獣と闇と根暗ぼっち 3

トゥグストラがいきなり突進をかけてきた。巨大な巨躯から放たれた重圧の一撃、かわすことなど容易いことであった。だが、続けてオークとリザードマンがトゥグストラの両脇を駆けてきて、左右に躱すであろうリザの隙を狙うことは予想できた。


 そのため後退に転じるしかなかった。


 後退し、距離を作る。大きく飛び上がり、バック中のように鮮やかに飛びのいた。


 そこで安堵する余裕はない。大きく影を作る壁が目の前に出てきていたからだ。鱗の爬虫類、リザードマンが攻撃の動作を行っていたのだ。 


 リザードマンが放つ剣の横なぎを上体を軽く下げることでかわし、リザは一瞬のスキをかいくぐるように前進する。流れるような動作、躱されたと判断したリザードマンの二発目の圧力。盾で押しのけるような攻撃もリザには当たらない。その一撃を全体を横にそらすことでかわし、がら空きのリザードマンに肉薄する。


 実用性に特化した短剣を振りかざし、鱗の覆われた腹部を狙う。両手に持った短剣たちは即座にリザードマンを両断、もしくは腹を引き裂くことを予想させた。


(まず一匹)


 リザードマンは片づけたと思い込んだ。まだ片づけてもいないけれども、片付いたと判断をつけた。それらは今までなら正しい。普通の魔物使いの相手ならば、素晴らしい判断であった。


「!!」 


 リザの表情が歪む。愉悦に満ちたものではない。小さな淑女の目がリザードマンの表情をとらえていたからだ。悔しそうにも、油断したというものでもない。ごく自然に当たり前に、懐に入り込まれたと死を覚悟した戦士の姿がなかった。もう反撃も防御もできる距離でも位置でもないというのに。



 一瞬の界間に見せる、リザードマンの笑み。



(なぜ、笑う!!)


 何もできずに、何もできないと誰でもわかるのに、だ。



 そのリザードマンは笑みを浮かべ。リザードマンの盾を持つ手の死角から鋭い切っ先がリザめがけで飛びかかった。うろこ状の太い腕は、小さな淑女にとって重い死角となる。体格の差はリザードマンの方が圧倒的で、そして巨大な壁に見えてしまう。リザードマンの背後、もしくは脇に魔物がいても気付きにくく、気付いたとしても、そこから攻撃はできないと憶測が油断を生んだ。


 腕と脇の隙間を潜り抜けた切っ先は、リザの行動を大きく後退させることとなった。過剰にも思える反射的な飛びのきで後ろに下がり、態勢を立て直す。


 そして状況を把握するために周囲を見回した。


 リザードマンの背後にオークが隠れ、その切っ先の正体は、槍であった。


「くそったれ」


 思わず、悪態をついた。



 普段ならば、そんな言葉は表に出さない。なぜ自身は口に出してしまったのか。臭いを消し、音を消し、姿を消す。アサシンの中でも上位の自身が、だ。疑問を浮かぶが、深く考えることもなかった。


 なぜなら、急いでいるからだ。


 答えは簡単なものであった。


 リザを取り囲む魔物たちはリザードマン、オーク。少し離れた位置に黒き巨躯たるトゥグストラ。その鋭い牙と眼光はリザを睨み付け、隙を見せたらすぐに襲い掛かってくる凶獣だ。


 こいつらは。



 知性をもって、人間らしく獲物の隙を伺っている。





「魔物じゃない。軍隊じゃないか!!!」


 魔物も群れはする。集団行動は出来る。だが、軍隊は人間や亜人などといった知性を持つものしか持てない。欲望と本能で行動し、集団の一部が適当に暇を作る群れと違う。無駄を極力下げ、効率を高めた集団は、もはや軍隊としか呼べない。



 簡単には手をだせない。



 出せないのに、急がされている。




 墓から引き離された。


 リザの焦りはそこから来ている。アサシンは焦らず行動しなければならない。それらは暗黙の規則でもあるが、鉄壁の掟というわけでもない。


 だが、普段なら焦らない。


 相手が誰であろうと、油断をしない。そんなリザの感情を逆なでするように、最悪の敵は動きだしていた。


 墓が掘り返されていた。ゴブリン、コボルトたちの小さな魔物たちが、一心不乱に手で、手に持った木の板などで、墓に大穴を築いていく。


 小さな魔物たちは、全てが一部欠損している。それなのにも関わらず、穴を掘る速度は速かった。人海戦術のようにも思えるが、知性の怪物たる彼と、ごく一部のゴブリンのみは、手を開けて立ち尽くしていた。しいていうなら膨らんだ大きな袋を持っている点のみである。ゴブリン全てを使って、穴をあければ最も早いというのに。


 見る見るうちに穴から掘りだされた土が横に山を積み立てていた。


 時間はない。


 手段を選んではいられない。


 リザは、意識を穏やかに、思考の海に沈めていく。それらは時間かかることなく、すぐに完了する。スキル発動の条件であり、焦りを落ち着かせるためでもあり。



 気配が闇に溶けていく。淑女の目立つゴシック調の服装ですら、目立たなくなっていく。アサシンが持つ、特技の一つ気配遮断。いちいち魔物の相手をしていたのでは、間に合わない。


 冷静になったリザの行動は早く。


 スキルが完璧に発動する瞬間。



 ぴぃぃぃと高音が鳴り響く。



 その音の発生源は、彼の近くにいるゴブリンたちである。穴をほらずに、手持無沙汰で立ち尽くしていたゴブリンたちが笛を吹いて、高音を響かせて。ゴブリンたちの手には大きすぎるほどの笛ではあるが、なんなく持って吹いている。


 一体どこからと考える必要もなかった。大きな袋が搾れた風船のごとく足元に転がっているのをみれば、その中身が笛であったということである。


 それらは人間には聞こえない。犬笛と同じ原理の仕組みであり、人間には聞き取れない獣用の笛。それらが響き、リザの焦りを招く。


 リザには聞こえている。犬笛と判断はつかないが、音が確かに聞こえている。アサシンに求められる、視力、聴力、嗅覚。肉体の最大を鍛えて上昇させた存在の前には、微々たる音から人にあらざる者に届く音すらリザの耳に入ってくる。



「…姿を消したら、音を立てます。迷惑を考えずに」



 彼の小声すらリザの耳に届いていた。


 彼にしてみれば、結構大声を出しているつもりだが、実際は小さくしか聞こえなかった。だが、明確な脅しはリザの行動を抑制し、気配が徐々に表立っていく。夜の闇に消えていた影が、昼間の地面に浮かび上がる影のように、しっかりと形をとっていく。



 失敗であった。




 気付けば、静寂な墓場には合わない光景が広がっている。死者が眠る場所にて、生あるものが争い、静なる空間には、高音が鳴り響く。


 これでは。


 これでは気付かれる。


 いくら町はずれといっても、ここまで音を出されれば。


 ここまで暴れられてしまえば、誰かが動き出す。知らぬ民衆が。職務に忠実な騎士か衛兵が。堕落に満ちた国の公務員と違い、この王国の公務員は、意外と働き者なのだ。騎士たちが所有する番犬が、馬が、異音に気付いて騒ぎ立てるだろう。それだけではない。民衆たちの所有する家畜ですら大きく暴れ出すだろう。


 それほどまでに感情を高鳴らせるほどの異音。心地よさなど何もなく、吐き気すら及ぼす気色の悪い音であった。彼が所有する魔物たちの表情をみれば、それこそ苦痛を耐えるかの如く歪んでいた。



 正気ではない。


「事を荒立てる気ですか!?」


 なぜ知性の怪物が魔物だけを引き連れてきたのか。騎士団を使わず、冒険者たちを利用せず。それらは隠密に、粛々と目的を果たすためではなかったのか。


 人の口は軽い。人の行動には波音が立つ。どれほど、静かなアサシンですら全ての物事をクリアにこなすことなどは不可能なのだ。



 だからこそ、怪物は。魔物のみを連れて来たのかと思い込んだ。


 その推測が外れ、リザの思惑がことごとく崩れていくのを感じた。



「貴方は何を考えている!!」


 何を考えているのかがわからない。


 何をしたいのかがわからない。


 薄気味の悪さと影の薄さ、そして残酷とも呼べる悪意の塊たる怪物。それが生み出す闇の深さは、リザの能力では追い付くことができないでいた。




 そしてリザの言葉に彼は何も返さない。先ほどのリザが彼に対して行った行為の報復であるかのように


 あくまでも答えず。


 あいまいに誤魔化す。


 そして小馬鹿にするように嘲笑う。


 ああ、そうとも。


 全てはリザ自身が行ったことである。それらをすぐにやり返されただけなのだ。そしてやられてから気づいた。


 今まで、やられたことがなかったからこそ、予測しかできなかった。すごく腹が立つ行為だとは思っていた。思っていただけで経験をしたことがなかった。



 実際やられればわかる。



 すごく。


 腹が立つ。




「いい加減に、こた…」


「ただ調べたいだけです」


 感情のまま、荒立てていく単調なリザの言葉を。彼が冷血に答えを返していく。普通の会話でありながらも、意味合いが大きくことなっている。



「それを認めるとでも?」


 リザは魔物たちの猛攻を避けながらも問いを投げかける。跳ねる剣、飛び向かう槍、強固な戦車の突進、躱しては、反撃を。反撃をしては、防がれて。それらをこなしながら、口を開く。


 届かない。


 どうしても。


 時間をかければ届かせる自信はある。殺せる自信はある。焦っていても時間さえあれば殺せるのだ。ただの魔物ならば。いくらAランクのトゥグストラであろうが、確実に一人で殺せれる自信が。


 それを率いる怪物という存在がいなければの話ではあるが。


「…認めるとか認めないとかじゃないんです。なぜなら」


 今まで答えなかった彼が、あえて返答していく意味。リザが言葉を荒立てたからではなく、まるで自身が行った事を理解させるまでの教育のように。物静かに、諭すように、冷たく言葉を彼は返していく。


 目は変わらず冷めていて。


 言葉も冷めていて。


 なおかつ、どこかしらの大人を示すかの如く丁寧に。



「仕事なので」


 重みを感じる返答だった。有無を言わせない圧力がそこにはあった。リザが固唾をのみ、言葉に詰まる程度には、重圧を生み出させていた。


 生きるために。


 信用のために。


 就職のために。


 お金のために。


 幸せな日常を。不安が少ない平穏な日々を。


 過ごすために。


 必要な行為だった。


 何もない空虚な自身が。唯一誇れるものを気付けるとしたら、信用という安い言葉であれど、重い鎖。能力もない自分が、唯一生きていくための希望が、仕事だとしたら。


 したくもない仕事だけれども。


 生きがいでもあった。草取りフリータが、犯罪者だの冒険だのということはおかしなことだ。それでも普段とは違い、指示を自分が出して、家族が従って。何かしらの結果を生み出す行為に心が沸き立たないわけがなかった。


 草取りでも家族は指示に従うであろうが。結局もたらす結果は、草がとれるか取れないかの程度。


 違うのである。彼には。


 男の子には。


 男の子の夢があるのだ。


 どこか大きな活躍を見せたい。見せつけたいという大きな思いが。たとえ最初は嫌々でも、中盤も嫌々でも、終盤も嫌々でも。


 最後まで終えることができたならば。



 自分はすごい。


 自信を持つことができて、生きていく活力を取り戻すことができるのだ。遥か昔に掻き消えた希望も、夢も再び自分の手に戻ってくるというならば。


 彼は動かざるを得なかった。


 根暗であろうと。ぼっちであろうと。


 たまには動くのだから。



 だから。


 だからこそ。



「僕の邪魔をしないでいただけませんか?」


 恫喝した。 


 そして感情を示さないくせに、圧力だけはかけていく重苦しさ。彼が言葉を返すたびに魔物たちの反応は激しくなっていく。まるで彼を恐れるように、背筋に氷でもつけられたのごとく、魔物たちに緊張が走っていたのをリザは気付いた。



 リザードマンの剣技が速くなっているのを理解した。オークの槍が更に鋭く穿ってくるのを空気の振動で感じた。トゥグストラの突進が掠っただけでも死ぬと何回も頭の中でリフレインしているのを抑えきれなかった。反撃もできず、ただ躱すことしかできないほどに激しかった。



 こんなのが。


 こんな奴が。



 雑魚どもが。


 雑魚ではなく、強者の成りをもって迫ってくる。


「ははは」


 乾いた笑みしか出てこない。確かに怪物が率いるだけの魔物たちである。怪物の配下にふさわしい強者たちであった。


 それでもリザには当たらない。


 それでも殺せる自信がある。


 怪物に引き入られようとも、率いられなくても。


 殺して見せよう。


 その自信と自覚はあるのだ。


 ただ、それらを行うには少し遅すぎたようであった。


 墓が掘り返され、穴の脇に棺が置かれていた。その棺が開けられていて、死体が抱きかかえられていた。誰の手でもなく、彼の手で。


 しっかりと彼の足元には短剣が置いてあり。いつでも反撃する準備ができているようで。またゴブリンたちやコボルトなども警戒をかかしていない。


 死体を抱きかかえた彼は、心臓の位置に耳を当てていた。


 どくん。どくん。


 倉庫街で聞こえなかった鼓動が、墓場にて鳴りたてる。死体が沈み眠る場所で、生ある体が息を吹き返す。かすかに死体から聞こえる呼吸音。いまだ睡眠のごとく、小さくても聞こえている。


 先ほどは、ないものが。


 ようやく彼の腑に落ちなかった点に答えを灯していく。


 やはり。生きていた。


 リザが言っていた。生きているという言葉だけでは信じられず、必ず確かめたかったのだ。目で、耳で、感じたことを正しかったと感じたかった。



 初めて自分だけが気付いたことを。


 初めて自分だけが思ったことを。


 気付いた通りに、思った通りに行動して。


 結果を出せた。


 その行為の全てに彼は満足感を覚えていた。


 何もないのではない。


 何も生み出せないのではない。



「…僕の勝ちだ」


 静かに自身の絶望に、闇に勝利したのを確信した。それらは自分だけが得られる勝利感であり、他者に向けてではない。


 ただ。


「…私の負けのようです」


 心知らずか、リザが反応を返していたことには気づかない。彼からすれば、リザに対して勝利宣言をしたわけではない。


 だが、気付かない。気付かれない。


 敗者に転じたリザは、事態をどう挽回するかに頭を回転させているからだ。明確に彼が示した反応にリザも反応することで最悪の事態だけは避けようと考えていたからだ。


「そちらの方をどうするおつもりで?」


「…何も?」


 騎士団に伝えたところで何も意味はない。彼が言ったところで誰も信じない。死体が実は生きていた。お前たちの組織が判断したことが、間違っていたと言って恥を上乗りする気もない。恥をかかされた存在がいかに恐ろしい存在になるか彼は知っていた。



 それに闇雲に否定してきた騎士団の失敗の尻拭いは嫌だった。


「…リザ氏、あなたはどうしたいのですか?」


 答えが見つからない。だから、事態を進展させるために投げ返すことにした。


「そちらの方の蘇生、また今後に色々役立っていただこうかと」


 トゥグストラの突進を避けながらも、リザは返答を返す。嘘偽りなく、正直に答えていた。怪物に嘘をついても意味はなく、ついたとしても酷い目にあわされる。それらを知っているからこそ、リザは嘘をつかなかった。



「…なるほど」


 彼はそっと、元死体を地面に下していく。その死体、アイゼンの目元が薄く開きそうになっていることにも気づかず。


「有用な存在です。生かしておけば我々だけではなく、あなたにも」


 彼の行動は、アイゼンに止めを刺すと思い込まれたのか。リザの懇願は必死なものであった。冷静であれど、わずかに走る汗の粒が、焦りが相当なものであると窺わせていた。現在繰り広げられている、リザードマンとオークの連撃を躱すだけでも大変だというのに、彼女は返答を遅らせることはなかった。



 そうして気付く。


 事態は片付いた。自身に蹴りがついた彼は、魔物たちを止めなくてはいけないことに。


 夜の墓場にて。


 子供相手に、魔物をけしかける男が一人。成人男性でありながら、ただ墓参りをする少女に暴力の限りをつくす鬼畜。


 誰だ。


 そいつは。


 自分であった。



 リザの行動は怪しいものではあった。犯罪者を蘇生させるとか色々おかしなことも考えてもいる。だが、それらを防ぐために魔物をけしかけたわけではない。ただ知りたかったから、邪魔だったから魔物をけし掛けただけ。


 崇高な目的があったわけじゃない。


 事案。

 夜の墓場で少女に暴力振るう鬼畜。



「全員、ストップ。リザ氏、和平交渉を」


 彼はすかさず、折れた。


 喧嘩を始めたのは自身からだということすら気づいた。目先のことだけしか見えない自身が心から憎たらしい。だが、達成感の方が大きいせいで、そこまで自分を卑下することもできない。



 魔物たちは動きを止め、脇にそれる。リザが通れるだけのスペースを空け、牙を隠さずに獰猛な姿をもって、静かに事を収めた。


 あの暴走した魔物たちをすぐに沈められる手腕。奴隷を思いのままにあやつる刻印なしに、言葉一つで命令を完遂させる実力。


 知ってはいたが、実際見てしまえば何もいえない。


 今なら、静まり返った魔物たちならば勝てるか?


 僅かな思考が残るが、それもすぐに掻き消えた。


 魔物たちを倒しても、なお彼という怪物がいる。


 その彼が矛を収めた以上、リザも武器を収めるしかなかった。でなければ、先ほどから鋭くなった彼の眼光に耐えきれるほどの自身はなかった。


 魔物たちと怪物。両者が組み合わさったとき、負けるであろう。その推測が下手な行動を抑制させたのだ。


 魔物たちが空けた道を通り、彼の元へと向かう。その際、武器には一切手を触れず。余計なことをしなかった。



「まず、事態の収拾をつけるために」


 落とし前を。どうするかという点。


 ハリングルッズの組織の一員として、やられたらやり返すが基本なのだ。


 そのリザが、アイゼンを生かすならば。賞金と報復はしないという点を主張しようとして。


 彼は、今回の暴力事件についての謝罪を主張しようとして。


 肩をすかしたように、手のひらをみせるリザ。そこに嫌味はなく、真剣さが残る。癖みたいなもので、真剣になれば、なるほどリザは肩をすかしたような体制をとってしまう。コミュニケーションでもオーバーリアクションの一つかもしれない。それらを行うと反応がいいため、何回も行っていたら癖になっていた。


「アイゼンを生かしていただけるならば、ただとは言い…」


 リザが最後まで言い終えることなく。


 彼がリザの手のひらに、握り拳をそっとのせた。その拳は徐々に開いていき、リザの手の平に冷たくて小さいものを落とした。


 また彼はアイゼンの手を開かせると同様に、同じものをのせた。


 それらは金ぴかに光るもので。通常の光物と違い、二回り以上大きさがあるものだった。それぞれ一枚ずつリザとアイゼンに渡されたもの。


 大金貨。


 かつて大会で優勝し、王から渡された5枚のうちの2枚。


「…慰謝料です。どうかお納めください」


 彼は、深々と頭をさげた。地面に服すアイゼンの体がびくりとはねた事にも気づかず、リザの目が丸く点になっていることにも気づかず。


 ただ頭を下げて。


「申し訳ありませんでした」


 謝罪した。

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