第15話 闘技場 その2
子供のころ、ほしかったものがあった。親になると大抵子供にやらせたくないもの一位。
ゲーム。
彼はゲームがほしかった。
そのゲームはモンスターを育成して、レベルを上げて、各地のボスを倒すというありふれたストーリのものだった。
当時、同学年の中でブームとなっていて、周りの子供が友達にゲームをかったことを自慢していた。
見せびらかしていた。
ある日。
公園でゲームをもっている子供達が集まっていた。公園は彼の家のすぐ隣だった。ゲームをもって公園で何をしているかといえば、それは4人で対戦できるらしく、皆集まって楽しそうにプレイしていた。その姿を自宅の二階の窓から羨ましそうに彼は見ていたのを思い出した。
子供も、大人も同じ共通点があると輪が広がる。趣味であれ、部活であれ、ペットであれ、ありとあらゆるブームという輪に入れば、その中で少しのつながりが生まれる。
逆に、輪に入れなければ、排除される。話に入ってこれない人間。同じことができない人間が近づいてきても、異物が入り込んだみたいに邪魔物扱いされる。
子供ながら、彼はそれを理解していた。
もしかしたらゲームをもてば、友達ができるかも...
周りの人間の輪に少しでも入れれば可能性がある、と願っていた。
彼は、一人ぼっちが嫌で、抜け出したかった。別にゲームだけで友達ができるわけじゃないが、逃げ道として必死に両親にお願いしていた。でも、買ってもらえなかった。
「ゲームなんかで、できる友達なんか必要ない」
「ゲームなんかよりも、勉強をしろ」
両親はそれしかいわなかった。
子供のときの交友関係なんか大人になればなくなる。そういうことを経験した両親は、別に彼の状況を理解しようとしなかった。
そんな彼の家には何も無い。
クリスマス
誕生日
お年玉。
全て無かった。
必死に頼み込んで、だめだの一点張り。
テストで高得点をとってお願いしてもだめ
お手伝いをしてもだめ。
何をやってもダメだった。
もし、彼が本当の意味での子供だったら、親がゲームをかってくれないから友達ができないんだ!と言い切ったかもしれない。
親のせいにできたかもしれない。
でも、そうじゃなく。
彼は普通の子供だった。
子供にとって、親は絶対の存在だ。親がいなければ何もできない。テレビを見るのも、本を読むのだって全ては親が責任を持っているからこそ、子供は好きに動けるのだ。
その親が。
「そんなに欲しいなら働いて自分でお金を稼いで買いなさい!」
元々、人にものを言えない彼に。
そんな禁句をいえば。
彼は黙るしかない。
彼は普通の子供だ。
子供が働けないという常識を持っている普通の子供だ。
お金がなければ物は手に入らない。親は買ってくれない、子供は働けない。
それは当たり前のことだが、彼は知識でしかわかっていなかった。
なんとなくでしか知らなかったことが。
彼は少し実感を持って、理解した。
どうしても、手に入らない。
公園で対戦プレイをしていたうちの一人が手をあげ、嬉しそうに声を上げた。勝利したみたいだ、その傍らで悔しそうに沈む子供。
決して届かない。
ただ、その楽しそうな姿を見せ付けられるだけ。
見なければよかったという選択肢はない。その光景から目をそらせないのだ。
近づけない。見てもしょうがないとわかっているが。
ブームが去り、またブームが始まる。
また、彼は同じことを繰り返す。わかってはいるが、やめられない。
何回も同じサイクルがくれば彼だってわかってくる。
我慢する、ということ。
頼んでも、無駄 ということ。
それは大人になれば自然とわかっていくものだが、彼にはまだ早すぎた。
そのとき、子供の中の子供。
彼は8歳という年齢だった。
レインは両手を合わせて彼にいった。
「そ、それですね。改めまして説明をさせてください。その催し、バトルトーナメントとはですね!予選と本選にわかれているんですが、予選は参加者入り混じっての戦闘を行います。本選は1対1の戦いとなります。ざっくりな説明になってしまいました」
てへへと笑うレイン。
「....」
むり、だ。
彼はむりだとおもった。
予選で死ぬ。
参加者入り混じり。
この町だけでも、人がかなり参加するのだ。他のところからも同じように人が参加するはずだ。
観客も商人もたくさんいるはず。
彼は目立つのが嫌いだ。
バトルということは怪我をするかもしれない。
彼は安全思考だ。
どう考えても。
バトルトーナメントなんて明らかに彼には不向きだ。確か、武器と魔法とかが入り混じったものの大会だったはずだ。草の早抜き競争とか、早食い競争というバトルならまだよかったかもしれない。
武器?
魔法?
むりだ。
「...む、」
無理といおうとした。
言い切る前にレインが被さった。
「で、一緒に自分と予選だけでも参加しませんか!!!」
笑顔だ。彼女はそういって目を輝かせていた。
何をたくらんでいる。
彼に近づいてきた人間なんか誰もいない。
全ての行動は裏があるように思ってしまうのが彼だ。
疑っていた。何か罠があるに違いない。
大体、保障がないものを受けるわけがないんだ。
「....その日は用事が」
断るための定型句がでた。
最後まで言い切る前にレインが口を開いた。
「自分と一緒に参加すれば、騎士団員の面倒を見てくれたということで、負けても買っても金貨一枚でます」
保障があった。
「...怪我をすると後に」
ひびく、といいたかった。
いえなかった。
「怪我をしても一日、銀貨7枚はだします」
レインが彼の言葉を言わせず、それより早く被さってくる。
保障がある。
「...安全が」
どうしても断ろうとする彼だった。
「サツキさん。」
空気がかわった。いつもなら彼が悪くするもものが勝手にかわった。
何もせず。
変えたのはレインだ。
真剣そうに彼を見つめてきた。
「...どうしても嫌ですか?」
少し、目が潤んでいた。
ずるいぞ。
泣くのはずるい。
彼は何もいえなかった。断る言葉が見当たらない。
男性であれ、女性であれ。
いい意味でも。
悪い意味でも。
彼が関わって、初めて泣いてくれたのがレインだった。
ドア閉めただけだけで、半泣きだったけど。
それでも、彼には初めてのことだった。
頼まれるのもなれていないのに。
泣かれることなんて、なれるわけがない。
断れなかった。
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