第10話「旅立ち・ARF特殊人員斥候部隊」


「刺激が強すぎたんでしょうね」

「あ?どういう意味だよ」

 ことを顛末を聞き、先生が発した一言にマーシャは良く分からないといった顔をする。

「空さんの読み通り、地牙君の能力は『血液』によって発現しました。しかし、最初の血が空さんの物でしたから」

「それは、『愛する物の血で興奮しすぎたチェリー君』ってことか?」

「そうじゃない……とは言い切れませんがね」

 にまにま笑うマーシャに苦笑を返しながら、先生は手を組みなおした。

「そうでなくても空さんの血は、普通の人間や不死者に比べて遥かに「強い燃料」でしょうから、地牙君はうまく制御できなかったのでしょう」

「それで一週間も眠り続けているわけか……このまま目覚めない方がそれはそれで楽かもしれないけどな」


・・・


 目が覚めたら全てが終わっていた。もちろんすべてが悪い方向に転がったわけじゃなかったけど。

 あの後、「地球臨時政府連合」を名乗る彼らはARFの支配権から退却していった。これが一時的な物か、そうじゃないのか分からないが一先ず旧港区ダイバ拠点は安全だ。

 彼らはくうの捕獲の他に、拠点内の若い人員をどこかに連れ去ろうともしていた、それを阻止できたことは喜ばしい。幸い、怪我人も軽症者含めほとんどなし、被害もほとんどなかった。


 問題は僕たちだ、撤退させるにあたり、くうの力や、先生たちの存在がバレてしまったのだ。僕が目覚めるまでの一週間、僕らは一つの建物に軟禁されそして……


「何がARF特殊人員斥候部隊だ!何が「未だ未踏の内陸を調査することを命ずる」だ!要は理由をつけて内陸への島流しじゃねえか!」

「まあまあ落ち着いて……そもそもバクはついてこなけりゃよかったじゃん」

 怒りが収まらないのか、数分ごとに苛立ちの声を上げるバクを僕はなだめる。

 僕たち免疫能力者クラブ+一名は、内陸を調査するという名目で拠点を追い出されてしまったんだ。実際は、一生監禁するとか、海に沈めるとか物騒な意見も多かったらしいけど、叔父さんが骨を折ってくれたらしい。

 一人だけ見送りに来てくれた時の、叔父さんの一言にそれが込められていた。


「すまん……これが俺の精一杯だ」


 拠点はとっくにビル群に隠れてしまい、振り返ってもどのあたりにあるのか分からない。

「バカ、お前の「友達と生きていく」に親友の俺は含まれてないのかよ?」

「まあ、僕らといれば不死者に襲われる心配はないし、荷物の中の『おもちゃ』も試せるしね」

「なんで乙女の私が荷物もちなんだ?まあ筋力トレーニングになるし構わないけど」

「さあさあ、行きますよ?暗くなる前に休めそうな建物を見つけないと」

「いこ?チー君」

 住み慣れた安全な場所を離れる不安はもちろんある。それでも僕らは生きていけると思う、生きていかないといけない。


人類の『天敵の天敵』として。

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テンテキ・オブ・ザ・デッドwithマシーン 狐猫犬 @konekoken

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