怪物の進撃 6

 人々の心を支配したわけじゃない。一つにまとめたわけではない。だが人々に一つの指針は建てられた。打倒、現状。不満すら生まれない地獄世界を脱却し、一筋の光だけを頼れる不安世界へと作り変える。さすがに全てを満ち足りたものに変えるのは不可能だ。町には町の規模があり、文化の成り立ちがある。




 さすがにどん底から幸せいっぱいな道筋は作り切れない。






 それは彼が把握していた。






 今彼は二匹を連れて歩いている。オークの華とリザードマンの静のみを連れ歩いている。人々もついてきていない。だが人々は安全な場所にいる。町通りの一角に牛さんを護衛として置いて、人々を待機させている。彼の実力では、人々の心を掌握しきれない。できるのならしたかった。英雄のように、策士のように人々を誘導したかった。だが不可能。










 彼では不可能だ。






 彼は有能じゃない。






 だから出来る人材を集める。フードの男はこの町にもういない。人々と彼とフードの男の演説もどき終了後、ベルクから離れた。必要事項の詳細をフードの男との会話で聞き出した。あとは必要ない。むしろいてもらっても困る。








 彼はリコンレスタをリコンレスタの人々に預ける気だった。ハリングルッズとかいう外のものではない。彼とかいうものでもない。リコンレスタはリコンレスタの住人のものだ。我が物顔を見せている部外者を寄せ付けない。だが真の支配者はハリングルッズにでもなる。人々に権利と義務を手に入れさせ、直属の上司は人々の手によって委ねる。その委ねた人物の上にハリングルッズが君臨する形とする。








 気付けば、ハリングルッズのリコンレスタ支部の建物の前だ。この町のくせに建物は新築のようだ。壁には落書きひとつもない。目の前の通りや周りにはゴミや汚れもなかった。暴漢が汚さないのか、ハリングルッズ側が清掃しているのかは不明。見上げた4階建ての住居に関心もした。隠蔽もせず堂々と突き立てられた看板。この町リコンレスタは治安が壊滅だ。本来ならば名前を隠し、誰かを代理として突き立てた建物を所有する。されどこの町ではハリングルッズと名乗っていた。






 入り口付近の見張り二名が彼を見つけた。最初不審者と彼を思ったのか、腰に差したサーベルの柄に手を触れていた。だが彼と気付いた瞬間には手を離していた。それどころか距離を開け、扉からも離れていた。






「・・・入っても?」






 挨拶などはしない。彼は今から強者を偽る。偉そうにする。ハリングルッズ、リコンレスタにおいては必要措置だと知ったからだ。優しさは、甘さはこの町において弱みだ。




 見張りの片割れが扉を開け、もう一人は手でどうぞと指し示す。




 その合図をもって、彼と魔物たちは建物の中に入った。




 建物の中に入れば、ひとまず先に気付くのがあった。耳に入る悲鳴だ。彼をみてのものではなく、建物の奥から響く悲鳴だ。苦痛の証明が今でも響いていた。彼の目の前を通る人たちは全員服に血液をつけている。焦った様子で右へ左へと動く人たち。






 全て共通して両手が血で濡れていた。自分の怪我ではない。誰かの血液をつけている。拷問の証でもない。なぜなら全員、助けようとする意志を瞳に宿しているからだ。首元に小さな十字架のペンダントを下げていることから、回復士の人たちだろう。




 しかも経験の深い、プロのようだ。






 彼はその共通点を見つけて無視した。






 助けてくれという悲鳴。苦しいという悲鳴。されども無視した。助けるという声も頑張れという応援する声も聞こえる。だが無視した。






 入り口前の階段を上る。人にぶつからないように気を付け、階段を上る。偉そうに強者のごとく、目の前だけを見つめて歩く。やがて建物内の人たちも気付く、彼がいることに。だからだろう、誰もが足を止めた。彼の進む先を邪魔しないよう、また動向を探るように止めていた。




 一階から二階の階段を登り切った。階段の目の前には通路がある。二階の各部屋につながる唯一の通路だ。彼の左手の壁には3階へと至る階段があった。






 それで十分だった。彼もまた足を止めている。必要なのは上層じゃない。誰かが足を止めていることが重要なのだ。会話ができる人達がいるならばそれでいいのだ。






「・・・どなたか教えてくれませんか?」






 彼は嗤う。表情筋は仕事をしている。最初から決意を固めた底辺は違う。突然の状況変化であれば彼では追い付かない。されど決めた事柄をなぞるだけならば平気になった。






 誰も答えない。






 聞いている相手がわからない。できれば答えたくないという意思もある。それを彼は気付き、適当に指をさした。一番近くの人物だ。顔は見ない。姿恰好も見ない。軽く見て、指をさして、視線をそらした。






 指でさされた人物は戸惑った。突然の指名であるからこそ体をびくりと跳ねた。跳ねた音を耳にしただけで彼は状況が読めた。






 気にしない。彼は強者だと思い込んでいる。今だけは強者なのだと思い込んでいる。いつもならば相手の反応を見て言葉を代えるのだ。だが今だけはしない。






「・・・ギリアレスタのトップの居場所は?」






 空気が凍った。ハリングルッズのリコンレスタ支部二階は空気が凍っている。突然の訪問、突然の質問、そして内容だけに戸惑いすら通り越した。




「この世にはいません」






 帰ってきた答えがそれだった。




 だが無視した。






「・・・・」




 沈黙が返ってきた。






「・・・メリアクレスタのトップの居場所は?」






「・・・」






 沈黙が返ってきた。続いたのは。






 この世にはいません。






 彼は気にしない、だが一方的な質問が続く。




「・・・フォリアロレスタのトップの居場所は?」






「・・・」






 もちろん沈黙が返ってくる。この世にはいませんという答えが続いた。緊張が漂った。癇癪の利かないと恐れられた彼への風評被害。この二階で仕事に励む者たちに彼に敵う力をもったものはいない。いたとしても被害が尋常ではない。彼が連れた魔物たちが答えない者たちに凶悪な面の威圧をかけていた。




 リザードマンとオークの二匹。単純な二匹であれど魔物の中で最高の防衛力を誇る。本気になった牛さんぐらいしか突破できやしない。その牛さんも無傷とはいかない。半殺し状態まで持っていかれることぐらいの力が二匹にはあった。ミディアレスタでは牛さんは無傷だ。この彼との旅の中で傷をつけれたのが数少ないぐらいの強者。






 その強者よりも劣る数しか能がないもの達。二匹は熟練の戦士である。その経験からくる自信の高まりが威圧をかけていた。




「・・・ミディアレスタのトップの居場所は?」




「・・・」








 されどハリングルッズ側もただではない。死を覚悟して尚、沈黙を返すのだ。そして言うのだ。




 この世にはいません。






 だが彼もただじゃない。空気の凍り方、人たちの表情を見つめるように視線を正していた。音や気配を彼は厳重に監視していた。観察していた。






「・・・もう一度聞きましょう・・・ミディアレスタのトップの居場所は?・・・フォリアロレスタのトップの居場所は?・・・メリアクレスタのトップの居場所は?・・・ギリアクレスタのトップの居場所は?」




「この世には・・・」




 その瞬間、彼は食い気味に間合いを詰めた。問いを返した者に顔を近づけていた。顔と顔が近く、息がかかりそうな距離。女性だった。香水も化粧も薄く施された、容姿の整った女性だ。肩口までに髪がかかり、目元を隠した女性だった。






「・・・ギリアクレスタのトップの居場所は?」






「この世に」






 彼は女性の反応を見つめた。とにかく表情の変化を見つめた。空気の凍り方も息をのむ音もとにかく耳にいれた。気配を感じた。






 嘘だと気付く。






 彼はすかさず別の人物に切り替えた。顔を近づけ、息がかかる距離まで詰めていた。今度は男性。短く刈り上げた体育会系の男性だ。皺が多少あることから大人になって少し年代を重ねた男性だと気付いた。






 同じ質問を返した。そして帰ってきた同じ答え。








「・・・なるほどよくわかりました」






 彼は距離を離した。




 彼は元の位置に戻り。






「ギリアクレスタのトップは生きている」






 答えを出した。彼は全て観察したうえで答えを出した。質問をした相手の反応もそう、周囲の反応もそう。ギリアクレスタのトップを聞いたときだけ空気が変わる。微弱な反応。常人もプロも中々気付かない変化。彼が元の世界で人の観察をしてきたからこそ気付いた事実。








 人は必ず変化する。






 うれしい時も悲しい時も泣きたいときも嘘を吐くときもどこかで変化を遂げる。嘘を吐くときは語らないと意志を固め、矛盾しないようと頭をフルに使う。そのときに表情の片隅や冷や汗などが常時と異なる。








 何度も質問し、元の変化。嘘つくときの変化。どういった質問のときが変わるのかを見つけた。一人では確信を得られない。二人で半ばの確信。






「この世には!」




 二人の反応が返ってくる。最初に質問した女性と二人目の男性が堂々とした答えを返してきた。






「・・・ほら正解でした」








 最後の否定。騙したい事柄において人は語尾が強くなる。彼は底辺である。だが底辺を前に嘘をつけ、騙せるわけがない。全てを疑い、常識すら疑う底辺に敵う物か。それは本物の詐欺師ぐらいだ。






 彼は嗤う。




 手のひらを見せ、根拠を示す。小馬鹿にするかのようであるし、実際そうしたように見せた。彼は決意を見せた。勇気を出した。






 彼がやらなければ、リコンレスタは被害にあう。尋常ではない被害だ。それを救えるのは己一人。弱者は強者を引きずり落とす。だからこそ引きずり落とせない強者を演じなければいけないのだ。






 ハリングルッズは彼の恐ろしさを理解する。頭がいいのもある。魔物という力もある。だが一番怖いのは人を見るときのしたたかさだ。強い反応は誰もがする。最初に質問された




 存在は確認できた。




 次は居場所だ。








「・・・皆さん、ご協力ありがとうございました。・・・もう一つ聞きたいのです・・・上ですか・・・」






 彼は天井に指さした。




 反応は凍った空気のままだ。






「・・・下ですか?」






 反応は凍った空気のままだ。だが誰も何も言わない、ここでこらえるといった反応がごくわずかにあった。これ以上はまずいといったものだ。だがひとつ確信したのがあった。




 この建物内にいる。それは確かだった。








「・・・上でしたか」






 彼は上層へと至る階段へと向かった。ハリングルッズ側は動かない。気配は彼を見つめ、緊張したという意識を出していた。彼が階段を一歩、一歩上がる。彼の背中が遠くなり、続く魔物たちの背中も見えなくなった。ハリングルッズ側の意識が緩くなった。ほっとしたような気配が見えた瞬間。






 彼は急いで駆け下りた。魔物たちも合わせるように慌てて駆け下りた。






「・・・下ですか」






 そしてハリングルッズ側を見つめた。緊張がゆるみ、一時の安息の空気。それを彼は待っていた。二度は出来ない。一度緩んだ糸を縛るには時間が必要だ。その時間は与える気がない。人は見えなくなると緊張がほぐれる。その時間は彼の経験から憶測した時間で駆け下りてきたのだ。




 反応がばらばらだ。






 無自覚の団結はもはや形になっていない。






 黙ろうとするもの、見えないようにするもの。一時の彼を騙す作戦は形がくずれ、意志が疎通されていない。




「・・・下でしたか・・・みなさん、嘘を吐くのが上手」




もはや恐怖でしかない。ひぃという悲鳴が小さく聞こえた。もはやふざけたものじゃない。人の反応をもって彼は答えを出す。






 これが怪物なのだと。






「・・・一階ですか・・・それとも地下がありますか・・・」






 もう、集団で騙しきれるものじゃない。ばらばらな反応でありながら下を無意識で見つめるもの多数。表情を読まれないよう目を天井に向けるもの、左右にそらすもの少数。口を閉じ頑固とした反応少数。








 二度は聴かない。






 必要のないことだ。






「・・・地下に案内頼めますか?」








 彼は屈託のない笑みを無理やり作った。表情筋も仕事をしている。人形が嗤う。されど目元は嗤っていない。彼の訓練は表情筋を笑顔にすることのみで、目元の訓練はしていない。されど片目に移した悪意の集団が無自覚にハリングルッズ側に敵意を向けだし始めた。主人たる彼の意向を悟り、悪意たちが睨みだしたのだ。




 笑う表情と笑わない目。




 そのちぐはぐさを悪意たちが怪物の風評を生み出した。




 悪意が、殺意が蔓延しだした。原因は彼。






 魔物たちの威圧より、彼の威圧。






 魔物よりもただの笑顔の人間の方が恐ろしい。






 もはや脅迫。






「・・・私が案内します」








 最初に質問をした女性だ。目元を髪で隠した女性が答えた。しぶしぶ、苦渋まみれに口元をむすび、震えが全身を包んでいた。




「・・・ありがとうございます・・・後でお礼をします」






「ひぃっ」




 女性から恐れられた。初めに質問され、初めに嘘をついた。その人物は怪物と恐れられた存在。人の反応で答えを見つけた。嘘をつかれたのを知られた。居場所を知られた。








 お礼とは何か。






 死。






 拷問。




 そういえばミディアレスタは怪物の手によって壊滅させられた。だが誰も死んでいない。動けない状態に追い込まれただけだ。だがリコンレスタにおいて動けないとは最悪の選択だ。ハリングルッズ側の建物にある悲鳴の正体。ミディアレスタの人員とハリングルッズ側のけが人。ミディアレスタ側は彼によるものと突如現れたリスタレギオンによるもの。ハリングルッズはリスタレギオンによるもの。






 されどミディアレスタにとって彼の要因での被害が大きかった。その彼の前でのお礼なぞロクでもない。






「・・・お金がいいですか?・・・それとも感謝の言葉でいいですか?・・・出来るものであればなんとかします・・・」






 口先では何とも言える。ろくでもないお礼の建前だ。渡してこない。またどうせ渡した後に報復を開始するに決まっている。だから女性が尋ねた。答える前に聞きたかった。








「・・・ギリアレスタのトップにあってどうするのですか?」




 口元ががちがちと歯を立てながらも女性は訪ねていた。勇気の示し方を見せた。








「・・・協力をしてもらおうかと」






 彼は女性が怯えている原因をしっている。魔物を連れ、威圧をかけさせたのは彼だ。彼がやったことだと自覚してはいる。だが実際彼本人に怯えていることは知らない。あくまで彼は魔物たちに怯えているものだと思っている。そして怯えた事実に彼は心の奥底で泣きそうだった。でも隠し通す。






「きょ、協力??」






「・・・ええ、協力です」






「あ、あの男に協力を?」






 ギリアレスタのトップは悪党である。麻薬にして武器密売、色々な悪事をこなした。ハリングルッズが定めたルールを無視し、市場を荒らした最低なものだ。麻薬に関してなぞ、麻薬1割白い粉9割の紛い物を市場に流通させたりもした。武器など低品質をばらまきまくった。ハリングルッズの協力とねつ造し、色々やりたい放題だった。




 その男は人身売買には手を出さなかった。人間には手を出さなかった。






 理由など人のためじゃない。旨みがない。紛い物の麻薬、低品質の武器を作るのには人がいる。その人員が足りないのに、売ったなどしたら商売にならない。




 それが理由だ。




 部下から信頼は多少ある。いきなり殺されたり、犯されたりしない信頼という類のものだ。ちゃんと事前に通達し、仕事の失敗の処罰で行う。義務的なものでしかなく、失敗で強姦たぐいのものは男女ともになかった。罰金と指飛ばしはあったが。






 だが事実、部下からは危険な男といわれた奴だ。




 その男は誰にも従わない。拷問をしても、痛めつけても、男に犯されても、何しても従わない。ギリアレスタ壊滅後、地下牢に閉じ込めている。一切変化しない、リコンレスタの大物。




「しょ、正気ですか?」






「・・・勿論」








 彼の計画には有能な人物がいる。たとえ最低であっても必要だ。






 ハリングルッズ側の反応はもはや常人を見る目ではない。狂人という言葉が生ぬるいといった、否定の反応だ。存在の否定を彼にし出した。










 最悪の選択に。




 最悪の状況把握能力。








 なんていうものを連れてきた。






 彼がギリアレスタのトップを知らないわけがない。組織名を幾つも知っていて、トップを探すときにしったはずだ。過去の組織の経歴をしったはずなのだ。それでいてなお、協力をもとめる。






 彼の実力は証明された。頭のおかしさも証明された。






 あとはがっくりとうなだれて女性は案内をし出した。通路を階段へと一歩踏み出そうとしたときだ。






 お礼。




 お礼の件を女性は思い出す。ギリアレスタのトップも頭おかしい。彼という怪物も頭おかしい。頭おかしいやつには最初の答えが肝心だ。






「お礼・・・無事でいさせてください。お金はいりません」






 彼という怪物に対し、抵抗の意志は壊れた。もはや平穏を祈る羊になりさがった。




「・・・」






 彼は沈黙を返した。答えられなかったわけじゃない。わざと答えなかった。






 この階層に佇む人たちは彼の答えに、不安からか恐怖の悲鳴が感染しだす。ひぃという悲鳴もあれば、死を覚悟したものもいた。拷問を覚悟した者もいた。彼に手を出した。、ミディアレスタの人員のような未来が脳裏に浮かびだしたものもいた。








 案内をし出した女性の足が止まった。






 女性の足元ががくつき、彼の表情を見つめた。変わらない、笑いすら消え、無表情の彼を前に理解した。






 ハリングルッズはもはや形をなさない。二階の反応や彼の登場、建物内は彼の登場情報で満ちていた。そしてすぐに理解する。彼に嘘はつけない。はなから騙しとおせるわけがないと当たり前のようにされた。






 彼が答えなかった理由など一つ。






「・・・」




 彼は沈黙。




「・・・」




 女性も沈黙。




「・・・」




 ハリングルッズ側も沈黙。






 全てが沈黙した。








 彼は強者だ。今だけの強者だ。決して答えなかった理由が自信がないといった類であってもだ。彼の計画は稚拙で杜撰な計画だ。その計画でどのような答えが出るかわからないのだ。だからこそ無事でいられるか考えてしまっていた。






 でも、リコンレスタの人々を巻き込んだ以上、彼も巻き込まれなければいけない。








 だから答えた。






「・・・いいでしょう・・・無事になるよう全力をつくします」






「・・・」






 なんの希望も持てない。彼が全力を尽くすという答え。明確な答えを避けられ、女性の表情は凍った。されどハリングルッズ側の人員。すぐに表情は解凍された。










「これからも出来る限り協力していきます」






 だからこそつづけた。








 怪物の計画の被害者にこの支部を巻き込まないように。






 権力者などいない。リコンレスタ支部の代表は現状、フードの男だ。そのフードの男が権限を委任するまでもなく急いでベルクへと赴いた。防衛においての指揮は戦闘班に委任されてはいるが、その戦闘班ですら彼にはかなうまい。




 フードの男なしに彼へと対抗できない。権限をもたない以上、下手なことはいえない。また余計なことを言って、壊滅させられても困る。










「・・・それはよかった・・・手は出させません・・もちろん手をだしたりもしません」






「・・・案内します」






 女性の足が震えながらも動き出した。彼も後に続く。ただし最後に通路側のハリングルッズの人員たちに一瞥した。






「・・・」




「・・・」






 両者語らず終わる。そのまま階段を彼は降りた。










 ハリングルッズ側の人々は床に尻をついた。全員が生きるとは何かを感じた瞬間だった。緊張も震えもない。ただ生きているを実感した。








「怪物・・・噂は本物かよ」








 誰かがこぼした。だが特定する気もない。事実怪物は怪物なのだと理解させられたのだから。














 この日、ハリングルッズリコンレスタ支部は彼の手中に落ちた。




 彼の手口、脅迫、嘘のつく怖さ。全てを思い知らされたリコンレスタ支部は彼の情報で持ちっきりだ。リコンレスタ壊滅よりも彼の訪問の方がハリングルッズの人員たちを驚かせたのだ。死と生の狭間をみせつけられたのだ。






 もはや二度と手を出したくない案件の一つ、怪物だった。


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