第1章 タイムリープ後の高校生活
第7話 鬼の手と対局の読み
「道幻(どうげん)さん」
巫女装束を着た可愛らしい女の子がオレの名前を呼んでいる。少女は何故泣いているのだろう?
彼女の零れ落ちる涙をオレは指で拭って何かを言おうとした……オレは彼女に何を伝えたかったのだろう?
目が覚めると見慣れた部屋のベッドの上にいた。 サイドテーブルにある置き時計が朝の7時10分を指したところだ。
「おにーちゃん! 早く起きないと学校に遅刻しちゃうよ!」
中学生の妹キアラがオレを呼ぶ。 風邪でも引いたのか不思議とダルい身体を起こして高校に向かう準備を始めた…。
制服に着替えている途中で、オレは自分の身体の異変に気付く……。
腹の部分に大きな傷跡ができている。 まるで巨大なヤイバで貫かれたかのようだ。
触るとジクジクとした痛みがあった。
2100年代から、高等魔法が復活しオレ達のような一般人でも簡単な魔法なら使えるようになった。
だが、そのせいで日常生活で禁じられていた魔法に手を出す者も増えた。
目が覚めると突然見覚えのない傷が出来ている……不思議に思ったらだれかに魔術をかけられていた……なんて話もチラホラ耳にする。
そういえば、やたらリアリティーのある不思議な夢を見たな……巫女の女の子の方は誰なのかわからないがもう1人の夢に出てきた銀髪赤目の方はよく知っている。
オレの同級生でくされ縁の雪夜だ。
夢の中では、やけに雪夜は大人びていた……。
変な魔術だと嫌だな……考えても仕方ないので、学校帰りに図書館に行って調べることにした。
妹のキアラは、早ければ今年遅くても来年には囲碁のプロ棋士になるための試験を受けることになっている。
大事な時期だ……変に心配をかけないようにしなければ……。
オレは何事もなかったようにできるだけ振る舞い、放課後足早に図書館に向かった。
「道幻く〜ん? ずいぶん今日は早く帰るね? 朝もどんどん行っちゃうしさ〜これから一局打とうよ!」
例の雪夜が囲碁の対局を誘ってきた。
……オレから言わせると雪夜だって今日はソワソワしていて様子がおかしかった。
夢の内容や突然出来た傷跡のことが何か分かるかもしれない。
オレは雪夜の誘いに乗って対局をすることにした。 学校のカフェテラスに移動すると、雪夜は用意がよくカバンの中から簡易用の碁盤と碁石を取り出した。
パチリ
パチリ
こちらが黒番。
棋力は2人とも同じくらいだから置き石はいらない。
お互い様子を探るようなイマイチ攻めに欠ける碁だったが中盤に差し掛かったとき、オレの手が勝手に碁石を意外なところに打った。
自分の意思とは関係なく勝手に……だ。
雪夜は思わず次の手を打とうとした手を止めた。
さっきのオレが打った手は、鬼手(きしゅ)と言われるものだったからだ。
相手の意表と急所を突くような鋭い一手。 けれどこの手はオレが考えて打ったわけではない。
お互いに違和感を感じたのか、オレはなんとなく打ち掛けにしようとしたが雪夜の方から投了(降参)してきた。
珍しい…… あの負けず嫌いの雪夜が……。
「道幻らしくはないけど、さっきの手……いい手だと思うよ。 まるで本物の鬼の手みたいだった」
それじゃあ、ありがとう……。
そう言って、いつもおしゃべりな雪夜は不自然に去って行った。
鬼の手……鬼……オレは夢の内容を何か思い出せそうだったが、記憶が混乱していてイマイチ答えにたどり着けなかった。
けれど、鬼という言葉をわざわざ雪夜が使ったことに例の夢のヒントがあるような気がした。
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