第4話 妹は美人女子高生囲碁棋士

 カノープス(水先案内人)実習の朝。

 僕は宿泊施設の一階にある和食レストランで朝食を食べていた。

 ご飯、味噌汁、焼き鮭、筑前煮、出し巻き卵、漬物のシンプルな和の朝食セットだ。デザートにヨーグルトもついている。

 休日な事もあり、観光客で朝から賑わっていた。

 昨日の雪夜(ゆきや)さんのことがちょっと気がかりだけど、今は実習に集中しなくちゃいけない。

 観光案内所のカノープス施設に行くと既に数人、カノープスの制服を着た人達が書類を読みながら話し合いをしていた。

 水先案内人の職場らしく水路や町の地図が壁に貼ってある。休憩用のソファとテーブルが中央に置かれているが誰も座っていない。来客用なのかな?


「おはよう。部屋に入んないの?」

僕が部屋の前でモタモタしていると、カノープスの先輩が話しかけてきた。

「あっあの、おはようございます。はじめまして。実習生の加持という者です」

「新人さん? 今日実習のまぁそんなに緊張しないで落ち着いて行こうぜ!」


 カノープスの仕事は、大まかに分けて二種類。ひとつはゴンドラを市内周遊して観光客を楽しませること、もうひとつはゴンドラで天の川に星を届けること。1日目の実習はゴンドラで市内を周遊、2日目の実習は天の川に星を届ける仕事だ。

 星泥棒に星を盗られないように、最善の注意を払わなくてはならない。


 僕は奥の部屋に呼ばれ実習担当者のガナンさんから星と街の構図について説明を受けた。

 僕たちのいる州(地域)は囲碁の碁盤を意識して作られているそうだ。いわゆる碁盤の目と言われる街の作り方で例えば古都も碁盤の目で作られている。

 囲碁の碁盤は星が九つあらかじめ黒い点で書いてある。その真ん中の点(星)が天元と呼ばれるものだ。州は九つの街から形成されており天元シティはその名の通り州の真ん中に位置する街だ。


「僕たちの住んでいる州が碁盤の目なのと星と何か関係があるんですか?」

 大有りだよ、とガナンさんは説明を続けた。


 天元シティをはじめ九つの街すべてに巨大な星を保管する塔があるという。この九つの巨大な星が僕たちの魔法力増幅装置の役割を果たしている。

 九つの巨大な星は常にエネルギー源が必要だという。そのエネルギー源がカノープスが運ぶ小さい星だ。小さい星を天の川に送ることが巨大な九つの星のチカラを保たせる……機械を充電するような作業になっているそうだ。


「つまり星泥棒っていうのは充電を邪魔して魔力を失わせようとしているんだよ」

 と、ガナンさんは言った。

 僕たちの現在の生活はかなり魔法力に依存している。生活の基盤が失われるようなものだ。


 でも、雪夜さんは“不備のある星”と言っていた。どういうことだろう?


「まぁ1日目の実習はお客様をゴンドラに乗せる仕事だから、星泥棒のことは警戒しなくていいぞ。 ただ……ある人の取材を兼ねているがな」


 取材……? なんだろう。


「君のパートナーになる道幻(どうげん)の実の妹さん……ああこの記事を読んだ方が早いな。道幻のことも知っておくといい」

 道幻さん、妹さんがいるんだ。

「美人女子高生囲碁棋士、兄の意思を継いでプロ入りから最速で全タイトル制覇へ。事故によりプロになれなかった悲劇の兄……その意思を継いでプロになった彼女はどこまでも上を目指す。美しい兄妹愛」


 事故でプロになれなかった悲劇の兄……道幻さんのこと⁈


「道幻の実の妹キアラさん。今をときめく美人女子高生囲碁棋士だよ。囲碁雑誌の特集で彼女のプライベートを紹介するそうだ」


「まぁ、私の記事読んでくださったんですね」

 気がつくと僕の隣に記事の美人女子高生囲碁棋士が立っていた。

 いつの間に⁈


「私、道幻の妹で囲碁棋士の星宮キアラと申します」

 よろしくお願いします……と、道幻さんに似た表情でキアラさんは優しく微笑んだ。

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