2"

醜くなりたかった。

心が腐ってしまえたらと思った。


しかし、その腐敗さえも、時間を要するのだ。

私はその時間を持つこともできない。待てないのだ。何もかもが、私を通り抜け、そのたびに私は変わらぬ自身を確認する。


何もかもが通り抜ける私の身体のみが、唯一、確かなものであるかのような錯覚。


いや、錯覚なんかでは無い。呪いだと思った。忘れようとする私が、私を思い出させる。あぁ、終わりしかない。


そんな私が諦めかけ、心が静かに暗闇に落ちていこうとしていた時、奇跡は起こった。


私はその声を聞いた時、どこかで聞いた声だと思った。その言葉の紡ぎ方を理解したとき、私は彼のつむぐどんな言葉もきっと私を裏切らないだろうと思った。


そして、彼のいる空間に足を踏み入れたとき、世界が変わったことを確信した。


雷が落ちたように、頭の中の虚無が一気に満たされたような気がした。味わったことのない感情が、一つ、たしかに私を変えてしまったのだ。私は彼の姿を認めた。


見ると言う行為が、これほど、自分を満たす行為であるとは思わない位に、私は彼を見て、同時に私を見た。それは初めて感じた羞恥だった。


私は誰かが美しいと言う自分を、あまりに手放しで評価してきたことに気付いた。

どこが?どうしてそう言われるのか。いや、私は誰よりも自分の容姿を肯定してきたのだ。


それに縋り付いて、何も他には望まないようなふりをしてきたのだ。私は私に与えられたものに不満を言いながら、それを捨て去ることを、考えもしなかったのだ。


浅ましくも、しがみ付き、これしかないのだと、駄々をこねる子どものような私を、彼は、その存在一つで明らかにした。


私は、自分の容姿が、彼にとって、おそらく何の意味も持たないだろうと思った。彼とは、そのような存在なのだと、直感した。

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