第4話「免疫能力者」


 翌朝、僕らは任務のない休日なのに、装備を整えて正門に向かった。

 別に出撃曜日を間違えたわけじゃない、昨日の流れ星ことを確認するため、行きたいところがあったんだ。

「あれ?お前ら今日は休暇じゃなかったっけ?」

「自主訓練だよ、帰還予定は五時間後ね」

「いつも熱心だよなあ、さすがエース部隊」

 このダイバ拠点は正門以外の出口は、すべて封鎖、というより破壊されている。

 トンネルの類は、瓦礫と硬化剤によってネズミの通る隙間もないほど完璧に埋められ、橋の類もすべて途中で落とされている。

 この拠点から出入りしようと思ったら、嫌でも正門を通るしかないが、任務もないく外に出ることは認められていない。そのための口実の自主訓練だ。

 この訓練、遠くまで行ったり、収集任務の様に長時間外に出ることは認められていないが、特に回数に制限はない。だから外に出る用事がある時にはよく重宝させてもらっている。

「ねえ、チー君、また先生のところに行くの?いつもは一週間くらい間を開けるのに」

「なんでってそりゃ・・・・・・ああ、お前は寝てたんだっけか」

 昨夜の流れ星のことは、夜遅くの出来事ではあったが、宿直の部隊や多くの人員が目撃することになった。

 その後噂はあっという間に広がり、翌日の朝食の時点では九割の人間がその話でもちきりだった、知らないのはご飯を食べるのに夢中になっている奴くらいである。拠点内でも、

「早急に原因を調査し、皆を落ち着かせるべし」

「何があるか分からない、防備を固め、本部に援軍の要請をおくるべし」

 と意見が分かれていた、早朝開かれた大隊長以上の緊急会議の結果、

「相手の正体は兎も角、この現象で不死者たちが活性化する可能性もある。正門の防御と監視の増員、および防衛部隊の待機人員の増員し本部への指示を仰ぐ」

 と言うことになった。


 ただのいち分隊長にこれ以上出来ることはないし、関わる必要も今はない、しかし分隊内に『唯者ではない』分隊員がいるなら話は別だ。

 今回の出来事と彼女の存在に、何か関係があるならば、速めに情報を手に入れなければいけない。そのために行く必要があるのだ。


 彼女の仲間たちの元へ


・・・


 拠点の外、かつて不死者が、そこに働く人々を蹂躙して、人の姿がが絶えてもなお、未だ自己発電システムと強固な防犯システムが生きているビルは幾つかある。

 ではなぜARFがその様なビルを占拠し利用しなかったのか?

 理由は簡単だ、その閉じられたシャッターの向こうに、どれだけの不死者がいるか分からない。そして閉鎖された各階層に、何体の不死者がいるか分からないからだ。

 電気が不足しているのならともかく、人員も装備も不足している中、拠点から遠いそれらのビルまでも全て占拠する余裕はなかったのだ。

「バク、周囲の反応はどう?」

「ないな、あるのはビル内にだけ」

 僕らがやってきたビルは、そういったビルの一つ、かつては飲食店とオフィスの複合施設で多くの人々で賑わったのだろうが、今は周囲を囲んでいた大きな窓や扉には頑丈なシャッターが下りて、不死者は愚か、小動物ですら入り込む隙間はないように見える。

「せんせー、あーそーぼー」

「あそぼってカラ、友達の部屋に来たんじゃないんだから、それにわざわざ声をかけなくても―――」

 僕が最後まで言葉を紡ぐ前に、ビルのシャッターの一枚が開く。

「そうだよ、騒がしい君らの声は良く『見える』からね」

 シャッターを開けた少年は、苦笑いをしながら僕らを迎え入れた。


・・・


 ビルの一角、かつては多くの人が食事をし憩いの時を過ごしたであろう食堂のような場所、そこの並んでいたテーブルに変わり、今は住人の荷物が散乱している。

「地牙君、やはり来ましたね」

 一人は白髪交じりの中年の男性、服装は煤けたシャツに擦り切れて若干汚れた白衣とモノクル、周囲にはアンティークのソファーとライト、テーブルには僕たちの分を含めた人数分のハーブティーが並んでいる。乱雑とした部屋の中で唯一、どこぞの屋敷の部屋のように整然とした空間だ。

「ふっ、そりゃ来るだろ、他に頼る場所もない」

 一人は巨大なダンベルを片手で持ち上げるトレーニングウェアの女性、正確な年齢は分からないが、少なくとも三〇代より下なのは間違いないだろう。ダンベルだけでなく、彼女の周りには、様々な筋力トレーニング用の器具が散らばり、周囲には大掛かりな筋トレ用の機材が並び、その一角は彼女のためだけのジムと化していた。

「来るのはいいけど、もう少し静かに来てくれないかな?」

 最後の一人は、先ほどシャッターを開けた小柄な少年だ、見た目の年齢は二ケタに届いたかどうかだろう、シャツとジーンズという至って普通の格好。人目を引くのは瞳を完全に覆っている黒いアイマスクと大きな赤色のヘッドフォンだろう、これでは目も耳も潰されているに等しい。だが彼の周りに広がっているのは、不死者が蔓延する前のゲームや漫画などの娯楽道具、少なくとも目が見えない少年には無用の物だ。

「まあまあ、我々『免疫能力者クラブ』は仲間とその友達の来訪は、いつでも大歓迎ですよ、地牙君」

 僕ら三人に椅子に座るように促されながら、先生、くうの仲間は笑顔で僕らを迎え入れた。


・・・


「ほれ、筋肉女、お土産だ泣いて喜べよ、「このゴリラ女、マーシャ・フィールドに御恵みください」って言えばやるぞ?」

「誰が泣くか、背骨へし折るぞ女男、さっさとその魚をよこせ」

「ほら、鳴君お土産、探してた漫画の四巻」

「さっすがくう姉、僕の好み分かってるね」

 貴重な動物性たんぱく質である干し魚をエサにマーシャといがみ合う焔と、鳴が探していた漫画を一緒に読むくう。

 二人が、それぞれ戯れている中、僕は先生とテーブルについてハーブティーで喉を潤していた。

「昨夜の流れ星、いえ船の件で来たのでしょう?」

「船?あれは空から落ちて来たんだよ?」

 先生はお茶のお代わりを継ぎながら、話を続ける。

「宇宙船いえ、正確には地球降下艇と言うべきですね。宇宙から降りて来たんですよ」

「何々?それって宇宙人!?宇宙人って美味しい!?」

「宇宙人ってことは未知の物質だよな、凄い爆弾とか作れるんじゃねえの!?」

 宇宙という単語を聞きつけたのか、二人が物凄い勢いでテーブルに突っ込んできた。どうにかお茶のコップが倒れるのだけは防いだけど危ないなぁ。

「美味しいかどうかは兎も角、焔君の言うことは半分正解ですね、彼らは宇宙人というわけではありません、しかし我々にとって未知の物質はおそらく持っているじゃないでしょうか?お話ししましょうか、あの事件の時、地球の外に脱出した者たちの話を」

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