第12話 剣と槍
奴隷。王国で犯罪をしたもの、落とされたもの、他国の捕虜、ありとあらゆる生物が商品となってしまったものが商品として扱われる。
それを扱う商人。
奴隷商人。
この町にきた、奴隷商人は移動式だ。普段はこの町にはおらず、キャラバンみたいに色々な町を旅している。人の命、魔物を個人としてみるのではなく、金としてみている闇の商売人。
彼は今、町外れの郊外にいた。大型な鉄柱が頭上を何本も張り巡らせ、それにしっかりと固定させた防水性の布。
大型なテント。サーカスなどで良く使われるものに良く似ている。
奴隷商売というのはテントの中で行われるようだ。
隣にいる牛さんの頭をなで、テントの中に入るか迷っていた。
結局、答えは見つからない。
だが、きてしまった。
人は欲張りだ。
牛さんは友達だ。
それは彼は知っている。危険な魔物がいる外にいるとき、一緒にいくと凄く安心する。頭こすりつけは痛いが
だが、意思が疎通できない。
魔物として、動物としては、牛さんはかなり知性が高いのだが、なにぶん彼は人にうえている。いくら、優秀な牛さんでも会話ができない。
コミュニケーションが大嫌いな彼も流石に人が恋しい。
面倒臭いのはわかっているが、寂しいものは寂しいのだ。
最近、話したのはフーリ君と宿のおじさんと冒険者ギルドの買取窓口のお姉さん、それだけだ。
しかも皆、各自の仕事として話しただけだ。
彼は、今人を欲している。仕事とかを抜きにした関係を求めている。
久しぶりに来る、奴隷商人ということで、人で賑わっていた。たくさんの人間が居て、中には魔物をつれた人もいる。
見た限りでは裕福そうな服をきたお金もちや、笑みをうかべ、仲間たちと会話している冒険者がいた。
楽しそうだ。
人をものとして、買いにきていた。
なんだかなぁというもやもやは残るが、強くはいえない。
悩んでいるとはいえ、彼もここにいる。
「しってたか、エレシア姉妹が奴隷で販売されるらしいぜ」
「まじかよ、奴隷にしてー」
「エレシア?あぁあの美人姉妹か」
「あぁ冒険者から奴隷になったんだとよ」
男達の欲望が耳に届く。奴隷にしてほにゃららとかそういう類のよこしまな感情が彼に聞こえていた。
聞こえたが、恥ずかしくて聞いてられたものじゃなかった。
欲望とは偉大だ。
だが抑えろ。
聞いているこっちがはずかしいと彼は思った。
大きいテントの中は中央が開いていて、四方のところに椅子がたくさん配置されていた。奥の席が富裕層、右が冒険者、左がモンスターテイマー、入り口付近が司会進行側の席だ。
中に入ると、彼は一人の案内人の男に呼び止められた。
「テイマーの方はこちらになります」
案内人の男に従い、左側に進んだ。
「お客様は、一番前の席でお願いします」
牛さんとともに言われたとおりの席についた。
席まで行くとき、すれちがいになったテイマーは道を譲っていた。彼の歩みを妨害せず、当たり前のように脇にそれていた。
どうもありがとうございます。と本気で思ったがとっさのことで声がでない。彼は頭を下げることで、礼をした。
皆親切だなぁと思っていた彼だが、トゥグストラを従えるテイマーなんかに目をつけられたくなかった故の行動とは知る由も無い。
全ての席がうまったころ、商売がはじまった。
ここでは全てがオークション形式で行われる。最後に一番高い金額をだした人間が商品を手にすることができる。
「まず、こちらのオークションは終わるまで出ることができません。また、落札した商品は、その番号札をお渡しし、オークション終了時に代金をいただくことになります。代金が足りない場合は、申し訳ありませんが罰則金金貨10枚の支払いをお願いいたします」
「それでは始まります。」
始まった。
入り口から首輪をつけた少女が入ってきた。中央までつれてこられ、一回り。
司会者の男が少女の近くまでいった。
「この少女。まだ14才と若く、男性経験はありません。また、魔術の才能がありますので、何かと重宝できるかと思われます。」
うおおおと静かに上げる客席、テイマーの一部以外がぼけーっと見ていた。
彼は少女の表情に注目していた。
暗い。
売られるんだから明るかったらおかしいが、とても暗い。
彼が人のこといえたものじゃないが、あそこまで悲しそうな人間を始めてみた。
「金貨50枚からスタート」
あちらこちらから手をあげる群集。彼は静かにこの場をみている。彼では助けられない。せめて、よき人に当たることを祈っていた。
「金貨70」
「72」
「90」
「112」
「120」
声が上がらなくなった。これで詰めというところか。
「120、120です。他には何かありませんか!なさそうなら決定です」
決まったようだ。買ったのは富裕層サイドのふくよかな男性が購入していた。えろそうな顔したおっさんが買っていた。
いい人であることを祈ろう。
流れていく商売、奴隷が、人身売買が簡単に行われていく。
命は軽い。
お金に換算できてしまうのだから、とっても安い。
この世の中、お金で換算できるものしかないけれども、道徳としては命は一つしかないかけがえの無いもののはずだ。だが、買えてしまう。
魔物も商品と扱われた中、ミノタウロスが一番盛り上がっただろうか。金貨90枚までいったぐらいだ。むろん、テイマーたちが多く値段を吊り上げていた。
彼は一切、手をあげなかった。
何のためにきたのか、わからなかった。
ただ、自分に決着がついていない状態で彼は手をあげることすらできないし、何より大切なお金が足りない。
「次は廃棄処分品であります。残念ながら今回は亜人も人間もおらず、魔物だけとなってしまいます。また、売れなかった処分品は後日ファイアーボールにて焼却されます」
とんでもなかった。
だが、買えないし、一時の感情で責任は終えない。
最初に、グレムリンが売れた。銀貨5枚
次にコボルトがうれた。銀貨7枚
ゴブリン。銀貨3枚
人間と比べれば、金貨にすら満たない安い命と判断された現場がそこにはある。買われた命はどうやって消費されてしまうのかはわからなかった。
彼は祈るだけだった。
彼が目にしたのは他の商品ではなかったむちでうたれたような傷を何箇所ももった魔物だった。全身毛に覆われ、豚鼻の特徴を持つ小さい子供の魔物
オークの子供だった。
オークは1、2ヶ月で体が大人に成長し、平原や森を荒らすことで有名な魔物だ。初心者テイマーの練習としてよく買われている。
子供なら高そうだし、少しぐらいまてば強くなるであろうとは思う。今までうれなくて、廃棄処分となるのだから大きな理由があるのかも
「この魔物は先のゴブリン掃討で捕獲されたオークのオス、メスを交尾させ管理のもと生ませた子供です。親を知らず、ただ生きているだけで、一向に売れません。作りすぎたため、コストが馬鹿になって仕方がありません。今回のオークはとても安価でお譲りいたします。」
大きな理由があった。
畜生な理由だった。
「銀貨1枚からスタートです。売れなければ、串刺しと、引きずり回し、その後水で占めてからファイアーボールで焼き殺します」
もともと、オークというのはありふれた魔物だ。森にいっても平原でも見かけ、たびたび問題になっては討伐される、ゴブリンと何らかわらない危険生物の一つだ。
人間も黙っているわけではなく、被害だけをもたらされるのは、嫌だ。そういう欲がオークを商売品として何とか利益になるよう考案されたのが、畜生発言みたいなことなのだ。
魔物は利益にならななければ意味が無い。人間に害をなす存在は生きているだけでも毒をもたらす。
おびえ、震える子供であっても、魔物は魔物。大きくなれば、必ず問題を起こす。そういうふうに考えられている。
背中のむちの跡が彼の目から離れない。
痛そうに、泣きそうにうずくまっている。
何なのか。
「銀貨3枚」
「銀貨4枚」
「銀貨5枚」
「銀貨6枚」
何もしらない子供の値段。
売れても、ろくな結果にならないのは目に見えている。
皆、使い捨てるきだ。
雑に扱い、壊れるまで適当に動かす。
壊れたら、別のを買えばいい。
どうせ安いのだから。
ねずみ一号が死んだとき、彼はないていた。それを泣き止ませるために家族がいっていたことを思い出した。
「ハムスターならいくらでも買ってあげるから!」
母がいった。
「安いから何匹でもかってやるから泣き止め」
父がいった。
それでも、一切泣き止まなかった彼にイラついた両親はこういった。
「たかがハムスターぐらいでいつまでも泣くな」
その一言が。
どうしようもなく。
腹が立つ。
彼にしては、珍しく感情が理性にかった。
彼は自然と手を上げていた。
「金貨一枚」
誰も、手をあげなかった。オーク自体、そこらへんにいすぎるため、かなり安い魔物だ。しかも子供だとさらに安い。大きくなるまで育てるテイマーなんかいない。ただ、使い捨てる駒として皆かうのだ。今回は物珍しさで銀貨7枚までいったが、本来ならもっと価格は低い。
誰も金貨を出して買うものではなかった。
そんな変わった人間に誰もが目をむけた。
背後にいる人間も、周りに居る人間も彼を見て、陰口をこぼす。それは聞こえているし、聞いている。
聞かない、選択肢は無い。
聞いて、彼は手を下ろさない。
「では金貨一枚で!」
オークは彼のものとなった。
誰もが変な奴、馬鹿なやつ、そういうのも気にせず、今ばかりは気にせず、手を下ろした。
彼は悪意を気にしない。
慣れている。
だが、気にするものも居る。彼がなれていても、どうでもいいと思っていも、そう思えない存在が。
彼の唯一無二の友達が悪意に激怒した。
「ぐるるるぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
突然、咆哮をあげた。
トゥグストラの巨体から吐き出された怒声は彼に向く全ての悪意を打ち消した。誰に向かって愚かな悪意を向けている、そういうトゥグストラの強い感情から生まれた激昂の声がテントの中に響いた。
沈黙がおとずれた。
人による悪意は魔物による恐怖で沈む。人間は誰も話してはいないし、中央にいるオークもこちらを見やり、目を開いていた。浮かんでいるのは恐怖。テイマーが使役する他の魔物も例外なく全員、恐怖をしった。
彼はトゥグストラ、牛さんの顔に手を差し出した。
「...笑顔」
ふん、と静まり返った群集に睨み付け、口を閉じた。
「....すいません」
立ち上がり、頭を下げる。
静かな空間に彼の声だけが響いた。
オークションは再開された。
同じようにとはいかない。皆、冒険者も、司会者も富裕層も全て皆彼に少ない注意を払っている。
彼がこの空気を支配していた。
トゥグストラの主たる男の前に誰もが口を挟めない。この町にいる人間にとって、トゥグストラは絶対の恐怖だ。
「で、では次はグレムリンの」
勝手に進み、買われていく。
「次はリザードマンの子供です」
また、子供か。
彼は辟易として、彼は見た。
青い鱗、とかげの顔、二足歩行で歩いて、尻尾が半ばしかなかった。
「こちらは傷物であり、欠陥品であります。リザードマンの魅力というのは武器の扱いだけではなく、尾の攻撃です。この連結した流れが強いのでありますが、今回そのリザードマンの尾はありません。捕獲したさい、切り落としてしまいました。」
また、畜生発言である。
「一度切れたものははえません。この商品は従来のリザードマンの子供であれば金貨10枚からスタートですが、今回は銀貨9枚からスタートです」
「金貨1と銀貨4」
「金貨2と銀貨3」
それでも優秀な魔物なのだろう、怪我をしてても金貨になるのだから。
しかし、欠陥品か。
リザードマンは尾がなければ欠陥品だという。いくら巧みな武器捌きがあっても、例外は無い。日本で言う形が悪い食べ物は売れないのと一緒だ。そういったものを捨てるのはもったいないから何とか売ろうとするのは商売人として当たり前だった。
リザードマンのことは知っている。ゴブリンやオークとは群れで動く全体主義とは違う。別に群れで生活はするが、個人主義が強い魔物だったはずだ。
個人主義の魔物は強いらしいというのが常識らしい。下手な冒険者よりも強く、一対一の勝負でやりあう冒険者はあまりいないそうだ。
その強さは自身の肉体を全て駆使して戦うところにある。司会がいったような内容ではあるが、リザードマンの武器さばきだけを注意しても、自由自在に操る尻尾の一撃が来る。一つではなく、二つのものを最低でも警戒をしないといけないのがリザードマンの特徴だ。
尾がないということは、武器しか扱えないということ。つまり人間と同じ土俵で戦うということだ。
正直、価値は無い。
だからこそ、安いのだろう。
なら、彼はどうなるのか。
彼は自身のことをしっている。
人間とは文化的生物だ。一人で生活することはできない。服も食べ物もありとあらゆるものは人の手でつくられている。助け合うこと、協力しあうこと、そういった環境を作ることで人間は発展してきたし、種族を守ってきた。
だが、それを行うにはコミュニケーションが必要で、そういう困ったときの命綱として今まで作り上げてきた人間関係が重要なことなのだ。
彼は一人だ。
今は牛さんがいる。
牛さんが先ほどは助けてくれた。
牛さんは助けてくれても、人間は助けてくれないだろう。彼は人間と助け合うほど、協力し合うほど人間関係を作り上げては居ない。
コミュニティーいう文化の形態をろくにこなせない彼は紛れもなく欠陥生物だった。
くくく。
彼は不思議と笑みが浮かんだ。
今日の彼は忙しい。
怒りと笑い。
二つがこみ上げて、普段とは違うことをさせられた。
くくく。
せめて、努力をしてみよう、か。
彼は人間だ。
文化生物という意味では失敗作でも、人間という生物であるがゆえに。
人間としての解決を行わなくてはいけない。
オークのときと一緒のことをした。
「金貨3枚」
彼は宣言した。
彼が今もっているのは金貨7枚と銀貨9枚だ。彼が2ヶ月必死に稼いできた金額。
全部、使い果たそう。
だめだったら、あきらめよう。
やれることだけはやってみる。
だが、後に誰も続かなかった。
彼が最後だった。
本来ならば、金貨10枚ぐらいいくのだろうが。誰も手を上げない。皆恐怖で手をあげることをためらっていた。
先ほどの不躾な悪意は彼の魔物に消し飛ばされた。群集意識というのは強大だ、一度定まったら冷めるまで、徹底的に悪意で落とそうとする。
それを無理やり押しつぶしたのだ。一度冷めた意識は押しつぶされたことで、別のほうへ矛先がむいた。
誰もさからわないほうがよい、そういう方へ向かった。
誰もが口を挟めなくなり、誰もが陰口を叩けない。
彼に目をつけられたくない、群集はあげようとした手をおろしていた。
この場は、オークのときから彼が支配している。
支配者の思うがままに、ことはすんでいった。
頭が冷えた。すっごく恥ずかしいことをしていたと理性が戻っていた彼は目を瞑り、腕を組んで終わりを待った。
彼は振りのプロだ。自身の恥ずかしさをごまかす為に行った、腕を組んで、目を瞑る行為は、この場でも悪い方向に発動していった。恐怖の支配者たる人間は、堂々とした立ち振る舞いでここにいる。
なんともおもわず、誰も気にしない、絶対強者の姿。
そういうふうに周りから見られていたのはわからなかった。
すっごい恥ずかしい。
そんなことを考えている人間がこの場では支配者と扱われているのだからどうしようもない。
「エレシア姉妹が........」
どうたらこうたらしていても彼は一切目をあけなかった。
そこにあるのは用は無いといわんばかりの男の姿がそこにはあり。
「金貨1500枚」
誰かが凄まじい金額を出しても。
決してオークションが終わるまで目を開かなかった。
今日彼は武器を手にした。
彼自身は使えないが、彼の手となる存在が
欠陥品の剣。 安価な槍。
戦力は自然と整っていく
誰もが馬鹿にした、存在が。
誰よりも恐れられる存在になっていく。
これはそういう物語。
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