第6話 巫女の儀式とタイムリープ
「召喚! 青龍(せいりゅう)」
僕たちの目の前に青い巨大なドラゴンが襲いかかってきた。
「先ずはそこのぼうやから……」
女魔術師は僕に直接カマイタチの呪文で攻撃してきた。
「痛っ」
カノープスの制服がビリビリに破ける。
「あら、ぼうやじゃなくてお嬢さんの間違いだったかしら? でもおかしいわよねぇ。星送りの儀式は普通男性が行うはず。わざわざお嬢さんにぼうやの格好をさせて星送りさせようなんて何か秘密があるのかしら?」
「例えば……星送りに見せかけて何か他の儀式をするつもりだったとか」
僕の家は代々巫女の家系だ。
巫女としての役目を果たすまでは男として過ごさなくてはいけない。でも僕の巫女としての役目が何だか僕は知らされていないし、船に乗って星送りの仕事を手伝うようにとしか言われなかった。
「僕……儀式の内容なんて知らない」
「へぇ……お嬢さんが嘘をついているのか……それとも星送りの組織がお嬢さんに本当のことを教えていないのか」
「召喚! 麒麟(きりん)」
いつの間にか術式魔法を発動していた道幻(どうげん)さんが、別の召喚獣を呼んだ。
「いいか、俺が時間稼ぎしている間に最上階に行って星送りの儀式をしてくるんだ」
「えっでも、あのっ」
「早く行けっ」
塔の中心部は空洞になっていて階段は周囲を螺旋状に設置されている。階段を昇るより飛空魔法で一気に最上階まで行った方が早そうだ。僕は星のたくさん詰められた袋を担いで、飛空魔法を唱えた。
キアラさんに教えてもらったランプの術式魔法で灯りを作り、暗い空間をひたすら飛んだ。
最上階に辿り着いたが、警備員の人たちが数人扉の前で倒れている。嫌な予感がするけど、僕は儀式の部屋と思われる巨大な扉を開けた。
「やぁ、よく来たね……」
儀式台の目の前には既に雪夜(ゆきや)さんが先回りしていた。
「……雪夜さん」
雪夜さんの傍にセシリアによく似たフェネックキツネがいる。小さい檻に入れられていて、身動きが取れないようだ。檻には魔術封印の札がたくさん貼られていた。 本来はこのフェネックキツネが儀式台を管理しているはずである。
「コン……早く私を外に出しなさい。この塔は私の魔力で秩序が保たれているのです。封印しているあの化け物が復活したらどうするんですか!」
コンコン鳴きながら、フェネックキツネは必死に訴えている。外に暗い霧が漂い始めた。封印している化け物ってなんだろう。
「星送りの儀式しないの? 本当は巫女の君が星送りの儀式をすることで星の寿命が延びて天元シティの人々の魔力や寿命を延命する予定だったんだろうけど、そうはさせない。星は間違った使い方をすると人の命を奪うからね」
魔力と寿命の延命……それが僕の巫女としての本当の役割だったのかな……?
「もしかして自分の役割について知らなかったのか? まぁ、でも君には君の意思関係なく僕の儀式に付き合ってもらうけどね。早く巫女装束に着替えておいで、儀式を始めるよ」
「そのボロボロの服では塔の魔力で災いが降りかかります。そこの部屋に巫女の衣装があるので、早く着替えた方がいいですよ」
キツネも早く着替えるように促してきた。仕方ないので、用意されていた巫女の服装に着替えて儀式台に向かう。
儀式台には、道幻(どうげん)さんが観光案内所で使っていた17路盤によく似た囲碁盤と椅子が2つある。儀式とは対局のことをいうのだろうか?
「あの……雪夜さんは何の儀式をするつもりなんですか?」
「囲碁のコウ取りの儀式。コウって何の意味からきているか知ってる? 未来永劫のコウなんだよ」
囲碁にはコウという形があり、お互いの石をとっても繰り返し終わらない形のことである。そこでコウ取りを一度行ったら、一度別のところに石を置き、再度コウ取りをするか決めることができる。
「それをこの儀式台で行うことに何の意味があるんですか?」
「タイムリープ……未来永劫の術式魔法だよ。1回のコウ取りで1年時間が巻き戻る。僕は5年時間を戻したい。道幻(どうげん)が事故に遭う前の年まで。あの事故を防げれば、星送りの儀式なんかいらなくなる」
「あの事故って、何があったんですか? 道幻さんがプロになれなかったという話と何か関係があるんですか?」
「僕は星送りの装置を作った。装置といっても魔術道具だ。星を詰め込みすぎたのか、魔力が暴走して人の命を奪おうとした。実験に立ち会った道幻は意識を失い、仮死状態で2年間眠り続けた。僕はアイツの人生の一部を奪ったんだ。あの事故は僕のせいで起きた。だから僕が責任を取る」
「でも……時間を巻き戻したら、いまの僕たちはどうなるんですか? 今の道幻さんの人生には影響ないんじゃないんですか?」
「タイムリープの魔法は黒番が術者とみなされる。術者のみ年齢も記憶も失わない。 対局相手になる白番は記憶は残るけど、年齢を失う。他の人間は記憶も年齢も失う。要は術者以外の人は5年前に戻る。術者のみ今の年齢と記憶で生きるって訳だ。あっでも巫女や神様の部類にはこの魔法は効かないから、君たち一族やそこにいるキツネや観光案内所の管理人なんかには効かないよ」
「私たちが神に近しい存在と知っていて、こんなことをしているんですか⁈ 早く私を解放しないと様々なわざわいが起きますよ!」
キツネはかなりご立腹のようだ。
外は雷が鳴り始め何かの唸り声が聞こえる。早くキツネを外に解放した方が良さそうだ。
「もういい! 雪夜もう止めろ!」
「道幻さん‼︎」
下の階での戦闘が終わったのか、道幻さんがこの部屋まで辿り着いた。
「俺は人生をやり直したいなんて頼んでいない。今の自分で精一杯生きている。夢が叶わなかった人間なんてたくさんいる。でも、その後も人生は続く。それからでも幸せになることはできる」
「……道幻……」
雪夜さんが道幻さんの元に行こうとした瞬間、唸り声をあげていた黒い霧が具現化して僕たちに攻撃してきた。
「儀式を阻む封印の鬼という奴だね」
厄介だな……と雪夜さん。
この鬼、雪夜さんが呼んだわけじゃないんだ。
「……‼︎ 危ない」
僕を庇って道幻さんの身体が鬼の刃に貫かれた。
「⁉︎ 道幻さん‼︎」
「道幻⁉︎」
僕は倒れた道幻さんのことを必死に呼びかけた……けれど、道幻さんはすでに声を出すことも辛いようだ。
涙がどんどん溢れてくる。
道幻さんは指で僕の涙をぬぐった。
「……加持くん俺は……」
道幻さんの声はそこで途切れた。
……雪夜さんが道幻さんの身体を診て首を横に振った。
「どっちにしろタイムリープするしかなさそうだね。拒否権はないよ」
5回コウ取りをする。
1回目で1年…塔の景色が変わった。
コウ取りをする度に雪夜さんがだんだん若くなっていく気がする。
5回終わった時には雪夜さんは高校生くらいの容姿になっていた。
『道幻さん』
女の子が俺を呼んだ気がした。
目がさめると、俺は自分の部屋のいつもの変わらないベッドにいた。夢の中では巫女の格好をした可愛い女の子が俺の名前を呼んでいた。最近囲碁漬けの生活だからストレスで女の子の夢を見るのだろうか? オマケに雪夜の奴もいたような……。
「おにーちゃん! 早く起きないと学校に遅刻しちゃうよ!」
妹のキアラが起こしにきた。中学生の割に妹は俺よりしっかりしている。風邪でも引いたのか、何故かだるい身体を起こして俺は高校に行く準備を始めた。
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