ローレライの火種 4
ソラとの出会いは侯爵の娘ベラドンナにとって有意義なものだった。先週の出来事は確かに驚きであった。平民でありながら金を持つ。他国であるからゆえに自国の民とは扱いが違う。この国の貴族が圧力をかけようにも、それより遥かに上回る経済力。大国である王国の民に、ローレライの貴族が行動を侵すにはリスクが。ありすぎた。
だから平穏だった。
全てが関わらず、無視をしてくる環境に落とされた現在。ソラは味方だったといえる。貴族も平民も誰かの目を気にし、立場を気にし関わらない。そんな中、渦中にあるベラドンナの立場に自分から近づき、関わろうとするソラは貴重だ。
侯爵の娘。忠義者の一族。
それを貴族が子供に理解させる学園。実家の力やかかわりを薄くしている中、いかに自分の立場を思い出せるかどうかの環境でもあった。
学園の中は地位は関係ない。
学園の外は地位が深くかかわる。
それを貴族とはいえ、子供に理解させろというのが無理な話。物ごころついたときには学園なのだ。貴族の建前を教え込むにしても、学園に放り込む前。学園に入れば、その環境に根付くのが人間だった。
ベラドンナは学園の敵になっている。
伯爵の娘、カルミアを虐め倒す権力者。
地位の重さを忘れるくせに、やること、やられることに対しては相手の地位を悪評に加えていく。侯爵が問題を起こせば、侯爵は傲慢だと悪評が着く。しかし侯爵の重さを軽めにとり、自分に都合のよいように脚色を加えていくのだった。
だからかソラが学園に訪れた一週間が、ベラドンナにとって心地よいものだった。
ローランドはカルミアが隣の席になったときから、学園に通うようになった。ベラドンナが隣席のときは避けるようにしてきたのにかかわらずだ。もはや誰もが見てもわかる。
ベラドンナは拒否られている。
その屈辱、事実がベラドンナを強く嫉妬させる。しかし侯爵の娘である以上、忠義者の一族である以上、口を出せなかった。この負けっぱなしの状況で口を開くことこそ、敗北者だと証明してしまう。
されど、その嫉妬も多少であるが緩和されている。
授業の合間の休憩時間。一つの授業ごとに一定の休憩時間を与えられている。その休憩時間は教室の移動の際で活用されることもあるし、休むことにも活用される。誰かと会話されることでも使用される。
今ベラドンナは廊下をソラと歩いていた。隣どうしで歩くさまは、お互いの配慮さが少ない関係性にみえるだろう。移動する際、ベラドンナから極端に後ろの位置で歩く生徒。もしくは極端に離れた位置で先行する生徒。その中で隣同士で共にあるくのはソラしかいなかった。
それですらどうでもよかった。ソラは最初、ベラドンナの後ろを歩こうとしたが、ベラドンナが拒絶した。誰も味方にならないのに、唯一の味方であるソラを後ろに置きたくなかった。
そのベラドンナは自分の寂しさを理解し、配慮という形でソラに隣を歩かせ誤魔化した。
「王国には平民であろうとシェフ負けの料理を出す人がいるんです。あの料理は王国でも未知の料理でして、どの資料にも載っていないんです。単純な同一肉を一つの塊にしただけといえば、言葉が悪いです。しかしその中に野菜を入れ込み、しゃきしゃきとした野菜の味がすごいんです。野菜が生なのでなく、火が通ったうえでのシャキシャキ。肉の味が大本なのに、素材がもたらす汁を使い、中に入れ込んだ野菜が肉汁と重なったときの絶妙さは異常です。また赤い独自のタレは、多少すっぱくも甘く、心を沸き立たせる感動があります」
ソラは興奮気味にベラドンナへと乗り出している。歩く際でありながら、平民のソラは一切気にすることなく、ベラドンナに語り継いでいる。その姿は青年と子供の狭間でありながら、子供の無邪気さを前面に押し出した姿だ。愉快気に、本当の意味で喜びを見せていた。
その姿、その興奮。どこか懐かし気な思いをはせながら、ベラドンナは仏頂面を貫いている。
それをベラドンナは何時ものように見下すようにしつつ、口を開いている。
「あら、そう。きっと腕が上手いのね。平民でも有能な人間がいることは知っているわ。実際に何人もあったことがあるもの。ソラが料理の腕をほめるのであれば、多少は信じられるわ。ソラがいう肉のかたまり?その料理一度食べてみたいとすら思えるわね」
そう、ベラドンナはソラの言葉を聞き、料理の腕の話を聞き、それであって否定しない。平民だから食える料理の幅が狭いという事は言わない。そもそもローレライの平均的貴族が出せない学園の一年分の運営費を出せるソラの実家。その実家が子供に贅沢をさせないわけがない。常識がないわけがない。常識以上のことを知らないわけがない。
だからベラドンナは否定しなかった。
仏頂面のまま、ソラを肯定したのだ。ソラが唯一の会話相手だからこそ、配慮した。ソラが言うのだから、多分そうなのだろうと勝手に判断した。
「ええ、確か名前はハンバーグとかいってました。そのシェフは気まぐれなんです。いいことがあったとき以外絶対にハンバーグなんて作ってくれないんです。僕やシェフの仲間たちがいくら頼んでも、一切つくりません。気が向いたときに、意見を聞き、作ってくれる」
ソラは笑いながらベラドンナへ語り掛ける。愉快気に子供らしくある。そこに大人の姿はない。力がある平民の姿ではない。
好きなものを語る、男の子の姿だった。
その姿に多少、覚えがある。ベラドンナの胸の中にある記憶。ローランドがカルミアに絆される以前。子供のころのローランドの姿が思い浮かぶ。ローランドと中庭で遊ぶベラドンナ。その際、弟君であらせられるローギニア第二王子もいたのだ。第一王子、第二王子と侯爵の娘ベラドンナ。三人の子供が遊ぶ中、ローギニアが転び怪我をした。こけた際、膝をすりむき、立ち上がったあと、すぐに座り込んだ。痛みに泣きわめくローギニアの姿。それをベラドンナが怪我した箇所の汚れを落とし、魔法で水を出し洗浄。あとはハンカチで傷口を縛った簡易治療をした。
その姿をみたローランドは職人だなとベラドンナをほめたたえた。
けが人を見た際、アーティクティカ侯爵の家訓にこうある。
忠義者である下の者に対し、配慮をみせよ。その配慮したものが動けずとも遺族が我々の為に動く。家族が動き、その身内が忠義を示す。そいつらの友人たちも忠義を示す。怪我とは忠義を集める絶好の機会であると。
逆に上の立場に対し、忠義を見せよ。もし忠義を見せた我々が動けなくなっても、その上位者は必ず我々に配慮を見せる。その配慮に忠義を指し示せば、動けずとも排除されることはない。忠義を見せるものを容赦なく排除できる権力者などこの世に少ないのだ。
その家訓に従って動くベラドンナをローランドは褒めたたえたのだ。当時王族で王子で子供のローランド。ローレライの国力の差を知らず、世界と広げられた差をしらないからこそ、自国の職人たちの力を高く見ていた節があった。ローレライは強く、技術も高い。職人たちが技術を高めるからこそ、ローレライは強さを保つ。そういった技術志向における考えが偏向して進んでいたのだ。
だからかベラドンナの姿を見て、職人と褒めたたえた。
ローランドは職人が大好きな王子だったのだ。
その過去を思い出し、ベラドンナは懐かしさを感じた。そのローランドの子供の姿と今の姿。二つの代わりの強さに少しばかり苛立ちがつのった。
「どうしました?」
ソラが心配気味にベラドンナを見つめた。
他国の平民であるソラに逆に配慮されてしまえば、侯爵としてのプライドが先に立つ。
「なんでもないわ。懐かしい過去を思い出しただけ」
偏屈気味にベラドンナが返せば、ソラはそれを馬鹿にすることなく無邪気に笑って見せた。
「素晴らしい過去だったんでしょう。だって、先ほどのベラドンナ様は幸せそうでした」
ソラはそうして、踏み込んできた。ベラドンナが浮かべた過去の記憶。その記憶を探りよせるうちに、過去が幸せを持っていたということを表情で表してしまったのだ。
喜色の表情をその時、ベラドンナは僅かに浮かべてしまった。
たかが一瞬の出来事。それをソラは見抜いて見せた。
ベラドンナはわずかにソラに対し警戒心を抱いた。悪い警戒心ではない。ただ単に恥ずかしいことによる自分への喚起だった。
「・・・まあ、悪い過去ではなかったわね」
答えないことはない。答えなければ貴族として負けを認める。仏頂面でありながら頬を多少赤く染めて、ベラドンナは答えた。
「過去を思い出して、喜ぶのは良いことです。だって過去と未来を比べて、更なる幸せをみつけれるのですから」
ソラの言葉は未来が幸せであることが前提のようだった。無邪気に愉快気に告げるソラの言葉にベラドンナの口は多少重かった。
「未来が幸せとは限らない」
否定ではないが、否定に近いベラドンナの声。
「いいえ、幸せです。未来は確かに不幸になるかもしれません。でも幸せになるんです。未来には未来の価値観がある。昔は嫌いなものでも未来は好きになるんです。だからきっと幸せになれます」
絶対的に明るい方へとソラは話を進めていく。
歩く足は止まらない。
しかしそのソラの物言いにベラドンナは挑発された感じがした。
だからか、思わずベラドンナの口から意地悪な思いが炸裂したのだ。
「昔が好きであって、未来が嫌いになる可能性は?」
きっとベラドンナの想いがはじけたのかもしれない。小声でありながら、ソラにだけは届く思いの叫び。それを仏頂面に告げたベラドンナに対し、ソラは一切視線を交わさなかった。
「それは昔から好きじゃなかっただけの話です。昔が好きで、未来が嫌いなんて、大したことはないんです。はじめから好きじゃなかったからこそ、未来で嫌いになっただけのことなんです」
まるで言葉遊び。
未来が嫌いになる可能性を問えば、初めから好きじゃないという答え。初めから好きじゃない者が嫌いになっただけのこと。
ソラはつづけた。
「だってそうでしょう。好きなものを嫌いになるなんて普通はあり得ないんです。たとえどんなことをされても好きなんです。裏切られても、嫌われても、好きなものは好きなんです。嫌いになれというほうが難しい。好きじゃなかったものを嫌いになれる未来は幸せです。いらないものと判断する価値観を手にいれられる未来は確実に幸せなんです」
力強くソラは語る。
平民のくせに、やたら心象意識に残るように問いかけるかのようだ。
「果たしてそうかしら」
その平民であるソラに対し、ベラドンナは強がりをいうので精いっぱいだった。仏頂面の中には理解できる部分が多大にあった。しかしながらそれを否定することは自分を否定することに他ならない。なぜなら過去の自分が好きなものが、未来の自分は嫌いになる。
それをはじめからなかったことにするかのような話なのだ。いらないものと捨てられれば、自分の悩みは全て消え去る。消してしまったほうが楽でありながら、消したくない。
「そうです。だってベラドンナ様は、現に悩んでいるじゃないですか。つらそうじゃないですか。僕にはわかります。過去の自分が得た大好きを未来の自分が嫌いになりそうと思って辛そうなんです」
「そんなことないわ」
否定しつつ、否定しきれないベラドンナの心。そんなのは誰かに言われずとも自分がわかること。しかしながら他人に言われて認めるなど侯爵の娘らしくもない。
「ベラドンナ様は強くて、優しいからこそ、そうやって強くあろうとします。僕は平民ですが、商人の子供です。それなりに多くの人々を見てきました。その中で比べてはいけないことでしょうが、ベラドンナ様みたいに悩む御方も沢山おりました。過去を捨てられず、未来を恐れる方達を沢山。だから僕は思うんです。未来を不幸として悩むぐらいなら、幸せになると思い込んで進んだ方が楽しいって」
ソラはベラドンナにしか聞こえぬ声で言い、つづけた。
「ベラドンナ様が悲しむ姿は見たくない」
そっと告げた。
その言葉がベラドンナの心に突き刺さるが、侯爵の娘としての仮面がそれを大きくはじき返す。突き刺さった心の致命傷。それを無理やり仮面で引きはがす。
「ソラ、他国であろうと平民。それ以上は侯爵としての立場で警告します。わたくしを一緒にしないでほしいわ」
「むろんのことです」
足は止まらず、次の教室へ進む。ベラドンナが大きくはじき返しても、ソラの態度は変わらない。傷ついた様子もなければ、次へ進む足を止めることもない。言葉が人を傷つけるが、ベラドンナの想いがソラの行動を止める様子はなかった。
強い平民。
ベラドンナは思う。
なぜ他国なのか。
なぜ平民なのか。
そう思うぐらい、ソラに強さを感じてしまっていた。自分が欲しかった姿。相手に求める精神的強さ。ベラドンナが求める理想像をソラは全て兼ね備えていた。
まるで理想をよまれているかのように。
足が階段を下りていく。一段降りていくたびに無言が進む。しかしながらソラは気にしたことがないように笑みを浮かべつつ、時折ベラドンナへ視線を向ける。それをベラドンナが無視。
「あははは・・・」
無視したベラドンナに対し、乾いた笑いをソラは浮かべる始末。
日常。
これこそが日常。
ベラドンナが求めた日常がそこにあった。
終わってほしくない日常が、すぐ目の前に立ちふさがっていく。階段を降りた際、階層が変わる。貴族の階級からこその最上階。その最上階から最下層へ下りれば、目的地の教室だった。
その次の授業は歴史科目。ローレライと他国の歴史を学ぶ授業だ。その授業は日常をすごす教室から離れた教室であった。小国でありながら学園の敷地は広い。またルールも独自性を保つ。学園での学年のクラスはあれど、授業を受ける際は他クラスの生徒と合同で行われるときもある。元々過大な広さを持つ教室。一つのクラスの生徒だけじゃ教室は埋まらない。
移動する際の教室の席だけは自由だ。日常をこなす席だけが指定されているだけだった。
ベラドンナは窓際で一番後ろをとった。ローレライの中で後ろの席は人気があるようで、全くない。なぜなら最後列の席は薄気味悪いからだ。照明の位置が教室の中央より前列気味にあるせいか、最前列はうす暗いのだ。窓際であっても、最後列は日が当たりにくい。前の席になればなるほど高位の者たちが座るローレライ。後席になればなるほど地位が低い者たちが座る席。
その文化の中でベラドンナは後ろに座った。
そして、その隣を迷わずソラが座った。
この一週間で迷うことなく隣に座るソラに対し、何もベラドンナは思わなかった。
いつものこと。
いつもだから安心する。その表にだせない安堵感がベラドンナにはあった。
しかしながら、その日は違った。
はるか先に先行して教室に付いたものたちの声がかかっていたのだ。ベラドンナが最後列ならば、その声は最前列からなるもの。後ろからでも見えるように大きく手を挙げたものがいる。
「ソラくーん。ローレライの歴史は、前の方がわかりやすいよー!」
か弱く、気弱く、されど高らかに。手を挙げたものと甲高い声が教室に響く。その微弱である気配でありながら、耳に通れば心地の良い声の持ち主。
伯爵の娘カルミアが大きく手を振るように、最後列のソラに対し手を挙げていた。
ベラドンナに対しては無視。
侯爵と伯爵の差。
それを理解しつつ、侯爵の娘である以上、地位の差を見せびらかすことの恥ずかしさをしる。だから歯向かえない。その立ち位置を上手く利用したのかもしれない。しかしながらベラドンナには余裕があった。
ソラはいかない。
どうせ隣で適当に学ぶ。
その余裕があるからこそ、ベラドンナは何も言わず睨みつけるだけだった。その睨みに対し、カルミアは大きく反応するようにし、声を高くした。
「ベラドンナ様、申し訳ありません!」
知っていて、わざと声が教室中に届くようにしているのだ。カルミアは、それでいて視線がカルミアとベラドンナにいくことを理解し、実際そうなった。
ベラドンナは語ることこそ無意味としり、何も言わず無視した。
それをカルミアはワザとらしく涙を浮かべ、ハンカチで目元をかくした。
「本当に申し訳ありません!」
この空気、元々作られたベラドンナの敵対者的な立ち位置。その中で、カルミアとベラドンナのソラの奪い合いがあったのだ。無視するベラドンナと、ひたすら表に表すカルミア。その渦中にある財閥であり他国の平民なソラ。
ベラドンナに余裕があるのは、ソラがいかないことを無自覚に理解しての事だった。
だからだ。
いつも隣にいるものが、席をたつ姿に表情が追い付かなかった。
一度は座った席を大きく下げ、音を立て、立ち上がるソラの姿。
カルミアの言葉に、ソラは大きく合わせるように声を高くした。
「本当ですか!!歴史は前の席のほうがよいんですか!!!」
「もちろんだよ!!」
まるで示し合わせたかのようだ。しかしながらソラはそういう人間じゃない。数日前、数分前の過去の自分が嫌いじゃないと判断したソラがそんなことするわけがない。過去は捨てられないと、過去は嫌いじゃなかった。そんなベラドンナが思いついていい答えじゃない。
教室中に響くカルミアの声とソラの合わせ声。
しかし懸念があるのか、悩むそぶりをみせるソラ。
「ですが前の席は埋まってしまっています」
ベラドンナから見ても、ほとんどの最前列は埋まっている。高位貴族が更なる上位者のための席取りと、高位貴族が下位貴族のために位置確保した以上の席以外ほとんどない。
しかし、もう一つ席はある。
カルミアが独自に確保した席だ。
自分とローランドの席のほかに一つ確保した空席。
「大丈夫、あるよ、私、ソラ君のために席をとっといたんだよ!!!」
「そ、そうなんですか!!ありがとうございます。僕、本当にローレライの歴史が大好きで!!学びたいと常に思っていたんです!!」
そんなに騒ぐ必要はなくても、声を荒げるカルミアとソラ。
教室中に視線がベラドンナとカルミアに流れていく。
ベラドンナは思わず、ソラを見つめた。驚愕したように、予想外のような表情を浮かべている。それをベラドンナは自覚しつつ、抑えきれなかった。その様子をソラは一切みることなく、席を立ち、最前列へ自分の荷物を持って移動し始めていた。
これは何だ。
何事なんだ。
思わず、机を叩いた。響くことのない音。か弱い娘の力では叩く音すら教室に響かせられない。その言葉に出ない抗議の想いが、机に八つ当たりされていた。
ソラは自分の隣から離れ、前へ行く。
奪った相手、カルミアの隣へ突き進んでいく。
そうやってソラはカルミアがとっていた空席に荷物を置き、座り込んだ。最前列と最後列。手を伸ばしても絶対的に届かない距離。
それにてソラはカルミアに大きく頭を下げた。
その光景、自分の立ち位置にいた数少ない理解者。自分と敵対する相手と理解者が楽し気に会話し、頭を下げあい、隣に座って笑いあう姿。カルミアの隣に元々いたローランドが不服そうなのも胸に来る。
ソラがカルミアの隣に座った際、笑顔で話し合う姿にローランドが楽しくなさそうにする姿が見えた。ソラが座る前は幸せそうにカルミアといたのにかかわらずだ。
その姿は好きな相手が誰かに夢中で、嫉妬する男の姿だ。
ソラがカルミアと話すのも胸に来る。好きだったローランドはカルミアに心を奪われた姿を改めてみさせられるのはきついものがある。カルミアとソラが交流を深めれば、ローランドは嫉妬。ローランドが嫉妬すればベラドンナが現状に心の悲鳴を上げる。カルミアとローランドの関係、カルミアとソラの交流、どうして自分の物が奪われるのか。
ローランドはカルミアに奪われたと思ってはいた。しかし実際に見せつけてくれる場面において、知っていた事実など盾にならない。奪われたのは知っていると強がってはいても、現実は重くのしかかってくるのだ。
カルミア。
どの毒牙は侯爵の娘であるベラドンナの身近なものにつきたてられている。
その事実を噛みしめ、べラドンナは強く歯噛みした。
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