ニクス大商会
今のニクス大商会の拠点は要塞ともいえた。元のニクスフィーリドの拠点を一度解体し、新築のものへと変えた建物だ。また土地も多く買い占められ、ニクスフィーリドの拠点よりも広さがとれていた。防音性に優れた厚み、突然の攻撃に備えられた強化外壁。表向きはベルクの建物に同化した石造り。少し目立つとすれば、ベルクの建物、領主の館よりも僅かに低い高さ。
3階建てのビルに見える。異世界の住人が見ても、よくある見た目の建物だ。目立たない、高さ以外。しかし実態は要塞だ。建物に入った瞬間、外の音が極端に聞こえなくなる。伝達を防ぐ術式がこめられ、内部では外と建物内の音が聞こえづらい。大声で入り口付近で騒ごうと、一階奥まで届かない。
また内装に関しても傷がつきにくい、衝撃を吸収する獣の皮を壁紙に使っている。皮を加工し、繊細な黒へ染色されていた。その皮は貴重ではない。しかし数が尋常ではない。一階から3回すべてに壁紙として使われ、統一されている。黒一面の一階、二階も三階もも黒一面。その内側のうす暗さをカバーするために、手のひらサイズの魔結晶を壁の上層部分に一定間隔で取り付けられていた。
しかし魔結晶の光と黒の内装。高級感というよりは、牢獄を思わせる。外壁も内側も戦闘前提で構築されている。傷がつきにくい、もしくはついても修理しやすいよう三重構造のものだ。外壁、基礎壁、防壁。その防壁に壁紙がしきられていた。しかも防壁はそこらの冒険者が本気を出しても傷つけれたらいいほうの強固さ。
ベルクを代表する組織。ニクス大商会は商人としての一面を見せたのでない。金はかけたが、武力面による恐怖の面もアピールしていた。また隠してはいるが、地下もある。地下2階に及ぶものだ。そこには武器が保管されていたり、戦闘員たちのグループごとに区切った空間でもあった。
ニクス大商会の本拠地だからこそ、防衛はしっかりしていた。ただしリスク分散はされている。
リスク分散として、戦闘員たちはベルク全体に広がっている。
それぞれ小さな拠点を作り、町全体に影響を及ぼしていた。そこに商人が立ち、商店の顔をしているだけだ。表向きに武力面を出さない。民衆はそれを感づきながら、気付かないふりをした。
好景気をもたらしたニクス大商会に歯向かう気持ちすらない。影響力を維持し続けてくれた方が幸せなのだ。支配されていたほうが幸せなのだ。ニクス大商会の願いを断れば、不幸になる。しかし、受け入れれば必ず保証がある。どんどん拡張してほしいという民衆も出てきていた。
むろん民衆の想いとニクス大商会の想いは一緒だ。
ベルクの支配者の地位を強固にという思い。民衆と同じくニクス大商会も思っている。また拡張以上に、勢力を広げたいとも思っている。ベルクから蜘蛛の巣のように勢力を他の町や都市へ。商人を派遣し、職人を派遣し、人を派遣し。時に激しく、時に忍び寄るように、ニクス大商会の魔の手は伸びていた。
表は商人と職人。裏では戦闘員。
ベルクの好景気を作った面々が集まる円卓があった。ベルクの支配者たるニクス大商会の面々が一室に集まっていた。大きな円卓にニクス大商会の商人サイドの長の代理人。元ニクスフィーリド側の代理人3人。ベルクに散らばる格地域の商人たち。各地に散らばる職人たちの代表たち。ニクス大商会の戦闘員たちの代表も集まっていた。
ニクス大商会の拠点、3階ではなく。
隠された4階の空間全てを一室にした円卓の部屋。表向き3階建てであるが、実態は4階なのだ。窓を3階までしか作っていない。だから外から見たのと、中に来るのとでは違う。この4階目は屋根裏みたいであるが、大きく違う。
地下に食い込むように、建物全体を下げている。人間の目の錯覚と術式による感覚の誤差がある。一階に入ったとたんは気付かない。しかし部屋の内側に行くにつれ部屋全体が沈み込んでいく構造なのだ。それを気付かれないよう、職人が丁寧に高さを誤魔化す加工をしていた。各階の高さも王国の規格よりも少し低めに設定。
そうやって稼がれた空間が4階目になるのだ。
総勢、27名の代表たちを囲む円卓。静寂だった。無駄口を叩くものなどいない。誰もが緊張にまみれた表情をしていた。冷や汗をかき、それをふく各拠点の商人たちもいる。
視線は一点。
ニクス大商会の戦闘員代表と、商人サイドの代表代理人の近辺にむけられている。しかし、二人に向けられているわけじゃない。
その二人の席は、一つの席を挟むように左右に配置されていた。
その席に座るものに視線が集中していた。絶対的強者に対し、生命への危機。また弱者を従わせ、歯向かわせない恐怖の代行者の席だった。
「くきゅ」
邪悪で、無邪気な鳴き声がした。
その者は、人間でない。上半身は人の体でありながら、下半身は蜘蛛の足。また子供よりの無垢さを見た目では表す魔物。見た目が子供でも、能力は違う。実力も気配も大きく異なる。円卓の端から端まで伝わる魔力の強さ。それが息を吸うたびに、目に具現化された悪意の霧が立ち込める。害はなくとも、その息の怖さは知っていた。
英雄が死んだ原因の一つ。
英雄を殺した存在の力の一つ。
濃密な魔力と口から洩れる悪意。また手元から時折零れる光は、まるで生命のともしびだ。また邪悪に見えそうで、ときおり善意からなる天使と錯覚しそうになる。悪意を吐息から出せば、時には蒼い希望の翼を背中に生やす。だから天使と錯覚してしまう。
魔力も命も悪意も善意も所有する人外。
知性の怪物の代理魔物。
雲だった。
雲は円卓で自分に視線が向いていたのを知っていた。左右に座るものたちの緊張も感じ取れている。しかし左右に座る者たちは、雲になれたのか、他のものたちとは緊張が薄かった。普段顔を合わすからだろう。彼に隠れて、二人とはよく合う。
左がニクス大商会、大商人の代理人。病的なまでに目がやつれ、疲れ切った細身の男。
右がニクス大商会の戦闘員代表。枯れた大木を思わせる、死に体の男。
しかし病的なまでに疲れ切った細身の男は、元気だ。枯れた大木のような死に体の男は元気だ。見た目が悪いだけで、特に問題があるわけじゃない。実力は確かな二人。死に体のような男は魔法使いであり、冒険者でいえばAランクに近いほどの実力者。細身の男は大商人の無茶ぶり、複数でやる仕事を一人でこなすプロだ。
グラスフィールから派遣された細身の男。雲が冒険者ギルドから引き抜いた死に体の男。
どちらも雲に薄い緊張を持ち、気を配っているだけのこと。
「しょくん、よくあつまってくれた」
しがれた声が雲の口元から放たれる。その雲の声を聴き、面々の緊張が高くなる。魔物が人語を喋る光景。いつみても慣れない。しかし怪物の魔物だからこそ、普通ではないのは承知済み。
「こんかい、あつまってもらったのはりゆうがある」
雲は席の上に立つ。誰からも見えるように、立つ。座る面々の顔が高くなった視界のため雲から良く見える。雲が立つことで、全員の視線の気配が濃くなった。
雲は座っていると子供のため、席に沈み込むようになる。円卓に隠れそうになってしまう。だから立った。
むろん、彼がいるときにしない。一度したとき、行儀が悪いと怒られた。それでも反省をせず、何回か席にたった。最後には彼も怒りに支配された。いつのまにか壁際に追い込まれ、雲の傍の壁を彼の手が叩いていた。無言でずっとにらまれつづけ、さすがに雲も半泣きになった。彼の悪意もそうだが、彼の怒りは静かに発動される。どの魔物たちも目をそらし、巻き込まれるのを拒絶した。それこそ一時間ほど無表情で見つめられ、鳴き声をすれば、静かにと怒られる。謝ろうとすれば、息が届く距離で言ったことは守ろうと同じことを言われ続ける。ちくちくと突き刺さる言葉の棘、彼の無表情が鬼に見えた。
彼の目が虫を見るかのような、道端に転がる石をみるかのような目。
もはや雲の半泣きは大泣きである。
雲が大泣きになるころには、華が気を使い魔物を全員宿の外に出していた。
助けもないが、泣き顔も見られない。雲はとにかく謝罪の声を繰り出し、彼の怒りが収まるまで泣き続けた。苦い過去。
しかも先日の話。
だから絶対に彼の前でしない。こういった面々の前でするのだ。先日の恥を忘れ、この場では大きく取り繕う。Sランクという強者の波動は彼に通じない。しかしこの面々には良く通る。
「ぼくたちは、ちからをつけなければいけない。しょうにんは、かねをてにいれなければいけない。せんとういんは、そのちからを、もちつづけなければいけない。しょくにんは、ぎじゅつを、たかめなければいけない」
雲は至極当然のことをのべている。あくまで前提の耳慣らしだ。
「このままいけば、しょうにんたちは、いまの2わりほどはせいりょくをのばすとおもう。しょくにんもどうよう。せんとういん、きみたちのちからは、そのまえに、ていたいする」
戦闘職の代表も知っていること。代表の懸念は雲に報告済み。戦闘職の各地域のリーダー達をこの場に呼ばなかったのは混乱を阻止するため。
「せんとういんたちのちからは、しょうにん、しょくにんたちのちからによってさゆうされる。きみたちがせいりょくをのばせない。のばすみこみがなくなると、そのぶん、よゆうがなくなる。ていたいするなかで、いちばんの、かねくいむしが、せんとういんたちだ。のばせないなら、ふやせない。かずをふやさなくても、ひようはふえていく。ぶき、ぼうぐ、じんけんひ。ていたいなどできない。きかんごとに、きゅうりょうは、ぞうかし、ぶっかもあがる。またしょうにんと、しょくにんのちからが、つよくなれば、なるほど、やっかいごとはふえる。そういうときの、がーどまん。ぶりょくかいにゅうで、あいてのそしきをたたき、そのすきを、しょうにんとしょくにんが、けいざいをうばう」
戦闘職、商人、職人。
この三つは絶対に必要だ。商人からすれば戦闘職の予算は無駄かもしれない。しかし問題ごとや、警備、武力行使において、戦闘職の力は有意義だ。他の町、他の都市に勢力を伸ばす際、現地の勢力ともめ事になるときがある。そのときの防衛力としても必要だ。
この世界は、力が必要だ。金も技術も武力も、全部力だ。どれひとつとっても失ってはいけない。武力を失えば、歯向かう力がなくなる。暴力組織に金を渡し、何かあるたび、金をむしられていく。約束なんか、金があるだけでは意味がない。力と力が拮抗して初めて約束となる。職人も同様。職人の製品も職人が出張する際も護衛が必要。ニクス大商会は自前でやる。
傭兵や冒険者など、ベルクの過去の惨状をみればよくわかる。信用がならない。ニクスフィーリドですら数の暴力によって、勢力を手に入れた。武力は必要なのだ。
停滞すれば、金は生まない。戦闘職たちは金を生まない。金を生み出し、次につなげる者たちを守るのだ。
「いまの2わり、せいりょくをのばす。そのごのさきがない。さきには、はりんぐるっずのせいりょくだ。いまの、あれ、かいぶつは、いちおう、はりんぐるっずのなかま。てきたいこういはできない」
今は、まだ仲間。
雲の脳裏にある。
ハリングルッズは王国の全ての町や都市を従えているわけじゃない。リコンレスタのような町すら点在している。彼が動いてようやく支配される。リコンレスタの犯罪組織、ギリアクレスタは怪物の支配下とアピール。レギアクレスタを目の上のたんこぶみたいな扱いをしつつ、怪物の傘下アピール。レギアクレスタにおいては、怪物の約束、ハリングルッズの傘下をアピールしている。
リコンレスタ全域を支配できれば多少はかわる。
しかし、少しばかりハリングルッズからの印象が悪くなる。
だが手を拱いている場合じゃない。
「はりんぐるっずのせいりょくかではないばしょ。りこんれすたにおいては、ぎりあくれすた、れぎあくれすたの、ふたつのそしきにしはいされている。ぎりあくれすたにはてをださず、れぎあくれすたに、てをだしていく。ぶりょくかいにゅうじゃない。けいざいてきに、れぎあくれすたをのみこむ」
この場にいる面々はリコンレスタ事件のことを全部しっている。どういった勢力がいて、どういった火種があるのかをしっている。
時に雲は彼が恐ろしくなる。無知で底辺で影の薄い人間とわかっている。しかし、リコンレスタをまとめ上げた手段。命を奪わずに、支配。使えるものを使う躊躇いのなさ。ギリアクレスタとレギアクレスタの二つの組織の支配。その二つの組織は怪物とハリングルッズが間に入ることで平和を保っている。
同時に二つの組織という火種を残しておいての平和。まるで作られたかのような隙だ。
ギリアクレスタの方が勢力は上。ギリアクレスタは怪物の傘下とアピール。リコンレスタという町は、隙だらけなのだ。レギアクレスタは弱い。ニクス大商会の片手で楽々とつぶせる。ギリアクレスタですら、片腕でつぶせる。
「れぎあくれすたに、しえんする。たいりょうのしきん、たいりょうのせんとういん。ぶき、ぼうぐもおくりつづける。そのさい、ぎりあくれすたを、たおせないていどにおさえる」
ギリアクレスタにとってレギアクレスタは邪魔。レギアクレスタにとってギリアクレスタは生存を脅かす組織。資金も人員も限られるレギアクレスタではギリアクレスタに対抗できない。そこで雲は考えた。ニクス大商会から援助をし、ある程度立ち向かえる力をあたえる。それらはギリアクレスタを脅かすほどでなく、敵に回すと厄介レベル程度に引き上げることだ。
援助の名目は、怪物からの平和維持。
ギリアクレスタからの反発もあるだろう。レギアクレスタに援助をすることに関しての反発。
「ぎりあくれすたには、しこうひんをたいりょうにおくりつける。おいしいもの、たのしいもの、なんでもいい。しこうひんをおくりつづける」
ギリアクレスタには勢力の拡大にならない嗜好品を援助。
ギリアクレスタにとってレギアクレスタをつぶせば、障害はない。障害はないということは、余裕ができるのだ。敵対するための意識、その意識は娯楽へと必ず持っていかれる。人間は敵対意識がないとき、至福の時間をつくる。リコンレスタに産業は少ない。娯楽品なんて数少ないだろう。だから大量に送り付け、下っ端のほうから、意識を作り変える。
この二つの組織の援助は必要なことだ。
「かいぶつのしゅわんにはおどろかされる」
雲は思う。時々彼は本気で策略をしているのではないかと。ニクス大商会の力を知らないくせに、自分の力だと知り、仲間が必ず策略の手助けをすると。
レギアクレスタを経済的に篭絡し、リコンレスタへのニクス大商会の橋頭保とする。攻め込むわけじゃない。ただニクス大商会の、怪物の名前を前面に押し出した平和への監視として拠点を作るのだ。レギアクレスタの勢力化に拠点をおく。レギアクレスタに経済資金、武力を与え、勝てない相手に対し守る力があると誤解させる。それからの拠点設置だ。
「えんじょをたてに、きょてんをつくる。そのばしょは、れぎあくれすたのせいりょくけんだ。きょてんせっちはことわれない。もしことわれば、えんじょをしない」
拠点設置を断れば、援助を打ち切ると脅す。
そして、ニクス大商会なしではいられない、地盤の弱さにする。レギアクレスタ勢力下の民衆、構成員を篭絡していく。資金もそう、娯楽品もそう。商店という拠点を置き、そこで日常を擬似的につくる。ギリアクレスタではない。レギアクレスタが最初に日常を体験する。
物を買い、売り、作り、食べる。
この日常を経験させ、篭絡させる。ニクス大商会の力で日常を手に入れる。レギアクレスタ単体では不可能だ。レギアクレスタの勢力下の人々は思うだろう。
ニクス大商会が必要だと。
そうしてレギアクレスタの弱くなった地盤ではギリアクレスタへ抵抗できない。ニクス大商会の援助をもらい続けなければ、手に入れたと錯覚した守る力が消えていく。資金も食料も武器も防具も永久ではない。資金は人件費、食料も構成員にわけあたえなければいけない。武器も防具もメンテナンスが必要だ。それもニクス大商会が行う。怪物の名前を出す以上、ニクス大商会から奪うことすらできない。
怪物の名を出すものに手をだせば、ギリアクレスタが攻め入ってくる。
火種があった。
レギアクレスタという火種。その火種を使うことで、拠点をリコンレスタにおける。怪物の名前を出せば、どちらの組織も手を出せない。レギアクレスタを甘い蜜に沈めさせ、組織ごとニクス大商会の実質的傘下にする。ギリアクレスタも怪物の傘下とアピールしているが、自立している。
ハリングルッズに繋がったレギアクレスタ。そのレギアクレスタの実質的支配者。
ニクス大商会は、レギアクレスタを介し、ハリングルッズへ影響力を行使できるのだ。
ギリアクレスタが怪物に歯向かう勇気などない。
この場にいる面々と雲が知っていることだ。雲が軽く説明すれば、大体が理解する。そもそも中途半端な火種を残すこと自体、この面々ではしない。
リコンレスタを奪う場合、この場にいる雲も面々もギリアクレスタ単体で統一させるだろう。反逆もされないよう監視役を置いて、統一させる。
常人たる頭の良い面子と怪物の戦略の違いの差だ。
あくまでリコンレスタへの橋頭保はギリアクレスタの監視。レギアクレスタへの実質支配。その建前と形は怪物が示した。
二つの組織は必要だ。
人間には建前がある。その建前を行使するには二つの組織が必要だった。レギアクレスタを実質的に支配。それの建前上の支配者ハリングルッズ。ハリングルッズに要求をする場合、ニクス大商会からだと無視される。敵対される。しかし支配下のレギアクレスタから介せば、ハリングルッズも断れない。敵対しづらい。
レギアクレスタが弱者だからこその策。
ニクス大商会はハリングルッズと関わる状況が必要だった。
ギリアクレスタはレギアクレスタを弱くするため、脅すための組織。またリコンレスタの余力をまとめあげる組織として必要だ。レギアクレスタを除いたリコンレスタ全てをまとめ上げる。
まとめ上げたところに出来る秩序。ルール。そのルールの上に追加のルールと秩序を加えるため、ニクス大商会が介入する。ギリクレスタは、産業が無い。商店もない。職人もいない。人が余り過ぎている。ニクス大商会は人が足りなすぎる以外、全部ある。
お互いの過剰なものを足らなすぎるものを、利用しあえるのだ。
どうせ怪物の名前でつながった者同士。怪物に逆らえない。仲たがいなどお互いできない。リコンレスタの反逆主義的な風潮も怪物の名前を出せば、かききえる。ニクス大商会を越えることなどできないし、どうせ反逆主義も甘い蜜の前に沈む。甘い蜜と怪物への恐怖。飴と鞭を使えば怖いことなどない。
それを上手く采配してみせたのだ。
雲は思う。彼は本当に策略をしていないのかと。無表情の裏には陰謀があり、どこかで何かを企てているのではないか。
そう思っても、今必要なことじゃない。
雲は次の話題を振った。
「りこんれすたのはなしはおいておこう。ぼくたちのせいりょくかくだいにひつようなこと」
雲は息を吸い、吐き出した。リコンレスタはあくまで問題じゃない。ただ道端に転がる、拾っても捕まらない小銭でしかない。
「ぼくたちは、あらたなひだねをみつけた」
停滞などはない。王国にいても2割しか成長できない。リコンレスタへの介入こみでも3割程度の成長。あくまでも王国内という条件での話。
また火種は王国内では小さすぎる。だから最もくすぶる火種を探し、雲たちは見つけた。
「おうこくにない、ひだね。そのひだねは、おうこくのそと。そとのくにを、ゆらすおおきなひだね」
この面々は誰も知っていること。外に出るということは暗黙で知られた見解。この世界には王国だけじゃない。幾つもの国がある。大国もあれば、中小国家もある。それぞれの風習、文化をもって、国家経営をしているのだ。
雲は愉快気に笑っていた。
「・・・ひだねのもと、ろーれらい」
小国ローレライ。
「そのくにを、ぼくたち・・・われわれでとろう」
これが本当の狙い。集めた面々の意義。あくまで全員が知ることだ。その見解を雲自らいう事で、作戦を開始するという合図なのだ。
この場にいる代表も代理人も口を挟まない。必要なのはここにいて、話をきく。それを部下たちに伝え、指示に従わせることだ。
「あー、たのしー」
雲は無邪気に口端をゆがめている。邪悪な無邪気さ。嘲笑をまぜこんで火種を弄ぶ。その火種は人間が必ず持ち、絶対に求めるものだった。
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