解放

次に私が目覚めたとき、私は暗闇の中にいた。


長い物語の序章を書きだしていた気がしたのは、どうやらすべて、夢だったようだ。


そう、ここは宇宙では無い。地球の上、建物の中なのだ。どこかで人の気配がするが、風の匂いがし、どこからか隙間風が通っている。体をよじろうとすると、何かが腕にふれた。


「しっ、静かに」


私は声を発しようとして、乾いて無理なことに気づいた。何せ、二週間も何も口にしていない。


「大変申し訳ない。見つけ出すのに苦労して」


その声の主は、どうやら女性のようで、私は、思い頭をなんとか持ち上げようとしたが、彼女の姿を視認するのはどうやらむりだと思った。


「あと、少しの辛抱です」


かろうじて首を縦に振った私は、また眠りに就いた。


地球が、小惑星の衝突によって、その水の三分の一を失ったのは、宇宙レベルでの話し合いに、地球が不参加の意を示したからだ。


私は、そうしたことにならないよう働きかけ、もちろん、言語等の通訳の手配まで進めていたのに。


これまで地球が大規模な損傷を受けずに済んできたのは、宇宙間共鳴の加護を受けて来たからで、その声にまともな反応をしないことは、はなはだ分不相応というか、失礼にあたる。


あまつさえ、外交官の私を監禁して、こんな目に合わせるなんて、決裂もいいところだが、未熟な地球人のことを考慮して、また千年ほど、会議を延期する必要がある。


目の前に降りて来た船を前に、彼女は銀色の腕をのばし言った。


「お帰りなさい、アルファ。しばしの休息を」


私は目を閉じ、光となって船に回収されるのを感じた。あぁ、仕事も楽では無い。彼のためでなかったら、きっと何もできはしないだろう。


・・・・・・・・・・・・・・・



栄養光線を受けながら眠るの傍に、彼が、歩み寄って来たのに気付いた。僕は彼を見上げ、「やぁ」と言った。


彼は、困ったような顔をしながら、僕の頬に手をやり、「ひどい待遇だな」とだけ言った。


僕は、すこし苦笑いをして、「でも、だめだよ、手を出しちゃ」と言った。彼は、額を掻きながら、考え深そうに窓の外を見つめた。そこには光り輝く星の海が広がり、安堵する。彼は言った。「でも」


僕は、深呼吸して言った。


「地球はね、まだこれからなんだ。それに関心を払うべき星は他に何万とある。もう、次に行こう。それからでいいよ」


彼は、黙ってうなずき、僕の額に自分の額を近づけた。


僕は言った。


「…淋しくて仕方が無かった。君がいないと、僕は淋しくて消えてしまいそうだ」


彼は間近で、きらきらと渦巻く瞳を、僕だけに見せてくれる。

僕はその中に神秘の宇宙と、何物にも代えがたい愛を見いだす。僕はたまらず囁く。


「愛している。愛しているんだ」


彼はくすりと笑って言った。


「久しぶりに弱音を吐く君に会った。どうやらだいぶ、参っているんだな。あぁ、しっかり休むといい」


そういうと、彼は離れていく。僕は腕をのばして、彼の姿をつかもうとする。


「ねぇ、もう少しだけ」


彼は振り返って言った。


「僕も淋しかった。君が僕の傍にいないと、僕は何もかもが許せなくなる。この宇宙は一人では耐えがたいから。じゃ、また良くなったら会いに来るよ」





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