第9話 キミが恋しているのは誰?


「キミは! ?」

 高等魔導師向けの図書コーナーに、夢の中で見た巫女にソックリな子が何やら真剣な表情で魔道書を調べていた。

 思わず声をかけてしまったオレのことを見て少女は驚いた様子だった。


「……道幻さん、ボクのこと覚えていてくれたんですね……!」


 覚えているっていうか、夢に見たという表現が正しいんだけど少女は涙を零しながら嬉しい……と言ってオレに抱きついてきた。 少女の細くて柔らかい身体を抱きとめる。 華奢だが胸が大きめのようでオレはドキドキした。 髪からはなにやらいい香りがする。


 どうしよう……この少女は感動の再会を果たしたかのような雰囲気だが、オレは夢に見た女の子が実在していたので思わず声をかけてしまったのだ。


「無事で……本当に良かったです……あのまま道幻さんが死んじゃったらボクどうしたらいいのか分からなくて雪夜さんの言われた通りに」


 死ぬ?オレが?何だか物騒な話だな。しかも雪夜って……アイツやっぱり何か隠してやがったのか?


 図書コーナーにいたガラの悪そうな高等魔導師のローブを羽織った閲覧客がヒューとオレ達をからかうかのように口笛を吹いた。 マズイ……このままじゃ静かな図書館内で抱き合う謎の迷惑カップルか何かにしか見えないだろう。 死んじゃったらなんて言ってるしこの子からするとそんなの気にならないレベルの話なんだろうが……。


 オレの様子がおかしいことに気づいたのか、少女がオレの顔を覗き込んだ。


「道幻さん……ボクとあんまり歳の差がなく見えますね。 もっとずっと大人の男の人だったから不思議なカンジです。可愛い」

 大人の男の人? 男なのに可愛いとか言われるのもなんだか複雑な心境だ。 確かにオレは落ち着きが足りないと言われるが。

 オレは女の子の読んでいた本がオレの読もうとしていた未来永劫の禁呪〜コウトリであることに気付く。


 コウトリの囲碁魔法ってどんな内容なんだろう。


 いつまでもくっついている(少女からすると感動の再会の最中)オレ達をニヤニヤ見る人やジロジロ見てくる人も出てきた。


「とにかく、ここじゃ目立つからどこかに移動しないと」


「ごめんなさい。 ボク嬉しくて」

 オレは女の子を連れてとりあえず駅前の喫茶店に移動した。 禁呪の本はどっちにしろ持ち出し禁止なので今はこの女の子から詳しく事情を聞く方が早そうだ。


 一番奥の目立たないテーブル席に座る。女の子はメニュー表を見始めた。


「喫茶店かあ。 天元名物のミルクコーヒーを思い出しますね。 あっセシリアが会いたがっていましたよ。 またお店に来て頭を撫でたり膝に乗せてほしいって……ちょっと妬いちゃうかな? 道幻さんのパートナーはボクなのに」


 セシリア?

 どんな女だ?

 この子との関係もよく分からないのにいきなり別の女の話をされても。 オレはそんな女好きじゃないぞ。 それそもこの女の子の言ってる道幻って男は一体どういう奴なんだ?同姓同名の別の道幻じゃないのか。


 大人の男でこの女の子ともパートナーでセシリアとかいう女とも親しそうで……まさか三角関係の修羅場の精算とかじゃ……。

 君が恋しているのは誰なんだ?


「このお店フェネックキツネのウエイトレスさんいないんですね。 ちょっと寂しいかな? やっぱり人間語の話せるセシリアは特別なんですね」


 人間語の話せるセシリア……セシリアって動物の名前なのか……フェネックキツネってどんな生き物だろう? キツネっていうからにはコンコン鳴くんだろうな。

 仕方ないのでオレは自分から話を切り出すことにした。


「あのさ……キミはオレがキミのことを覚えているって言っていたけど、その実はうろ覚えというか夢の中でキミが巫女の格好をして泣いている姿を覚えているだけで他のことはよく覚えていないんだ。セシリアってキツネのことも……ゴメンね」

 こういうことは素直に話した方がいいよな。この女の子には悪いけど。

「えっ、じゃあタイムリープの自覚はないんですか? どうしよう……道幻さんから声をかけてきたからてっきり記憶があるものだとばかり……」

 タイムリープ?

 オレはこの違和感の核心部分を聞いた気がした。

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