第2話 夢の国と幽霊船

 大陸に到着して、3回目の朝を迎えていた。

 蒼々とした晴天。穏やかな波が、流れて来ては帰っていくを繰り返す。遠くの空では、遊戯に空を飛んでいるカモメの鳴く声。

 変わり映えの無い、いつもの光景だった。そんな光景を、砂浜で眺めているレイナとシェイン。大きなヤシの木の下で、日陰に身を隠して座り込んでいる。

「あぁ、もう! いつになったら、この島から脱出できるのよ!」

 苛立ちの雄たけびを上げ、レイナは言った。

 いきなり立ち上がって地団駄を踏むレイナの裾を掴み、

「こういう時は、苛立ったら負けです。姉御。もうじき、タオ兄達も食料を調達して戻ってきます。無駄に体力を消耗するのは控えて、見張りをがんばりましょう」

 シェインは言った。

 島の探索をした結果、ここには人の住んでいるような気配は無かった。いや、正確に言うと昔は住んでいたのかもしれない。なぜなら、住処らしい場所は発見されたからだ。だが、住処は埃と蜘蛛の巣だらけ。とても、今でも生活しているような感じでは無かった。それ以外は、人の住んでいた形跡はない。

 島の中央には、大きな岩山。その周りには、森林が生い茂っていた。小さな湖も発見された。発見されないのは、島の住人だけだ。

 幸いにも、森林の方からは果実類や野菜。海からは、魚類が収穫できた。おかげで、食料問題は、何とか解決した。後は、想区の住人と遭遇する事と、島から脱出する事だった。

「おう! 今日も、大収穫だぜ! そっちは… どうやら何も収穫なしみたいだな」

 森林の方から果実類と野菜を両手いっぱいに持って戻ってきたタオは、訊いた。

 レイナとシェインの前に食料を落として、タオは1つだけ手にしている果実を齧った。シェインも、目の前の果実を手にして齧りつく。

「まったく、もぅ! なんでこんな無人島にいないといけないわけ?」

 膨れっ面で果実を頬張りながら、レイナは言った。


 ――― おいおい… こうなったのは、あんたが原因だろ…

 と、タオとシェインは思ったが、そんな事は恐ろしくて口には出せない。


「・・・ ところで、新入りは? まだ、戻ってきてないのか?」

 タオは、話題を反らす。

「確かに、遅いですね… 新人さん。魚を釣ってくるって、言って出て行ってからかなり時間が経ちますね」

 果実を齧りながら、シェインはタオの話に合わせた。

「まさか… 美味しそうな魚が釣れたんで、自分だけでいただいてるんじゃないでしょうね」

 レイナは、怒りの矛先をエクスに向けようとしていた。

 乾いた笑いを浮かべながらタオとシェインは「ダメだな、これは…」と、思う。

「おーい!」

 その時、エクスの叫び声が聞こえてきた。手を振りながら、エクスは走って戻ってくる。が、エクスの手に魚を持っている様子は無い。

「お! 戻ってきたか、新入り。あれ? 魚持ってないな…」

 走って戻ってくるエクスを眺めながら、タオは言った。

「ですね。釣れなかったんでしょうか? それにしては、嬉しそうな笑顔ですね」

 同じくエクスを眺めながら、シェインは言った。

「食ったのよ。間違いないわ… 美味しかったから報告をしにきたのよ」

 果実を齧りエクスを睨みつけながら、レイナは言った。

 急いで戻ってきたエクスは、膝に手を付いて息を切らす。かなり大急ぎで戻ってきたのか、呼吸が荒い。肩で息をしながら、

「はぁ、はぁ… た… だ。はぁ、はぁ…」

 エクスは言うが、何を喋っているか理解できない。

「どうした? まずは落ち着け、新入り」

「新人さん、水です。まずは飲んで」

 タオとシェインは、エクスに言った。

 シェインから渡された水を、エクスは一気に飲み出す。ぷぅ… と、大きく息を漏らして口元を手で拭う。生き返ったっと、言わんばかりの笑顔を見せた。

「美味しそうな魚を釣ったのね? どうなの、美味しかった?」

 拗ねた少女のように、膨れっ面でレイナは言った。

「??? なんの事?」

 エクスは、レイナの言っている話が理解できなかった。

「魚よ! さ・か・な! 美味しかったかって訊いてるの!」

 レイナは、エクスを怒鳴りつけた。

「意味が分からないんだけど… 。それより、船だよ!大きな船が向かってきてるんだよ!」

 エクスは、笑顔で言った。

「こっちも意味が分からないんだけど! 船より魚は美味しかったかって… え!? 船!?」

 レイナはエクスの話が頭で理解できた時、瞳を丸くして驚く。

「何!? 船!?」

 タオとシェインも、驚く。

「そうだよ! 船が向かってきているのが見えたんだ!」

 皆に笑顔を振り撒きながらエクスが言うと、

「バカ! そういう大事な事は、もっと早く言いなさいよ。早くいくわよ!」

 そう言いながら、レイナは走り出した。

「いや… だから、急いできたのに…」

 なぜレイナが怒っているのか戸惑うエクスの肩を叩き、

「急ごう、新入り」

 タオは同情をするつもりで、エクスに言った。

 しばらく走っていると、海で停留している船が見えてきた。大きな帆船。浅瀬のため、島には近づけないようだ。その帆船に向かって、手を振り続けているレイナの姿が見えてきた。

「はえぇよ… お嬢」

 溜息交じりに、タオは呟く。

 だが、そんなレイナの背後から忍び寄る影が現れた。とっさに「レイナ!」と、エクスは叫んだが遅い。レイナは後ろで手を掴まれ、首に剣を突き立てられた。レイナを襲ったのは、バンダナを頭に巻いた男ども。レイナは、荒くれどもの集団に囲まれてしまった。

「げへへへ。何で、こんなとこに女がいるんだ?」

 荒くれ者どもは、下品な笑いを溢す。

「お嬢! てめぇら…」

 拳を強く握りしめ、タオは言った。すぐにでも、バンダナを巻いた男どもを殴っていきたいが、レイナが捕まっているので手がだせない。隣で、エクスも睨みを利かす。何も手出しできない2人を見て、荒くれ者どもは嘲笑う。

「何者だ、お前ら?」

 タオが訊くと、

「げへへへへ。見て分かんねぇか? 俺たちは、海賊だよ」

 荒くれ者どもは、返答した。

 確かに、早めに気づくべきだった。船の帆には、黒い髑髏の模様が風で揺らいでいる。船の腹からは大砲が、均等に突き出されていた。明らかに、商船とは違う威嚇感が漂う。タオとエクスは、思わず舌打ち。

「さぁてと。これからどうするかな… う~んっと、まずは金目の物を出して貰おうかな。げへへへへ、全部だせよ。女は、こっちで身体検査だ。じっくりとな。げへへへ」

 レイナを品定めするように見据えながら、海賊どもは言った。

 刹那、森林から飛び出してくるシェインの姿。瞬時に、レイナを捉えている海賊から、レイナを突き放す。そして、海賊を力強く蹴り飛ばした。

「油断しましたね」

 シェインは、海賊どもを睨みながら言った。

「ナイスだ、シェイン! お前ら、覚悟しろよ!」

 鼻息を荒くして、タオは叫んだ。

 胸の前で指の骨を鳴らして、タオは意気込む。その隣では、エクスが背中に背負った剣に手を付けている。そして、一番激怒しているのは、

「あなた達… よくも、やってくれたはね…」

 鬼の形相で睨んで言う、レイナだ。

「襲う相手を間違えたようですね。死人がでますよ… あなた達…」

 レイナの様子を覗い、シェインは言った。

 蹴とばされて倒れ込んでいる海賊が、

「やっちまえ!」

 手にした剣を突き上げて、叫んだ。

 これによって、火蓋は切って落とされた。一斉に海賊どもが、雄たけびを上げながら襲い掛かってきた。が、攻撃が始まった直前に、

「やめろ! お前ら!」

 誰よりも大きな叫び声が、聞こえてきた。

 その叫び声に、ここにいる全員の動きが止まった。叫び声の主は小舟の中で横になって、組んだ足だけを外に出していた。立ち上がると、長身。風貌からして、海賊の中でも頭のようだ。ゆっくりとレイナ達の方へ歩いていくと「お頭…」と、声を掛けた海賊をぶっ飛ばす。

「バカ野郎! 船長だ」

 笑いながら殴った手を拭き、船長は言った。

「誰なの、あなた?」

 レイナは訊くと、

「俺の部下が申し訳ない事をした。許してやってくれないか。俺は、ヘンリー。キャプテン・ヘンリーだ。見ての通り、海賊だ」

 言って、ヘンリーは握手を交わすため手を差し出した。


               ◆


 数時間後 ―――… 


 出航した海賊船の上で、

「ははははは… さあ、どんどん飲んでくれ! なるほどねぇ、想区をあるべき世界に戻す旅をしてるってわけか。それは、大変な旅だな」

 豪快に笑いながら酒を飲む、ヘンリー。

「ははははは… わかってくれるかい? 嬉しいじゃねぇか。分かってもらえる奴に会えるなんて」

 同じく、豪快に笑いながら酒を交わす、タオ。

 ヘンリーとタオは、意気投合して酒を酌み交わしていた。タオの隣では、レイナが黙々と食料を平らげている。レイナの食料を手から口へ運ぶ速度が、尋常ではない。あまりの速さに、食料を運んでいる海賊は唖然としてしまう。

「ほんと、いいコンビですね。タオ兄と姉御は」

 冷たい視線で、シェインは言う。隣で、エクスは苦笑い。

「でも、助かったぜ。まさか、無人島に辿り着くとは思わなかったからな。まあ、お嬢が何もしなか―――… いや、何でもない。さあ、飲もうぜ」

 レイナの鋭い視線が背中に突き刺さったタオは、話を詰まらせながら言った。

「ところで、あの島は本当に無人島なの?」

 レイナが訊くと、

「ああ。あそこは、間違い無く無人島だ。もっとも、昔は夢の国って呼ばれていたんだがな」

 ヘンリーは言った。

「夢の国?」

 タオは訊きながら、首を傾げた。

「ああ、そうだ。夢の国ネバーランド。住人は、ピーター・パンっていう生意気なガキだったな。あと、インディアンもいたって話も聞いた事があったな」

 酒を飲みながら、ヘンリーは言った。

 ヘンリーの話に、

「何!? ピーター・パン!」

 思わず、口に含んでいた酒を吹き出す。タオは言った。

「ねぇ、そのピーター・パンはどこにいるの?」

 レイナが訊くと、

「ああ? 知らねぇな。もう、ずいぶんと前に行方不明になったらしいぜ。確か… キャプテン・フックとの戦ってた後だったかな、いなくなったのは」

 ヘンリーは、話す。

「ピーター・パンが… 行方不明…」

 シェインは、顎を摩りながら呟く。

「じゃあ、キャプテン・フックは? 彼も行方不明なの?」

 レイナが訊くと、

「いや、キャプテン・フックは海にいるぜ。海の主チックタックと一緒にな。奴は、満月の夜に現れる。幽霊船ジョリー・ロジャー号に乗ってな」

 ヘンリーは、話す。

「チックタック… 幽霊船… 怪しいなそれは」

 エクスは、言った。

 

 この想区が、夢の国だという事は分かった。だとしたら、ストーリーテラーの1人はピーター・パンで間違いないはず。だが、ピーター・パンは行方不明。それが原因なのかどうかは分からないが、夢の国は無人島になってしまった。

 そして、もう1人のストーリーテラーであるキャプテン・フックは幽霊船で海を彷徨っている。明らかに、キャプテン・フックがカオステラーとなり世界を狂わせた可能性が高い。

 … と、4人は思っていた。


「どうにかして、幽霊船と接触したいわね」

 レイナが言うと、

「なんだぁ? キャプテン・フックに会いたいのか? いいぜ、連れて行ってやっても」だあ

 ヘンリーは、平然とした表情で言う。

「何!?いいのか!?」

 タオが訊くと、

「ああ、いいぜ。なにせ、今夜は満月だからな」

 酒を飲みながら、笑みを浮かべてヘンリーは言う。


                     ◆


 雲に隠れる事のない、絵に描いたように美しい満月。

 銀光を鏤めた夜空は、どこからが海なのか分からないくらい暗い。波の音だけが聞こえるだけの、静けさ。まさに、神秘的な世界と言っても過言ではない。

「今夜の満月は、綺麗だねぇ」

 満月をうっとりと見据えて、ヘンリーは言った。

「本当に幽霊船は、現れるのか?」

 海を見渡しても船の一隻も見えない事に、タオは不安を抱く。

「ああ。大丈夫だ。もうじき、幽霊船に遭えるはずだ」

 呑気に酒を飲みながら、ヘンリーは言った。

「どこにも、船なんて見えないじゃない」

 レイナは、焦燥を隠し切れない。

「まあ、焦るんじゃないって。もうじきだ、もうじき」

 レイナの様子を見て、ヘンリーは嘲笑う。

 レイナの方へ、ヘンリーは歩み寄っていく。そして、レイナの肩に手を回して顔を寄せた。一瞬、はっとしたレイナ。の横で、ヘンリーは指を指す。ヘンリーが指した場所は、海に映る満月の方だった。

「あそこさ。あそこに、幽霊船は現れる」

 ヘンリーは、言った。

「え?」

 レイナは驚き、ヘンリーの指す方を見遣る。

 突然、海に映る満月が揺れ出す。目の前で見ているのに、信じられない光景だった。4人は、動揺を隠し切れず言葉を失う。

 なぜなら、海底から船が浮かび上がってきたからだ。浮かび上がった後は、そこに立ち止まっているようだった。ぼろぼろの、帆。浸水しきった船からは、海水が溢れ出している。おどろおどろしい船が現れたのだ。

「あれが… 幽霊船か…」

 エクスは、ぽつりと言葉を漏らす。

「なっ、現れたろ」

 片目を瞑って、ヘンリーは言った。

「よし! あそこまでよろしく頼むぜ」

 そうタオが言うと、

「冗談いうなよ。ここまでだよ、ここまで」

 顔を強張らせて、ヘンリーは言う。

「え? 連れて行ってくれるんじゃないのか?」

 タオが訊くと、

「だから、連れてきたじゃねぇか。ここまで。これ以上は、無理だ。なんせ、あそこにはチックタックがいるからな。どうしても幽霊船に行きたいっていうなら、小舟を貸すぜ」

 ヘンリーは返答した。

 これ以上、無理を言う事はできない。ここまで連れてきてもらって、小舟を貸してもらうだけでも有り難い話だ… と、タオは思う。

「そうか。ここまで有難うよ。小舟、ありがたく借りていくよ」

 言って、タオはヘンリーの前に手を差し出した。差し出された手を掴み、ヘンリーは握手を交わす。

「いいってことよ。本当は、幽霊船まで近づいてやりたいんだが… 悪いな。おい! 小舟を降ろしてやれ!」

 ヘンリーはタオに言いながら、部下に命令した。

 ヘンリーの部下が用意してくれた小舟に、4人は乗った。乗ったままの状態で、小舟は降ろされていく。

「おい! お前ら! 時計の音が聞こえて来たら気をつけろ。チックタックが近くにいるはずだ。その時は… まあ、お前らなら何とかなるだろう。がんばれよ」

 手を振りながら、ヘンリーは言う。

「ありがとよ! また今度、酒を交わそうぜ!」

 手を振り返して、タオは言った。

 小舟で、幽霊船まで向かう事となった。漕ぎ手は、エクスとタオ。レイナとシェインは、近づいてくる幽霊船を見据えていた。

「なんか、不気味な雰囲気だね」

 エクスは、言う。

「だな。なんだか… 肌寒くなってきたぜ、ちきしょう」

 タオが震えながら言うと、

「あれ? タオ兄。もしかして、怖いんですか? お化け系はダメなタイプですか?」

 シェインは、せせら笑いながら茶化す。

「なっ! バ、バッカじゃねぇの! なんで俺が―――…」

「しっ! もうじき幽霊船に着くわよ。ふざけてないで、準備して」

 真剣な眼差しで幽霊船を見据えるレイナは、言う。

 幽霊船に近づくと、重々しい緊迫感がレイナ達に圧し掛かってきた。どこか、幽霊船のデッキに上がれるような場所を探す。すると、幽霊船の手摺りからロープが垂れている場所を発見した。

 小舟をロープの近くに寄せた。

 タオは、ロープがしっかりと固定されているかを確認する。固定されている事を確認できたら、今度はエクスが上に登ってみた。心配そうに3人は、登っていくエクスを見守る。エクスは、何事もなく上に登る事ができた。エクスは、手で合図しながら「大丈夫みたいだよ」と、言う。

 レイナ、シェインの順番で登っていく。ロープを小舟に縛り付け、タオは最後に登った。

「ふぅ、なんとか幽霊船に登れたな」

 大きく息を吐き、タオは言った。

「かなり、ヤバい雰囲気ね… 思ってた通り」

 レイナは辺りを目探りしながら、言う。

 どこにも人がいる気配はない。ゆらゆらと波に揺れて、海に浮いているだけの幽霊船だ。デッキは破損個所だらけだし、濡れていて歩き難い。ぼろぼろで黒ずんだ帆には、見えにくいが髑髏のマークがあるように思えた。

「とりあえず、建物の中を探索してみるか?」

 タオが訊くと、一同は頷く。

 全員でゆっくりと歩き出すと、黒い霧が辺りを包んできた。

「やはり、きましたね」

 言うと、シェインは鋭く眼光を輝かす。

 各々、空白の書を手にして臨戦態勢に入った。

「クア、クアァアアアアアア!」

 まるで獣の咆哮のような呻き声をあげ、黒い霧の中からヴィランが現れた。

 ぞろぞろと、数えきれないほどのヴィランが現れてくる。プギーヴィラン、ゴーストヴィラン、今回はガイコツ姿の海賊も。

「いくぞ!」

 タオの一声で、全員は接続コネクトした。

 タオは野獣ラ・ベットの姿に接続コネクトすると、大きな盾でヴィランの攻撃を受け止めた。そして、斧を振り下ろしてヴィランを倒す。

 シェインはエルノアの姿に接続コネクトして、後方から次々とヴィランを弓で射貫く。

 シンデレラの姿に接続コネクトしたレイナは、皆の支援役。癒しの祈りを捧げて、皆の傷を癒す。

 そして、エクスはジャックの姿に接続コネクト。ヴィランの攻撃を華麗に回避しながら、片手剣で斬りつけていった。

 タオ・ファミリーの連携は完璧だ。どれだけの数でヴィランが襲い掛かってきても、数々の修羅場を潜ってきたタオ・ファミリーの相手ではない。次々と、ヴィランを倒していく。気が付けば、残すヴィランはメガ・ゴーレムのみとなっていた。

 メガ・ゴーレムは、渾身の力を籠めて拳を振り下ろすまでの動作が鈍い。ジャックは攻撃を交わして、メガ・ゴーレムの背後に回り込み攻撃。その攻撃に、怒りを露わにしたメガ・ゴーレムは猛突進をしてきた。が、シンデレラの支援を受けた野獣ラ・ベットがメガ・ゴーレムの前で盾を構えて立ち塞がる。微動だにしないメガ・ゴーレム。そして、野獣ラ・ベットの後ろからエルノアの渾身の一撃が放たれた。メガ・ゴーレムの目を貫く。と、メガ・ゴーレムは起動を停止した。

 幽霊船に現れたヴィランの集団は、全て消え去った。

 接続コネクトを解除して、

「ふぅ。とりあえずは、終わったな」

 タオは汗を拭いながら、言った。

「だけど、フックの姿は見えませんでしたね。部屋の中にいるんでしょうか?」

 同じく接続コネクトを解除したシェインが訊ねた。

「そうね。中に入ってみましょう」

 レイナは言った。エクスは、頷く。

 皆がはじめの一歩を踏み出そうとした時、どこからか正確に刻まれる機械音が聞こえてきた。チックタック… と。

「おい。何か聞こえないか?」

 耳を澄ませて音を確認しながら、タオは言う。

 全員、近づいてくる機械音を聞きながら神経を研ぎ澄ました。嫌な予感しかしない。機械音が近づくにつれて、足に伝わってくる振動が強くなっていく。

 突然、幽霊船は大きく揺らぐ。とっさに、全員は近くの手摺りを持つ。手摺りを持っていないと、立っていられない。船を飲み込むほどの、大きな波が荒れ狂う。

「いったい、何が…」

 エクスは顔を顰めて、言う。

 

 クァァァァアアアアアアアアアアアア 


 耳を塞ぎたくなってしまうほどの、咆哮が響き渡った。

「な、何だ!? 何が起きてんだ!?」

 タオが言うと、

「わ、分からないけど… な、なんとかしないと」

 レイナは言い返す。

「タ、タオ兄… あれ…」

 シェインは指を指して、言う。

 全員、シェインの指した方角に目を向けた。

 それは、あまりに巨大だった。それは巨大魚というよりは、巨大龍と言った方が正解なのかもしれないほど。海から出ている部分は、顔だけだろう。大きな口を開けて、空を仰いでいる。全てが、黒い。どこが目なのか、よく分からない。が、いくつか輝いている部分のどれかだろう。

「あ、あれが… チックタック… ?」

 エクスは驚愕した表情で、言う。

「おいおいおい! あんなに、でけぇなんて聞いてないぞ!」

 タオが言うと、

「どうします、タオ兄? 無理を承知で戦いますか?」

 シェインは訊ねた。

「よ、よし! いくしかないか!」

 タオは、覚悟を決めた。

「バカ! 戦ってどうにかなるっていうの? 逃げるのよ、早く!」

 レイナは、タオとシェインに叱咤した。

「に、逃げるってどこに?」

 エクスが訊くと、

「そんなの分かるわけないでしょう!」

 困惑しているレイナは、思いっきり叫んだ。 

 チックタックは大きく口を開けたまま、空に向かって跳んだ。そして、幽霊船に向かって顔から落ちてくる。凄まじい轟音とともに、チックタックは海に潜っていく。チックタックが飛び落ちた場所は、波が激しく荒れていた。

 

 いつもの平穏な海に戻ってきたが、幽霊船の姿は跡形もなく消え去っていた。


 


 

 

 

 

 

 

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