彼の活動 8

無意識に感じるときがある。痛みとかではない。無気力とかそういったものでもない。彼自身何かよくわからない感情に支配されるときがあった。見えないものであれど、見ようと思えば見えてしまう。


 現実だ。


 現実を見てしまったときの着地感。空想や妄想の世界に広がる浮遊感から引きずりおとされたかのような着地が現実にはある。己の両足で踏みしめて歩き出す。その当たり前の行為が当たり前としてあるからこそ、現実なのだと再認識させられる。



 彼と魔物と少女の一行は、隣町までたどり着いている。されども入り口らしき門前でその足は止まっていた。距離にしても馬車にて一日程度。昨日の昼頃から出て次の日の昼頃ぐらいにはたどり着いたであろう。その程度の距離。


 そこは問題ではない。




 彼は目の前に広がる光景が信じられなかった。虚無を象った人形の顔ではない。それは感情を指示した人間のものだった。


 思いっきりに、慌ただしく。


 彼は目を見開いて驚愕していた。それは感動からではない。希望を得たことに関してでもない。己が想像していた現実よりも、想定外のものが見えていたからだ。



 少女も同じく、彼と同じように目を見開いている。驚愕ではなく、それは悲嘆のものだ。理解に及ばない彼とは違い、理解してしまったが故の表情だった。泣くことすら忘れ、ただ慌てふためくように表情の変化があった。



 隣町の入り口は形になっていない。町全体を囲むであろう城壁は無事であろうと、その城壁の入口たる門が大きく破られたかのように粉砕されている。聖礼樹で作られたであろう、魔物よけの木の門は木くずを残して散らばっていた。



 門口から覗くまでもなく、そこには死臭が霧散していた。死体はない。されども生物が死後発声する気持ちの悪さを生み出す悪臭が蔓延している。



 廃墟だ。


 道は荒れ果て、建物たちの群れは、中途半端にくずれさっている。それなりの規模らしく石畳の床ですら焦げた跡があちらこちらについていた。



 彼は自然と手を前へと晒す。指示だった。魔物とくに、彼が持つ最強の戦力牛さんを横目で見つめるようにしての手の合図。その合図を牛さんは理解したのか、ただ前へ、壊れた門の内側へと入り込んだ。


 ばきりばきりと土と石の混合の道が音を立てている。牛さんの重みに耐えきれず、小石などが砕け散った音なのだ。その音も響くほどの無音地帯だった。


 なんの反応もない。


 なんの感慨もない。


 少女はただ言葉が出ず、彼もまた言葉が出ない。



 牛さんが町の中を確認するように、鼻をくんくんと慣らし、嫌そうな表情を浮かべる。その次に耳をぴくぴくと動かし周囲の気配を探る。臭いにつらそうな表情を浮かべてはいるが、音に関しての反応はつかみとれていない。


 やがて牛さんは彼の方へと向き直った。



 牛さんは顔を左右に振るった。



 何もいない。誰もいない。



 最強戦力たる牛さんが索敵を行い、それにも届かない。時点でコボルトたちを投入。臭いに耐えれるかどうかを彼は事前に確認後に町の中へコボルト二匹を投入した。悪臭に顔をしかめながらも、コボルトたちは耳、鼻それぞれの器官を使い索敵を行った。鼻と耳がぴくぴくしても、首をかしげるようにして彼を二匹は見つめた。


 反応はない。


 牛とコボルトと呼ばれる犬二匹。



 彼はようやく、町の中へ踏み出した。


 町の中は静かだ。死体は転がっていないというのに、漂う悪臭。彼の驚愕の表情はやがて、無へと戻った。あたり一面を彼は見渡した。臭いには慣れたらしく、彼は顔をしかめることはなかった。門前からずっと嗅ぎ続ければ、慣れてしまう。人間は慣れることが出来る、知的生命体なのだ。



 底辺であろうと、そこに関係はない。元々の人間としての性能も極端にひどすぎるわけではないのだ。彼個人が無能なのであって、彼の人格形成前の人間としての個は他のものと変化はない。人生の積み重ねが物事の結果を生むのであって、慣れる慣れないとは別の問題だった。



「・・・・待っていますか?」



 彼は訪ねた。町の中にいるのは牛さんとコボルト二匹と彼だけだ。オークの華とリザードマンの静、アラクネたる雲とゴブリン三匹は町の外、少女の護衛として置いておくために中に入れと指示は出していなかった。


 彼は少女に尋ねている。無口であれども、無表情であれども。多少の焦りがある。彼も少女もお互いの情報の食い違いがあり得ないと感じているためだ。



 少女はグラスフィールの都市に来て、数日しかたっていないといっていた。また彼も少女の知識だけでなく、独自に調べてもいたのだ。商人たちから、また民衆から、苦手な聞き込みを行い事前にある程度の情報を集めていたのだ。聞く相手が全て彼に怯えていたことだけは気付かないが、それでも彼は事前に調べていた。


 人口はそれほど多くはなく。町の設備も規模もそれほど悪くはない。そういった類の町だと聞いていた。目立った産業はなく、目立った特色もない。されども極端に危険というわけでもない。


 平凡な町のはずだった。



 崩壊している。廃墟と化している。



 文明の名残跡だけが、そこにはあった。



 彼の問い、彼の言葉。少女はやがて意を決したかのように、驚愕から覚悟を決めたかのように歯を食い占めた。



「行きます、行かせてください!」



 勢いをもって、理解ができないことへの情報を集める。理解ができないからこそ、理解しようとする努力。それこそが若さ、それこそが学生の本文。少女は確かに学生であり、若者だった。



 彼は軽く目をつぶる。一瞬の暗闇が訪れ、そして目を開けて視界に光を取り込んだ。


「・・・華、静、意地でも守れ」


 彼は、彼らしくなく言葉を切り上げた。視界はもはや前へ、少女に向けることはない。それは信頼、彼が信頼するオークとリザードマンの二匹に対しての信頼。


「・・・雲、頼んだよ」


 前を向いたまま、振り返ることなく雲へと指示を出す。


そして子供らしい純粋さをもって少女の気を紛らわすであろう雲の役割。中身が残酷であろうとも、言動が幼稚でも、それは子供の特権だ。


 学生は子供が進化した姿だ。無邪気で野蛮な暴走特急を持つ子供の知恵から、理性を混ぜ込ませたのが学生ともいえる子供のレベルアップだ。されども時々レベルダウンを望むこともあるだろう。レベルダウンをすることは許されない。許されないが、レベルの上がっていない存在を見て和むことは許されるはずだと。



 彼は勝手に上がる学生のレベルであろうとも、ランクゼロのニートであろうと子供の無邪気さには羨ましいという希望を持つことが唯ある。その希望を今だけは少女に与えるべきだと、彼はこの世界に来て一番思った。



 何をしてきたのかは知らない。雲が何をしたのかを彼は何も知らない。されどもしたとしても興味がわくかどうかといえば、まったく興味がない。



 彼は彼。彼は彼のことで精一杯だ。他者の事なんか、魔物であろうとも気を使い続けられるわけではない。罪悪感、嫌悪感、あれども、すぐに忘れてしまう。


 まともな奴が一人でいるわけがない。孤独に甘んじるわけがない。


 彼は欠陥品だ。人として正常かもしれないが、文化の間に育っていない人は人間ではない。人以上人間未満の底辺が、細かいことを気にするわけがない。細かいことは自身のことのみだ。




「小鬼くんたち、子犬くんたち、牛さんは僕の周りに」



 その指示をもって少女の後ろで待機していたゴブリンは彼の背後へと回る。コボルトは両脇に、牛さんは前へと警戒を移行。


 彼は怒っていない。


 真剣だ。彼が見せることもない、見せたこともない真面な姿勢。無表情であろうとも全身から溢れだす底辺の闇が消えている。他人拒絶モードではなく、強力な警戒へと意識を移行していた為だ。



「・・・まずは情報が欲しいです。行動を分散させるのは危険だと思いますので、ついてきてください。もしこの町で親しき人物がいる場所に先に行きたくても、我慢してください。言葉に遠慮は出来ません。・・・現状、親しき人物がいるとは思えない」



 じゃなければ。



 彼は言いたくなかった。言葉を早継ぎに紡ぐことすら面倒なのに、なぜ自分が言わなければならないのかと思う。されども現状、大人の自分が言うべきなのだ。



「従えないのであれば、一人でどうぞ」



 彼は冷酷に、冷淡に横目を少女に向けた。鋭い切っ先にも近い眼光は少女の存在を貫き通す。底辺は他人との関係を継続が下手だ。真面目だという名目であれば、どのような対応をしていいわけではない。それがわかっていると知識のみで語り、実際は知識以上に毒を吐いてしまう。


「・・・わかっています」



 少女の覚悟は彼の眼光によって沈みかけた。


「・・・行こうか」


 彼は返事をまたずに歩き出した。歩くたびに視界は揺れる。振動ではない、警戒だ。恐怖などは感じない。何故だか感じなかった。子供の前だからではない。魔物がいるからではない。



 不気味な感じが、不気味に居心地が良かったのだ。



 まるで、まるで。



 自分の心の在り方だと、廃墟の形が全て自身の存在の在り方だと。思い描く世界が、これそのものだった。平凡な町が崩壊。平凡な人間が底辺として落ちぶれる。何が違うのか、何がおかしいというのか。復活の目を見ることは最早ない。


 町も彼も。



 底辺に落ちぶれたものは一発逆転なんか狙えない。


 町は入り口と変わらず、不気味さを持っている。石畳から泥まじりの地面へと変わる。建物、建物同士の間に見える畑たち。何が育っているのかはわからない。されども作物たちが赤い塗装がついた形になっているのは血痕だ。



 血痕は時間が立てば変色する。この世界の常識はどうなのかは知らないが、彼の常識からすれば血痕が出てから時間は立っていない。



 町を進み、中央地区へと進む。建物同士の密集が強くなり、隙間を空けるのがもったいないといわんばかりに、ぎゅうぎゅうに押し込まれている。


 広場の中心には噴水があった。広場を囲むように円状の建物たち、それぞれは住居ではなく、お店だったようだ。看板がたち、店の扉は空き開かれている。されども広場のあちらこちらに広がる血痕の後、悪臭の強烈さ。


 誰もいない。


 血はある。悪臭はある。されども死体がない。



 彼の背後から歩く、少女は愕然とした様子で口を開いていた。


「・・・なんですか、これ」


 我慢の決壊が訪れたのか、理解にも及ばない世界が少女を埋め尽くしているからか。無意識に漏れた悲鳴に近い小言は空しく響いて、掻き消えた。


 だが一瞬彼の左目が理解しがたい幻覚を見た。


 誰もいない広場。血痕がある地点、それぞれに人の死体を見たのだ。


 右目には何も映らない。


 されども左目に意識を強くこめれば、見えてしまう死体たち。



 背後に振り返り、少女を見つめるようにして彼は口を開いた。


「・・・・ここに何があるか教えてくれませんか」


「・・・わかっているじゃないですか、何もありません。誰もいません!!」



 少女の限界は近い。崩壊しかけている。町のように、廃墟さが生み出す空虚に飲み込まれてしまっている。


 そう、何も見えていない。



 彼は、彼だからこそ。


 その矛盾に気付いた。


 自分の左目がおかしくなった。そんなことはない。彼は自分が底辺でも、無能でも、存在価値がないと理解しても、そんなことを一切思わない現実逃避の達人だ。その達人が自分の左目を疑うわけがない。



 左目がものすごく熱い。まるで空気を取り入れるかのように熱い感情が入り込んでいるかのようだ。


 この広場にきて、この町に来て。


 何もないからこそ、彼の左目は取り込んでしまっている。




「・・・牛さん、ついてきて」


 彼は、底辺だからこそ気付いた。



 底辺でなければ気付かない。



「牛さん以外、ここを動くな!」


 彼は反応を待たない、反応なんか興味はない。彼が小走りに駆け出した脇には牛さんが並走し、全ての魔物と少女を置いて彼は町の奥へと進みだした。



 おかしかったのだ。


 頭のくるっていたことなのだ。



 見えないもの、だが気付こうとすれば気付けてしまう。少女も魔物たちも気付くことはできないであろう。それは彼だから理解できる。ハリングルッズのリザが使った気配遮断というチートスキルに気付く、彼の観察眼がこの程度の隠ぺいに騙されるわけがない。


 騙されないことに関しては、一級品なのだから。




 彼は入り込んだ入口へと戻っていた。


 ここから始まった。


 ここから狂った。



「・・・・なんのつもりで幻覚を見せている」


 彼は、悪態をつくかのごとく睨み付けている。入り口に向けて、正しくは入り口に隠れ潜むであろう存在に対して。


 何もない死体もない空虚な世界。されども臭いや血痕までは隠蔽しきれない程度の技術。臭いがあって何もないなんてことはない。


 トリックにネタがあるのだ。


 この世界の廃墟にだってネタがあって可笑しくはない。


 ぱちぱちと拍手の音が鳴る。



 世界は空虚な世界は崩れ、視界に戻るのは廃墟のみ。されども先ほどまではなかったものが一点ある。それは探し続けたものだ。


 死体だ。


 彼の左目が時々訴えかけた死体があちらこちらにあった。腐りかけで悪臭を漂わせている、されども彼の視線は途切れない。




 幻覚が途切れ、途端に彼の左目は暴走を始めた。空気中に漂う全ての何かを吸い込みあげるように、暴走を始めた。痛みはない。ただ熱い。



 ぱちぱちぱち。


 拍手の主は入り口に立っている。


 一人だけだ。



 ボロをまとった乞食のような男だった。年齢は若くなく、寿命が間近のようなご老体だった。笑みを浮かべれば、人々の感情をそれなりに明るくするであろう優しい容姿。されども、その老体は悪意の眼差しをもって彼を見つめていた。



 悪意があるからこそ、気付かない。左目の暴走も彼以外気付かない。左目の異常は誰も気づかず、理解に及ばない範囲によって影響する。



 その正体は、目の前の老体から受けた悪意が起爆剤となった現象だ。アラクネがもたらした残酷行為、彼が無自覚に無意識に訪れさせた悲劇の結末たち。そしてこの町に漂う死者の無念。現在敵対する老体の憎悪が左目に集約するかのごとく吸い込まれていく。



 見えない。悪意なんてものは見えない。彼の左目に時々移りかけたものは、死者の怨念だ。怨念が幻覚を打ち砕き、何の希望を持たない彼へと訴えかけた。


 彼は輝く道を歩む英雄ではない。


 薄暗い下水道をひたすら突き進む、溝ネズミのような存在だ。



 その存在は死者の無念をもって完成した。



 ピンチに進化するのではない。ピンチに輝くのではない。何の前触れもなく、何の正体もなく勝手にレベルがあがる。義務教育学生の年数ランク上げ制度のように、ただ義務のように跳ね上がった。




 彼は怒ってなどいない。怒りなどは見せていない。されども左目に映る灼熱のごとき赤い目は、ぎろりと老体を見つめた。



 老体の姿は右目と左目で大きく異なる。ぼろをまとった姿に映るのは右目であり、左目に映るのは何処かで見た老人の姿だ。乞食のような姿。


 ぱちぱちぱち。


 拍手はやまない。




「・・・儂の正体を知りたいか?」


「・・・興味がありません」



 義務的な問いだ。拍手をする老体の上から目線の問いを彼は顔を左右にふって拒否する。興味がない。理解したくない。


「・・・それよりも聞きたいことが」



「この町の惨状か?」


「・・・そんなことにも興味はありません」



 拍手がやんだ。


 老体の表情には、問われるであろう答えを言いたくてたまらなかったという幼稚な子供そのものが映っている。せっかく準備し、行動した意味がなくなったことに関しての落胆さが見えた。


「・・・グラスフィールの路地にいた、ご老人が何故ここに」


 グラスフィールの都市の路地で、暴行犯を探すときに見つけた老人。その足元に銀貨を置いたであろう相手が入り口付近で立っていたのだ。


「・・・そんなことか。そんなことなのか。この町の惨状は!この町の人々に対しての興味は!!貴様は何もないのか!!せっかく作り上げたというのに!!せっかく生み出したというのに!!悲劇を惨劇を!!なぜ興味を持たないのだ!!知りたがるものがいるだろう、貴様が連れてきた小娘はどうだ!!知りたがっているに決まっている!!この儂が何をしたのか、何をなしえたのか。どうして貴様が儂に気付き、この場所にいると解ったのか!!結末を、誰もが知りたがっているだろうが!!」



 突然の咆哮にも近い絶叫。


 彼はそれでも興味がない。町の人々の結末も、なぜこういった事を仕出かしたのか。それすら興味がない。事件の過程に興味がなく、事件の結末にだけ彼は興味を持つタイプだった。結果をしって、ああそういう事件だったのかと勝手に納得するタイプだった。



 深く知れば、不快になるだけだ。だから彼は興味がない。



 興味を持たれたくて、老体は必死に喚くが。


「・・・では、一応尋ねます。この町はあなたのせいですか?」


「・・・ああ、そうだ。わしが全ての住人を殺めて、死体を映らないように隠ぺいした。悪臭と血のみを残して映る廃墟の世界。その世界を貴様に見せてやりたかった。教えてやろう、この町の住人は全て貴様への ふく」


 彼は最後まで聞かずに。



 老体に背を向けた。



 興味がない。何かしら隠れた陰謀があったのだろう。事件があったのだろう。悲劇があったのだろう。だからどうしたというのか。彼が今後担当する仕事ではなく、今後理解していく必要のない事柄だ。そこまで余裕なキャパシティーは彼にはないのだ。


「牛さん、倒せ」



 彼は歩き出した。



 どうしようもなく、つまらない気分で歩き出した。不気味な空間は誰かによるものだと知ったとき。ただ何もなく悪臭と血痕がある不気味空間なのではなく。人工的な作為によるものだと思ってしまったとき。



 吐き出すほどの薄気味悪さをもって、彼は歩き出した。深みのない事件、真相は決して理解されない。老体が何故、ここまで手をかけたことをわざわざしたのかすら理解されないまま、牛さんの突撃が老体の肉体を弾き飛ばした。回り込むように、老体の側面から突撃は肉体を町の外ではなく、中へと誘導するように吹き飛ばしていた。



 老体の努力が、彼の無関心さによって無意味になったと知って、絶望へと意識が転換。その絶望の合間に浸った瞬間にはトゥグストラの一撃によって倒された。命はあるだろう、だが肉体の骨や筋肉の線維が衝撃によって千切れてしまっていた。倒れたのは門から右側だ。崩れかけた建物に沈むように、老体の肉体は吹き飛んでいた。



 結末を言おう。



 少女暴行犯は、老体の子供だ。路地にいた老人の子供が、少女を暴行しようとし、彼によって止められた。そして彼の魔物アラクネによって、無残な死体に成り果てた。それに対しての復讐だ。老人は薬でドーピングを施し、魔力の最大値と実力の性能差を大幅に向上。副作用は寿命の極端な消耗。魔力の塊たる結晶を体内に取り込み、町一つを囲む。平凡な町に大それた魔法を防ぐ術はなく、幻覚魔法に捕らわれた住人は、住人同士で殺し合いを始めた。他人は敵だという幻覚が、全てを破壊。生き残りはなく、ただ無慈悲に命を落としていった。それをもって老体は彼に復讐をしかけたのだ。町の住人を殺すことにためらいはない。自分の息子を失った悲劇をグラスフィールではなく、少女の住んでいた町に伝染させた。


 少女がいたから、子供が暴行未遂を起こした。少女さえいなければ、彼さえいなければという身勝手なものだ。それを彼は興味なさげにしたものだから、焦って隙を作っただけのこと。そもそも隙を作らなくても、牛さんの相手にすらならない。


 たったそれだけの事件。


 くだらない怨恨によって、多大な被害を生み出してこの事件は完結した。



 少女の両親は死亡。




 彼の護衛任務もまた終了。


 少女を救うか、救わないか。



 それだけが今回のカギだった。



 この事件を一見に彼が悪くないのであろうとも、真相は誰にも知られない。冒険者ギルドに報告をしたのが彼であり、彼が事件の当事者である。そして犯人の老体は瓦礫に埋もれたまま圧死。事情は誰にも知られず、憶測だけが物事の真価を問うていく。



 町の住人を陰謀含めて皆殺しにした 怪物と。



 いつの間にか赤くなった左目は、怪物が本性が一部現れたのだと。


 そういう噂がながれて、定着した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る