第7話「免疫能力VS人類の英知」
「『相変わらず』月の皆さんは傲慢でいらっしゃる」
ぱち、ぱち、ぱちとゆったりとした拍手に敵兵たちに動揺が走る、兵士たちの鎧から白い煙を上げていることを見ると、どこかが壊れているのかもしれない。
「皆さんの目的も見当はついていました、なので、対象たる私たちが出る必要はないと思っていましたが、彼女を捕獲しようというならば話は別です」
思わず呼びかけそうになる僕たちに、先生は人差し指を一本口に当て、しーっとジャスチャーを返す。
「どうしました?皆さん、装置が不調ですか?」
先生の能力は、その手、拍手をするごとに振動波を生み出せるらしい、骨の構造がどうとか、筋肉の構造がどうだとか、以前前説明されたけど、正直よくわかってなかった。
要は彼は素手で拍手したり、物を叩いたするだけで物を壊したりできるらしい。
「空さん、彼らは強いですが、貴女の敵ではありません、ここは私たちで片付けますので、逃げちゃってください」
「はい!」
「センサーと主兵装が故障だと、貴様!何をした」
くうが、僕とバクを抱え上げて走り出すのと同時に、敵兵たちが一斉に先生に向かっていく。
先ほどの先生の攻撃で武器はつぶせたようだが、その圧倒的装甲と巨体のもつ破壊力は健在だ、人間一人押しつぶしてしまえば何のことはないという判断だろう。
彼らの判断は間違ってなかっただろう、相手が先生一人ならば、だが。
「おらあ!」
「なにい!?」
敵兵数体の猛スピードの突進は、たった一人の生身の女性にいとも容易く止められる。
「PWAの全力のタックルだぞ、ゴリラ―――」
「誰がゴリラ女だこらあ!!」
ゴリラの一言が気に障ったのか、機械の敵兵に対して全力の右ストレートをかます彼女、先ほどバクにマーシャと呼ばれていた女性だ。
マーシャの一撃を食らった敵兵が数機まとめて後ろの吹き飛ばされる、敵兵の鎧、PWAが大きくへこんでいる。
彼女の能力は単純明快、その筋肉そのものだ、筋繊維その物が並の人間を遥かに上回る強度とパワーを持ち、その細い肉体からは想像もできないほどの力を発揮する、バクがつけたあだ名はゴリラ女。
「いってぇ、おい、こいつ等めちゃくちゃ硬いんだけど?」
「PWAでしたか?そりゃ我々が知るより数世代進んだ技術の装甲でしょうから、そりゃ硬いですよ、直接殴るのは止めておいたほうがいいですね」
敵のPWAが僕たちを追うのをやめて、先生たちに向き直る、当然だ。彼らにとっては、地上の人間や化け物たちなんて時代遅れの存在、自分たちの進んだか学力からしてみれば、あっという間に蹂躙できる存在だ。
それ自体は間違いない、恐らくARF本部の戦力をもってしても、彼らの機械の一部を破壊できるかすらもわからない。
そんな中自分たちに対して、抵抗するどころか圧倒する存在が現れた、自分たちの天敵になりえる存在が現れたんだ、これが味方ならすごく心強いだろう。
そして敵なら、
「じゃあその辺の車でもぶつけるか?あんたも働けよな」
「私は頭脳労働のほうが得意なんですけどね」
そこには深い絶望が刻まれるだろうね。
・・・
地下駐車場の外も、すでに戦闘の爪痕が刻まれていた。といっても空を飛んでいた連中がみんな落とされていたってだけだけど。
「こっちだよ」
「鳴まで出てきて……大丈夫だった?一人で」
地下からは今も激しい激突音が響いている、先生とマーシャ、とくに後者は戦闘に有用な能力を持っているけど、彼はそうじゃない。見た目も少年だから余計に頼りなく思えてしまう。
「大丈夫だよ、敵を回避する護身術って意味なら一番強いのは僕だからね、あいつ等はうまく隠れているつもりだけど、足音も心音もよーく『見えるよ』」
「まったく、どうすればそういう能力ができるのやら、先生の拍手といい、お前の目といい。そうだな鳴、名づけるなら振動視覚(ウェーブアイ)ってところか」
「な、なんかかっこいいね」
急になんかカッコいい名前を付けだした、バクも冷静なようでこの状況にだいぶ混乱しているみたいだ。
「ねえねえ、私は?私」
さらにくうが食いついた、くうだけに。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、バクも鳴くんも、くうもさっさと逃げるよ」
何を馬鹿なことを考えているんだろう、水を飲んで落ち着いてから、自分への戒めも込めて、三人に移動を促す。周囲に敵は居らず、近づく敵は鳴君が察知できるとはいえ、こんな所でいつまでも立ち止まっているのは危険だ。
「ねえ、私は~?」
「あ~不死捕食者(デスイーター)とかでいいんじゃね?」
「え~もっと可愛い名前がいい!」
「静かにしなよ、鳴君が集中できない」
・・・
鳴君に導かれるまま、僕たちは先に進む、時に大きく迂回したり、建物の中を通ったり、一体どこに向かっているんだろう?
「もっと可愛いの!ほら猫猫ランチとかさ?」
「意味わかんねえだろそれ」
「鳴君、僕たちはどこに逃げてるの?」
「あれ?先生から聞いてない?」
どこに向かって逃げているのか、一向にわからないので、背後で未だに『くうの能力名』を議論している二人を無視して、鳴君に話しかけると何やら驚いた反応を返された。
「いや何も聞いてないけど」
「先生曰く、雑兵を倒してもあんまり意味はないんだって、敵の指揮官をつぶしてほしいって言ってたけど」
「いやいや、いくら何でもくう一人じゃ無理だってば」
いくら敵油断していると言っても、相手の指揮官なら相当の防備をしているはず、そこに彼女一人で乗り込ませるのはいくら何でも無謀すぎる。
「一人じゃないでしょ?二人じゃん」
「鳴君は戦闘向きの能力じゃないよ、数には入らない」
「もしかして俺戦力に入ってるのか?俺の爆弾じゃあいつ等には傷一つつかねえって」
鳴君が首を振り、バクが驚いた様子でこちらを見る。バクでも鳴君でもないということは、彼の言いたいことは一つだ。
「地牙にい、僕にはわかるんだ。能力者は、普通の人と何処か音が違うから」
「そんなこと言ってもさ、僕には何の力も―――」
「大丈夫、私頑張るから」
くうが会話を、その先の言葉を遮るように言葉を発する、彼女に頑張るからと言われてしまうと、僕は何も反論できなくなってしまう。
「じゃあくう姉に頑張ってもらおう、ついたよ?あれが敵の指揮してる、他と音が違う」
鳴はそういって、建物の影の向こうに浮かぶ銀色の球体を指さした。
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