第6話「逃亡」
一時間と五十分後、拠点内に集められたすべての人員を、地球臨時政府連合、特別地球降下部隊の隊長である。スミス中将は内部モニターでチェックし、その結果に舌打ちをした。
『照合プログラム一致せず、対象を確認できません』
この文字が出るのはこれで三回目、さらには別方向から調べている部下からも同じ返事が返ってきている。
「対象発見できずか、汚染された劣等種どもが手間をかけてくれる」
彼らの目的は、数日前やっと復旧できた衛星カメラで発見した『不死者を食らう少女のような存在』の回収だ。
技術部からは「できるだけ生きたまま検体を捕らえてほしい」という話だったが、彼は軍人として、そのような化け物を生かしたまま自分たちの支配圏に持ち帰る気はなかった。
しかし見つからないのであればしょうがない、先ほどの生意気な代表を締め上げればいいだろう。ひとまず中将は二つ目の目的を果たすことにする。
「物資の目録をつくれ、あと連中を男女に分けて血液検査だ、そっちの目録もさっさと作らねばならん」
・・・
第二拠点、そう呼ばれているのは司令部の対岸に見えていたビルの一つだ、拠点といっても中の不死者を徹底的に捜索、排除しカギをかけて、鍵を見つかりにくい場所に隠しただけの、ようは鍵のかかっている安全な場所である。
「ほかの連中はどこ行ってんだよ、遅すぎる。」
「たぶん、少し遠くまで行ってるんじゃないかな?ほら、先生の家は訓練名目で行けるくらい近いし」
僕らが第二拠点に到着したとき、肝心の扉のカギは閉まったままだった、それから2時間待っても、誰も集まってこない。
「にしても遅すぎる・・・・・・もしかして町中にもあいつ等が?」
「可能性はあるね、しかし連中の目的が分からないな。なんでわざわざ地球に?50年後の今更?宇宙で物が足りないとか?」
こっそり観察してみると、ロボットのような兵隊連中以外にも、銀色の虫のような『何か』も先ほどから飛び回っている。
「まるで何かを探しているみたいな・・・・・・ちょっと覗いてみるか?」
バクが自前のゴーグルをいじって、相手のほうを見たと思った瞬間、
「逆探知だと!?やべっ、ふせろ!」
バクが僕ら二人を押し倒す、と同時にドン!と強い振動がビルを襲った。
「おい、何をしたんだよ!」
「あいつ等一瞬でこっちに気づきやがった、やべえ、技術レベルが違いすぎる」
「きゃあっ、ガラス降ってきてるよ!ガラス!」
パスパスという軽い音と共に、周囲のガラスや上に残った電灯が割れ、鋭いガラス片が僕らに降り注ぐ。
正直くうは、ガラス片くらいでビクともしないけれど、僕らを心配したのか、僕らを小脇に抱えて慌てて部屋を飛び出した。
「くっそ、周囲に動体反応多数、さっきの空飛ぶ機械虫だな、さらに遠くから地面を歩いてくる物体が来やがる。数は6、この速さはゾンビじゃねえぞ」
「弾切れまで、どこか内部で粘る?」
「駄目だよチー君、あいつ等の弾、物としての形が無いいうか、なんというか」
「エネルギー弾?漫画かよ!くそが!」
どうにか階段まで逃げて、防火シャッターを閉める。幸い先ほどからガラスを割っていた連中の武器は、厚い壁や防火シャッターのような固い扉を壊すことはできないらしい。
ドンドンとシャッターの向こうからこちらを攻撃する音が響く中、くうが僕らを下して、三人で一息つく。
「決定だね、こっちを問答無用で攻撃してきたってことは、友好的じゃないってことだ」
「ゾンビさんと勘違いしたってことはないかな?」
一先ず水を一口飲んで落ち着く、こんな時でも、緊張すると喉がすぐ乾いてしまう。
「そりゃないな、ゾンビは双眼鏡は使わねえ、それにあのちっこい連中、カメラがついてやがった。こっちを確認しているはずだ」
「そっか・・・・・・じゃあ他のみんなも危ないよ!」
「分かってるけど僕らじゃどうしようもない・・・・・・一か八か白旗でも掲げてみようか?」
ビルの中をくまなく探せば、白いっぽい布の一枚や二枚あるはずだ、拠点の方向から戦闘音が聞こえなかったことを考えれば、抵抗しなければひどい目に合わないかもしれない。
「そだね、もしあれに撃たれちゃっても死ぬことはなさそうだし」
気が付くを扉に対して行われていた攻撃も止んでいた、諦めたわけではないと思うけど、とりあえず一息はつけそう、そう思った時だ。
「ビルの中にいる民間人に告げる、ビル内にいる民間人にいる。こちらは地球臨時政府連合である、民間人二名は直ちに武器を捨てて投降し、空・アユムを引き渡せ。繰り返す、民間人二名は直ちに武器を捨てて投降せよ。抵抗した場合生命の保証はできない!」
「狙いはこいつみたいだな?どうする『隊長』」
バクが隊長呼びする時は大抵が「覚悟を決めろ」という意味の時だ、無論答えは決まっている。
「でも私が出ていけば二人は助かるんじゃ―――」
「177分隊はこれより、地球臨時えっとなんだっけ?とにかく敵軍のビルの包囲を破り脱出する、異論は認めない」
くうが何かを言い出す前に隊長として宣言する、友人で恩人である彼女を、よくわからない連中に渡すわけにはいかない。
・・・
「下層階から敵性勢力三名、階段を駆け上がってくるぜ?正面入り口に三人、裏口にも三人、さらに周囲に十人以上!モニター役の面目躍如だな!襲ってこないゾンビやら、やる気のない演習相手よりやりがいがあるぜ」
僕らは階段を駆け下りながら目的の階を目指す、単純に考えても兵力差三対十六以上、装備の差を考えれば相手の一人を倒せるかどうかすら分からない。
「私が、頑張れば……どうにか……ならない?」
「試して……負けたら……どうするのさ……いいから走って、バク落とさないでよ!」
機材を弄りながら楽しそうな声を上げるバクと、それを抱えながら僕と並走するくう。
これは別に、バクがサボっているとか、くうに重い荷物を持たせているダメ野郎とかそういうことではない。断じてない。
単純にバク自身が走るよりも、くうがバクを背負って、僕がそれに並走したほうが三人の移動スピードが早いのだ。
「いいからさっさと駆け下りろ、十二階まで登られたら終わりだぞ!」
「文句いうなら、降ろすよ!」
「しょうがないだろ!お前らそろって足早すぎなんだよ!」
一応腐っても拠点だ、備蓄物はないが、十二階には非常用脱出手段がある。といっても床を階段状になるように、上から順番にぶち抜いているだけなんだけど。
「ついた!十二階、バク……敵は?」
「二つ下の階まで来てるぜ!さらにビルの周囲にも何か飛んでやがる、さっきのやつだな」
十二階に駆け込み、階段の扉に、そのあたりの廃材でつっかえ棒をする。これで時間が稼げるかは正直微妙だ。
「これで、地下まで、おりら、れるけど、その後は、どうするの?」
「しゃべるな、舌噛むよ」
下を確認する余裕がない、とにかく一階一階素早く飛び降りる、幸いこの非常用階段?は地下まで通じている。地下を通れば一回の入り口や周囲を警戒している連中を巻けるかもしれない。
一番地下まで飛び降りたとたんに、光源が僕たちを取り囲む、同時に赤い点が僕らに狙いを定める。
「まじかよ……こっちの計器には何も映ってなかったぞ」
「そんな旧世代の装置に捕捉されるほど、我々は低レベルではない……大人しく女を渡せ」
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