第11話 改変される過去


 オレはマナセちゃんに未来のオレが勤めていたという天元シティに次の休みに連れて行ってもらうことにした。


 天元シティは家からだと電車で15分程の距離だが、オレは観光案内所に知り合いはいないし、人間語を話せるキツネに会ったこともない。


 それにマナセちゃんの話が本当なら、オレはそんなに遠くない未来に魔法動力事故に巻き込まれて2年間意識不明、リハビリを兼ねて観光地で囲碁を教える仕事をするも今度は星守りの鬼に切られて瀕死の重傷……しかも両方の事故に雪夜が絡んできているという。


 オレは部屋のベッドでゴロリと横になって雪夜との忌々しい因縁を振り返っていた。

 雪夜とは、くされ縁だが昔から相性が悪い……。


 最初の不幸…小学6年生の時に学芸会でオレは何故か白雪姫の王子様の役を演じるハメになった。オレが風邪で休んでる間に雪夜が勝手に推薦して王子役に決まっていた。雪夜はオレが演じようと思っていたセリフがひとつしかない後ろで立っているだけの森の木の役を奪い取っていた。


 本番当日、白雪姫役の女の子が休んでしまい、白雪姫のセリフをすべて覚えていた雪夜が女装して白雪姫を演じた。どういうわけだか役になりきった雪夜が最後のキスシーンを本気で演じ始めて……。


 あの時、雪夜は子供らしからぬ意地悪そうな顔で死の接吻だの呪いをかけただのなんだの言っていたような……。

 もういいや。 寝よう。 あんなのファーストキスに入らないだろう。


 オレが不幸から逃れる最善策は雪夜と関わりを一切無くす事のような気がする。


 すると、スマホから着信音が鳴った。着信元は加持マナセ……この子も何を考えているのか分からないところがある。


 なんていうか、大人のオレと今のオレのギャップに戸惑っているような感じだ。もしかしたらマナセちゃんは大人のオレのことが好きで現在のオレを見てガッカリしたのかと思ったが、そんなこと言ったら自惚れが強いと思われて余計嫌われそうだ。

 それはともかく、電話に出ると……。


「はい、何かあったの?」

「道幻さん!テレビ見ましたか? 雪夜さんが、開発で賞を取ってしまって……これ未来では他の人が開発して取った賞のような気がするんです……。 どうしよう」

 やっぱりな。

 あの自己顕示欲と他人を蹴落とすことしか考えていない雪夜が無償でタイムリープなんかするはずない。


 一応言われた通りにテレビをつけるとちょうどニュースで「天才高校生最新チップ開発で賞受賞! 柊雪夜君おめでとう!」という特集を放送していた。

 雪夜がドヤ顔で受賞の喜びと開発の苦労話をしている……アホらしい……どうせ未来の技術を丸ごと提出しただけだろう。


 こうやって世の中は雪夜の魔の手に染まっていくのか……。 ますますアイツから逃れて生きた方が良さそうだ。 海外逃亡でもするか……でも海外に雪夜が来そうで怖いな。


「道幻さん、ゴメンなさいボクが雪夜さんにのせられてタイムリープの魔法なんか使うから歴史が変わっちゃった。あの時雪夜さんが道幻さんのことを見て無言で首を振るからてっきり道幻さんは死んだものだと……。 でもタイムリープって死んだ人間には効かないらしいんです。 だから道幻さんあの時死んでなかったんですね。 病院に連れて行けば良かった。 キアラさんにも悪いことをしました……せっかく最年少で全タイトル制覇の美人女子高生囲碁棋士だったのに」


 今なんて言った?

 妹キアラが全タイトル制覇の美人女子高生囲碁棋士だと……。 まさか雪夜のヤツその歴史を変えるために……。


「なあ、雪夜の妹は? アイツの妹も囲碁やっているんだよ。キアラとどっこいどっこいの棋力でさ、ライバルっていうの?キアラがプロなら雪夜の妹もプロ入りしてそうだけど」

「妹さん……? いいえ知らないです。 柊さんって棋士自体今の時代に聞いたことありませんし……。 まだ若いならプロ入りされていなくても不思議ではないのでは?」


 どうなんだろう……。

 マナセちゃんが知らなくても、天元シティのキツネが知っているかもしれない。


「そっか、ゴメン。 じゃあ日曜日に……おやすみ」

「あっはい。 おやすみなさい」




 今日はタイムリープした成果が出せた。賞を受賞出来たから。 開発の権利で金銭が入ってくる。 でももっとカネが必要だ。

「お兄ちゃん、受賞おめでとう!いつもヘラヘラしているのにいきなりすごいことしちゃうんだもん! ビックリしちゃった」


「体に触るから今日はもう囲碁は休んで寝たほうがいいよ」


「お兄ちゃんがすごいから私もプロになるためにもっと頑張らなきゃって……分かったもう休むね、おやすみなさい。」

 そうだ。休まなきゃダメだ。お前は無理できる身体じゃないんだ。 この時はまだ普通に生活していたから気づかなかった……。 今度は絶対に助けるから……。


 雪夜は消えそうな妹の背中を見てそう思った。

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