第3話「トウキョウの街、流れ星」


 さて、夕飯抜かれてしまった僕だけれど、お腹を満たす方法がないわけではない。別に世界は核戦争で滅んだわけじゃないから、海に海水はたっぷりある、

 様々な物資が慢性的に不足しているこの拠点だけど、幸いにして水と塩だけは使い切れないほどあるんだ。

 一先ず水と一つまみの塩でお腹を満たそうと、ボトル一杯の水を飲みながら僕は海を眺めながらぼんやりとしていた。。

「よう、隊長、こんな所で寝ていると風邪ひくぜ?寝るなら自分の部屋で寝ろよな、あと飲み過ぎ、漏らすぞ?」

「寝てないよ、後漏らさないし。晩御飯の匂いを嗅がない様にみんなから離れてるんだ」

 水で膨らませた腹を抱えつつ海の見える階段で座り込んで、対岸を眺めていたら、空腹の元凶其の一が現れた。

「ほうほう、海の向こう、というか対岸の廃墟なんか見てどうした?あれは食えないぞ?」

「殴るぞおい」

 僕の殴る真似にバクはきゃっと頭をかばう、きゃあと言うと無駄に似合うから反応に困る。

「そうしていると女の子みたいだね」

「あ?そういうこというか?やらねえぞこれ」

「すみませんでした、天才バクダ様」

 バクが懐から焼いた芋に僕は平伏する、バクもそんな姿に満足したのか芋を投げてよこした。

「まてよ、これってまさか?」

「安心しろ、他の連中との賭けで巻き上げたもんだから盗んでねえよ」

 一口齧ろうと思った瞬間、嫌な思い出がよみがえった。以前も同じ罰を全員がくらったことがある、あの時はうっかり備品が壊れたんだっけ。それで空腹に耐えきれなくなったくうが、食糧庫を襲撃したのだ。

 負傷者二十名、拠点を襲撃したのはゾンビじゃなくて、謎のUMAってことで今もダイバ拠点内七不思議として怪談の一種として語り継がれている。

 真実を知っているのは、襲撃した食料を一緒に返しに行った僕とバク、あとは叔父さんくらいだろう。

「あの時はほんとにヤバかったな、いろんな意味で」

「叔父さんはブ千切れるし、くうは空腹で不機嫌だし、バレたら大変だから噂を流したりして大変だったよね」

 結果三日連続で僕だけ夕飯を抜かれることになった忌まわしき記憶が頭を蘇る。

「そういえば、元凶其の二はどこいった?」

「誰が元凶其の一なのかは聞かないでおいてやる。あの大食い娘なら、夕飯の芋を見ながら格闘してたぜ?『チー君にも分けてあげたい、でもちょっとくらい食べてもいいよね?』って世迷言を言いながらな、その時点で半分くらい無くなってたから今頃三分の一くらいじゃないか?」

「もしかしたら一欠けら位持ってきてくれ・・・・・・ないね」

「ないだろうな」

 何方からともなく笑いが漏れる。こんなふざけた世界でも素直に笑えるってことは、不幸な世界にしてはそれなりに幸せなんじゃないだろうかと、空腹の僕は現実逃避をしながら笑い続けた。


・・・


 一頻り二人で笑い合った後に、僕らは坂で寝ころびながら空を眺めていた。

「なあバク」

「あ?もう芋はないぞ?」

「芋はもういいよ。昔は、いったい何人ぐらいがこの都市に住んでいたんだろうな」

 頭を上げた僕の視線の先、対岸にはたくさんのビルが、明かりを灯されることなく立ち並んでいる。

「住んでるも何も、あの辺のビルは住居じゃねえだろ?オフィス系のビルばっかじゃん」

「知ってるよでも、あそこで働いていた人々だってさ、どこか住む場所があったはずだろ?」

「そりゃそうだ、全員が俺らみたいに元ホテルを寝床にしているとかじゃないだろうし、どっかに家はあったんだろうな」

 今ここに暮らす人々は、収集部隊600 守備部隊300にその他生産部隊含む1100、生産部隊などと言っているけれど、所謂労働者だ。作物を作るもの、電子部品から新しいものを作るもの、食事を作るもの、様々だけれど皆必死に今を生きている。

「それに上陸拠点はここだけじゃないし、他の上陸拠点の周りにだって、あんな感じの街がある」

「らしいな、子供のころ船の上からしか見たことはないけど」

「いつか、元の・・・・・・ゾンビがいない世界に戻れるのかな?」

「何を持って戻ったというのかはともかく、さあな?世界中の人間が結集すれば可能かもしれないが、今はそんな余裕ないしな」

 そう、今の人類は人口も土地も、生産力も技術力も何もかも余裕がない。それは人類以外の存在を認めることができないほどに。

「くうのこと、みんなに話さないのか?」

「またその話?」

 そう、くうのこと、空・アユムの能力のことは拠点の誰も、叔父さんにだって伝えていない。

「何度も言ったろ?『先生』まだ早いって言ってるって」

「何度も聞いたし本人にも聞いたよ、だけどよ・・・・・・もしあいつ等の体から完全な抗体が見つかれば」

「バク自身調べてもそんなものなかっただろ?」

「いくら天才の俺でも個人で使用できる機器じゃ限界があるんだよ、本部の機材を使えば多分はっきりする」

 ARFによって、いや地球上に生き残っているすべての人類にとって、ウィルスの完全なワクチンを作ることは悲願だ。それでも、

「僕はあの子を実験動物にしたくない」

「だろうなぁ、お前はほんとにあいつに甘いよな」

 いい加減くっ付けばいいのに、みたいなことをバクがつぶやいていたけど、無視しておこう。



・・・


 そろそろ夜も更けてきた、僕らの分隊は明日は休暇だけれど、そろそろ寝た方がいいかもしれない。そんな風に夜空を見上げていた時だ。

「ん?流れ星かな?」

「どこだ?って言っても、言っている間に消えるわな」

「いや、まだ出てる」

 僕の視線の先、幾つものオレンジ色の炎が尾を引いて、トウキョウの街並みに落ちていく。

「流れ星って言うより・・・・・・彗星?いや違うな」

 バクがゴーグルについているスイッチをいくつか弄る、バクは絶対に僕たちに触らせてくれないが、望遠だとか暗視だとかそういう装置がついているらしい。

「良く見えねえなぁ、隕石か?」

「隕石って・・・・・・大丈夫?衝撃とか」

「この距離じゃ意味ねえ・・・・・・儚い人生だったな」

 オレンジ色の軌跡は一つや二つではない、軽く十は超えているだろう光源はゆっくりと消えていた。いつまで待っても爆発音もなければ衝撃もやってこない。

「これって、どういうこと?」

「燃え尽きたんじゃね?・・・・・・もしくは減速したんだろ」

「減速?そんなことあるの?」

「・・・・・さっきのアレが人工物ならな」


・・・


 イチガヤ駐屯地、かつてここに二ホンという国があった際、その自衛のための人員が配置されていた場所に、空から降下してきた無数の玉葱状の船が整然と並んでいた。

 着陸して数十分、幾つもの機械が機体の周囲を動き回り、あるものは周囲を監視し、あるものは空からの偵察、あるものは周囲のゾンビたちを排除に、あっという間にその場所を彼らのテリトリーへと変えていく。

「降下艇、全機の着陸を確認しました、これより帰還用シャトルの設置、およびベースキャンプの作成を行います」

「各機、気密チェック問題ありません」

「了解した、全部隊に繰り返し厳命、ベース及び機外でのPWAの脱着は禁止、外部から帰還した際は2重の洗浄および検疫をうけること。万一PWAの不調や破損などにより、外気と接触したものは隔離、二十四時間の洗浄房での待機を命ずる」

 もし地上の科学者が彼らを見たら驚きすぎて気絶したかもしれない。彼らの降下艇一つ、いや彼らが捜査しているドローンマシーンを1つを見ても、今の地上の、どの勢力も保有していない、最先端の技術が使われているのだ。

 では彼らは何処ぞからやってきた宇宙人かと言えばそうではない、その中に乗り込んでいるのは、人種は様々だが、間違いなく人類だった。

 ただし子供や老人は一人もいない、彼らは全員が屈強な兵士ではあった。

「作戦目標を改めて通達する、第一目標『人に擬態した不死者の回収』第二目標『地上人類の繁栄と汚染度の確認』前者は必ず生きてとらえよ、命令があるまで現地住民への攻撃は禁じる」

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