第12話 銀髪の秘密


 はじめてタイムリープしたのは何年くらい前のことだっけ……。


 柊雪夜は久しぶりに高校生の肉体に戻った自分の顔を鏡で見てボンヤリと思う。


 病弱な妹は無理をさせないように囲碁の棋譜並べを止めさせて部屋に戻らせた。

 勉強熱心な子だから部屋でも囲碁を勉強しているんじゃないかと思ったが、どうやらもう眠ったらしい。


 妹が大病を抱えていると判明するのはこの1年後。

 何度も時間を繰り返してしているから妹の苦しむ姿を何度も見た。

 その度に雪夜は己の無力さを悔やみ新たなタイムリープの方法を探した。


 この髪が白くなったのは何時からだろう?

 もう覚えていない。

 禁呪とされるタイムリープの魔法をありとあらゆる方法で試した代償なのか雪夜の茶色かった髪はいつしか真っ白になっていた。


「生まれつき銀髪なんだ……」


 周囲の人間にはそう言っている。

 母親が西洋系なため信じる人がほとんどだ。

 2050年くらいから移民や国際的移住が世界中で一般化したため、純日本人は現在では数が少ない。


 そのため雪夜の髪が白くともそこまで目立たずに済んでいる。


 囲碁を使ったタイムリープの魔法があるのは知っていた。


 けれど、巫女のチカラを借りなくては成立しない秘術なため半ば諦めて他の黒魔術や西洋魔術でこれまでは時間を巻き戻した。

 雪夜の知る限りは囲碁のタイムリープ魔法が雪夜が使うことのできる最後のタイムリープだろう。


 これ以上時間を巻き戻すことは不可能だ。

 これが最後のチャンス。


 厄介なのは巫女のチカラを借りたせいで巫女の加持マナセにタイムリープをしたという記憶があることだ。

 彼女は僕を見つけるとその後の道幻の様子を聞きに何度か話しかけてきたが、記憶がないふりをしてごまかした。


 道幻も一応普通に生きているようで安心している。

 うまく妹が生き残る方法を探しだせればいいのだけど……。


 雪夜は久しぶりに深い眠りにつき、長い長い夢を見た。

 まだ純粋に囲碁を打っていた頃の夢。

 19路盤は宇宙を模していて碁石は夜空の星なのだと知った時に子供心に感動したこと……雪夜が見る夢は決まってその頃の夢だった。


 いつしか囲碁を純粋に楽しめなくなっていた。

 大切な妹を取り戻したくて彼女の大好きな囲碁を少し敬遠するようになった。


 最後まで妹の支えになったのは囲碁だというのに……。


 夢の中で雪夜は空に浮かぶ綺羅星に手を伸ばして掴み大切な妹にプレゼントした。


 ずっとずっと幸せが続くように。

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