第8話 夢の中の巫女との再会


 オレが囲碁に魅入られるようになったのはいつぐらいからだろう?


 最初はただの黒と白の丸い石だと思われていた其れが、美しい輝きを持つ夜空の星々であると知って感動したものだ。

 手に碁石という星を持ち、盤上という宇宙に星を並べていく。


 本来ならば手に触れることすら叶わない星々をこの手に収めるその遊戯はまさに神の遊戯。オレ達人間には一生届くことのない神のみ技に少しでも近づくために、何年も何千年でもかけて人々は囲碁を伝えてゆくのだろう。


 だから、自分の意思とは関係なく鬼手を打つようなチカラは要らない。 オレはたとえ弱くとも自分のチカラで囲碁を打ちたいんだ。


 朝目覚めると突然出来ていた不可解な身体の傷跡、夢の中の不思議な巫女の美少女の哀しそうな表情とオレを呼ぶ声、意味ありげに対局を申し込んできて鬼手を確認し去っていった雪夜。


 雪夜はオレと同じ高校二年生のハズなのに以前より随分大人びた印象になっていた。うまく言えないが銀色の髪をかきあげる仕草や対局時に碁を打つ時の物腰が落ち着いたものになっている……それにまるでオレのことを子供扱いしていた…同い年のくせに。


 鬼手……本物の鬼、まるで鬼がオレの身体、いや魂に入り込んで盤面に向かいたがっているようだ。


 夕日が迫る中、地元の中では一番大きい図書館に行く。 図書館と言っても駅前にビルとして建てられたものでまだ出来て数年しか経っていないため外観内部ともにとてもキレイだ。図書館内は雑誌コーナーでファッション雑誌を読みながら寛ぐ学生や趣味の専門誌を読み耽るお年寄り、CDコーナーで視聴する若者、カウンターには数人の列が出来ている。オレは検索コーナーで思いつく限りの魔道書を調べた。もし、この身体に突然出来た傷跡が魔術か何かと関わりがあるなら魔道書にヒントが隠されているはずだ。

 西洋魔術、東洋魔術、鬼はおそらく東洋魔術の部類だろう。 さらに的を絞る……日本の魔術、陰陽道、中国魔術……どれだ?鬼手を打ちたがる鬼……巫女の存在……囲碁を打ちたがる鬼……碁盤を使った魔術か?


 検索結果……

(キーワード囲碁 魔術 魔法)

 古代中国碁盤の謎

 詰碁魔法の初歩

 未来永劫の禁呪〜コウトリ

 誰でもできる囲碁魔法

 有段者向け詰碁魔法のすべて


“未来永劫の禁呪〜コウトリ”以外はこの一般図書館コーナーにあるらしい。 コウトリ魔術は禁呪というだけあって閲覧規制がかけられている。 高等魔導師のみ閲覧可能、と注意書きがあった。 とてもじゃないがオレの魔法力じゃ、高等魔法なんか使えない。 良くて有段者向け詰碁魔法だ。 オレは囲碁はかなり鍛えたが肝心の魔力が足りなくて高等魔導師どころか、中級魔法使いになれるかどうかも分からない。 雪夜だって、オレより魔力は高いものの高等魔導師になるのは今のところ不可能だろう。

 オレ達には高等魔法の魔力なんてとても……。

 でも、もしかしたら……。

 鬼手……鬼のチカラ……。

 オレは思い切って5階にある高等魔導師向けコーナーに向かい魔法力測定装置のゲートをくぐれるか試すことにした。

 電車の自動改札機によく似たゲート。

『魔法力測定をします。手をかざしてください』

 オレは鬼手を打った方の左手をかざす。

『測定、A級高等魔法力が確認されました。ゲート通過を許可します』

 A級高等魔法力、おそらく鬼手の影響か本当に鬼が魂に入り込んでいるのか。

 オレが閲覧規制室に入ると高等魔道書コーナーに見覚えのある少女が何やら真剣に魔道書を読んでいた。


 どうして……?

 おそらく西欧の血が入っているであろう明るい茶色の少しウェーブがかった肩に届くか届かないかくらいの髪に、グリーンの大きな瞳、色白で透き通るような肌、小さい唇、その少女は夢の中で泣きながらオレの名前を読んでいた巫女にソックリだった。


「キミは?」

 オレが思わず声をかけると驚いた表情で少女はオレのことを見つめた。


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