第14話 闘技場 その1
オークとリザードマンが彼の元にきて、早一ヶ月。小さかった二匹は今では彼よりもしっかりとした体つきになっていた。魔物の成長は早く、彼がぼけーっと何も考えないで草をとっている間に大きくなっていた。
オークとリザードマンは、普段牛さんと彼だったら死ぬような戯れをしたり、草をとったりしていた。時折現れるゴブリンとかグレムリンとかを買い与えた武器で撃退したり、と色々なことをこなしている。
オークだったら槍
リザードマンなら剣と盾
定番の装備を背負って、彼とともに行動している。彼を最初は怖がっていた二匹だが、今ではまったく恐れてはいなかった。
魔物は肉体の成長も早いが、精神の育ちも早いのだ。仕事をミスしても叩かない、食事はくれる、しっかりと寝れる環境もある、それを与えてくれる主人の元では怯えることがなくなっていた。奴隷商人の下では、屈辱の毎日だった。それが今はないのだ。救い出してくれた今の主人に愛情がわいている。
他の人間に買われている同胞を町で見かけたが目が死んでいるのが多い。物を物として扱うか、ペットとして家族として扱うか。
二匹ともただ、運が良かったと思っている。
ただ、調子にのると牛さんが本気で、きれる。
来たばっかりの時は、2匹とも彼の与えた食事を牛さんの前で投げたことがあった。そのときは、死なない程度にほうり飛ばされたのを思い出した。
牛さんより、目立つと怒る。
牛さんより、ほめられると怒る。
彼をないがしろにすると 本気でおこる。
二匹はしっかりとしっている。でも、牛さんが怒ると怖いが、彼が怒っても怖いのは最初に出会ったオークションのときからしっている。
オークは、彼が牛さんを簡単に鎮めたとき、
リザードマンは 彼が群集を残酷そうな笑みで静かにさせたとき。
決意が定まったときの主人は恐ろしく、はむかう気がしない。手が早いのだ。二匹は魔物。弱肉強食の世界の住人達から生まれて、本能に刻まれている。
強いものは絶対。
そんな二匹の心情を余所に。
彼はいつもどおりの無表情ではなかった。
暗くもなかった。
むしろ、明るかった。人前では無意味に笑わない彼であったが、何回か頬をゆるめていた。
彼は平原にいた。
二日ごとに定めたお仕事、草取りにきていた。いつもなら、彼は森に行ってるのだが、今日は平原だ。普段、人が沢山いるここも今日はいない。
ビバ、大会。
ふぁいと大会。
何回か心で叫んでいた。
少し、手もあげていた。
彼は燃えている。
別に参加はするきはないし、見に行くつもりも無い。
ただ、彼は大会に感謝をしていた。
今から1ヶ月と半日後に隣町で大会が開かれるそうだ。町で話している人達から盗み聞きした。武器と魔法とか色々交えて戦う大会だそうで、個人的に興味はないし、そんなことのために隣町まで行くつもりもなかった。
大会期間は2週間とのこと。
予選から始まり本選と始まるらしい。
王国でも歴史ある戦いとのことだから、きっと色んな人たちが行くのだろう。沢山の人間が行くため、今から宿、武器、レストラン、それぞれ予約をしておかないと、ありつけないそうだ。サービスとかモノを買う側の準備もそうだが、売る側の準備もこの時期から行わないと、とてもじゃないが間に合わないらしい。
何がいいたいか、と。
今、この町は人が少なかった。
いつもなら顔を見る商人も冒険者も皆その準備にあけくれている為、道がすいている。いつもなら煩わしい人々のあれも、この時期は極端に少なかった。
人がいないということは平原で草を取れる、ということだ。
彼はいつも森で草を採る。平原のほうが近いし、質もかわらないのだが、たくさんの人が居るため、彼は我慢して森まで行っていた。
だが、今日は違う。
今日は違うんだ!
彼は大手を振って平原に来ていた。オークとリザードマンが来てから出費も増えたが、収入もそれ以上に増えた。最初のときはオークもリザードマンも意味がわからないみたいな顔で草をとっていたが、慣れてくるとこれが自分の与えられた役割というのがわかったみたいだった。
先輩の彼よりも後輩の二匹のほうが同じ時間でより多い数がとれ、体力も多いため長く仕事ができていた。
こういうところから社会の仕組みは出来上がっていくのである。
ぺ、ぺっとだし。そう彼は言い訳をしながら日々をすごす。
彼と愉快な仲間達はしゃがみ、草をとってはバックにつめていくという作業をこなしていた。
その背中に声がかかった。
「探しましたよ サツキさん」
びくりともしない。
彼は気づいていた。普段から人の目を気にしている人間は誰かの気配に意外と鋭いのだ。
いつも人がきたらにげるから。
そういう逃げ根性を何年も続けば鍛えられるというものだ。
そしてこの声。
この展開。
深夜の24時間営業のコンビニで知り合いに合ったことを思い出した。
そいつは中学のときの知り合いだった。もう青春してますアピールで髪は染め、耳にイヤリング、首からネックレスと目の毒だったやつだ。
彼に気づいたときに げっ あっちゃった みたいな顔をしていたから覚えていた。
振り返るまでも無い。彼の名前をしっているのはマッケンとレインだけだ。そしてマッケンはこんな高い声ではない。
「....何でしょうか」
会いたくなかった。
今なら知り合いの気持ちがわかる。
出かけた先で会いたくないわ。
彼はそう思いつつ、対応した。
「知ってるかと思うのですが、隣町で大きな催しがあります。それで、ですね。一緒に参加していただければと」
やっかいごとは外からやってくる。
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