幸は、中国武術を学ぶ。思い込みの激しさは武術修行にはプラスになった。短期間で中国武術のJr.世界チャンピオンとなってしまったのである。

 そして、美幸は恨み重なる優花と勝負するために帰ってきたのであった・・・が?


「優花殿? 本当に美幸殿に恨まれることはござらぬのか?」

「無い無い。何か誤解してるんだよ~。あの子、ちょっと思い込みが激しかったから」

 帰宅してからも、美幸のことで話が盛り上がった。

「それにしても、中国武術というのは凄いものですな? あれほどの者は相良忍びにも数えるほどしかおりませぬ」

「中国武術? あ~、噂で聞いたことあるよ。そうだった。美幸ちゃん、上海で開かれた中国武術の大会で優勝したんだって」

「シャンハイ? それはどこです?」

「中国の都市だよ。あっ、そっか~? 篠ちゃんの時代だったら、確か明国だっけ?」

 優花の言葉に篠が驚く。

「明国? 左様でしたか? 美幸殿は明国の方だったのですか~?」

「いやいや、違う違う! あの子は日本人だけど、香港に行って・・・あ~、面倒臭~いっ!」

 うまく説明できずに優花がパニクっていると、出雲が帰ってきた。

「は~い、ケーキお土産~。ご飯の後で食べよう! それと、篠ちゃんに新しい服をプレゼントだよ~」

「おっ、重っ?」

 服の入った袋の重さに篠がつんのめりそうになった。

「父さん、何かヘンな服買ったんじゃないでしょうね~?」

「そんなことはないよ。世の中、物騒だから・・・」

「はぁっ?」

 優花が質問しようとすると、出雲はさっさと自分の部屋に入ってしまった。

 夕食を済ませて、三人でテレビを見ていると、臨時ニュースが入った。

「臨時ニュースです。さいたま市岩槻区の岩槻駅前で殺人事件が発生しました・・・」

「えっ? 近くじゃん? 怖い~」

「犯人は職務質問中の婦人警官を日本刀で殺害し、そのまま逃走中です」

 路上カメラに映った犯人の姿が画面に映されると、篠が絶句した。

「これは? お頭・・・」

「何だって? お頭って・・・相良忍軍を治める、東の柳生に西の丸目と呼ばれた、タイ捨流剣術開祖・・・」

「そう、それがお頭。丸目蔵人佐・・・」

「タイムスリップしてきたのは篠ちゃんだけじゃなかったんだ・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る