第11話 奴隷
夢の世界に紛れ込んで、二ヶ月がたった。
この間、何があったかといえばゴブリンと収入源を見つけたことだろう。
一つ目はゴブリン討伐は彼の知らぬところで行われた。
最初、マッケンが誘ってくれたのだが、彼自身肉体労働は無理だし、生物を殺すのにも抵抗があった。
何より、野生の生物に勝てるわけが無いという考えもある。
誰よりも弱い、自分がゴブリンに勝てるわけがない。
そうした理由から、断った。
その後、レインも来たが、彼の答えは換わらなかった。
どうこうしているうちに討伐の日が訪れ、騎士団、冒険者による合同作戦が開始され、ゴブリンは討伐された。
けが人は結構多かったらしい。
二つ目の収入源。
「はい、こちらテディグリスと、ムントの買取でございますね」
彼は今、冒険者ギルドにいた。
この世界で仕事は見つからない。そうするとお金だけが消えていく。この夢の世界は頼る相手がいない。実家だったら寄生することができるのだが、今は一人で生きていくしかないのだ。
なんとしても収入を得なくてはいけない。
結果、彼はここにいた。
冒険者ギルドは討伐やら採取やらのたくさんのクエストがあり、どんな人間もすぐ相手にしてくれる。
彼が今回持ち込んだのはテディグリスとムント
テディグリスは回復とムントは毒治療の薬の材料。フーリ君から教わったものだ。じゃなくては、彼がわかるわけがない。
「登録はされてますか?」
「...していません」
「そうなりますと、3割引きで買取となってしまいますが?」
「...かまいません」
3割引。
かなり大きい。
登録をしないとこんなにも減らされるのだ。
それでも、彼は一向に登録をしようとはしなかった。
理由はある。
一つは強制依頼。
ゴブリン掃討はDランク以上全員が参加させられた。最初、登録してもEクラスから始まるそうなのだ。だが今回の作戦はEクラスも何名か参加させられたそうだ。
もう、あれだ。
ルールが成り立っていない。
Dランク以上なはずなのにそれ以下の人間も参加させるなんて適当すぎる。
それが嫌な理由の一つ。
大体、マッケンからもレインからも断って逃げたのに、そんなので参加させられたらたまらない。
危ないことなんかしたくない。
あと、一つある。
これが本命。
彼は保障、安全、規則、有給。これがないものはしたくなかった。ルールが適当なところに登録したって、損をするのは自分だ。
泣きを見るのは嫌だ。
冒険者という名ばかり派遣社員になりさがるつもりはない。
彼は正社員希望なのだ。
現実社会の派遣社員は保障、有給はあるにはあるのに、この冒険者には何もないのだ。装備も、怪我も交通費も自分で負担し、自己責任という形でとられてしまう。
必要経費ということで会社が負担してくれる正社員とは何もかもが違うのだ。
命がかかるわりには安いのだ。
ピンはねされるし。
今も、3割ピンはねされていることは気にしない。
まぁ、彼も一応考えて貢献はしているのだ。
回復、治療の材料を優先的にあつめているから。
ゴブリン討伐作戦において、けが人が多数でたことにより、回復薬とかの需要が高い。3割減らされても従来の買取金額にはなっているそうだ。
頑張って、森に採取にいくかいがあるというものだ。
平原では他の人間がたくさん採取しているため、人と同じ空間にいることすら苦手な彼は森までいっていた。
背負うタイプのバックを買って、いっぱいつめこんできた。
そのおかげで大体、二日に一回森にいけば生活はできる。
貨幣の価値も二ヶ月も生活していれば大体わかった。
「では、こちらの量になりますと銀貨7枚となります」
「...ありがとうございます」
銀貨を受け取り、礼をいう。
踵を返し、彼はギルドを出ようとした。
その際、出るほんの少し前。
「奴隷商がきたってよ」
「まじかよ」
耳にしてから、彼はギルドをでた。
奴隷か。
彼はひそかに頭で繰り返していた。
なんというイケナイ空気をかもし出す言葉なのだろうか。何か胸がわくわく、ときめくものがある。
安いのだろうか。
かえるだろうか。
若干考えていた。
湧き上がるものとは余所に沈むものもある。
彼が話せるかという事。
関われるかという事。
話せなくてはいけないし、買うということは面倒をみなくてはいけないということだ。
彼は人と話すのが苦手だし。
面倒を見るのは大変だ。
命は一つしかない。
かけがえのないものだ。
一時的な感情で持つには、少しばかりしんどいものがある。
彼は命の重さを少しだけわかっていた。
命を背負うということの重さは実家のハムスターでしっている。ペットショップで購入した480円のハムスター。ごろごろ歯車を回す愛しい奴。人間関係がまったくなくて、冷え切った心にぬくもりを与えてくれた唯一無二の存在。
名前はねずみ一号。
ひねりもない名前だが、彼は必死に育てていたのだ。忘れずに水と餌はあげていた。そのときの彼は良く笑っていたのは記憶している。たまにひまわりの種をあげ、よしよしと可愛がっていた。
当時、小学生だった彼はハムスターが永遠に生きる存在だと信じていた。
変化は突然だ。当時のことを今でも覚えている。
学校から帰宅すると普段ならぐるぐる回っている歯車は回っておらず、餌と水をもってきても小屋から一向にでなかった。彼は子供ながらに一号は寝ているのだろうと思ったが、何時間たっても歯車の回す音がしない。
水とえさはそのまま。
さすがに心配だった。
彼はケースの中を必死に調べ、見つけた。木屑にうもれて、つめたくなった一号を。歯車の下の木屑にうもれ死んでいた。2年と3ヶ月。わずかな寿命だった。
彼はおおなきして、家族に当たっていたことを思い出した。今思えば、寿命だったというのはわかるが、そのときはわからなかった。
命は重い。
それからペットは飼わなくなって。
彼の心はうもれていった。
そして、今彼はまた牛さんという存在と一緒にいる。勝手についてきたのもあるが、命を助けた。責任を負ったからには簡単に見放すことはできない。
面倒を見るのは、その一生を見るということなのだ。
かっこいいことばかり、のべてみた。
だが実際のところは 寂しかった。
家族がいるから一人ではない。
だから、寂しくないとかではなく。
それではない家族とは別のぬくもり。自身とは違う血をもつ別の存在を彼はほしかった。
家族と友達は違う。
心に巣食う割合が。
一号は家族で。
牛さんは友達。
ぜんぜん、違う。
よくわからないけど、違うはず。
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