ハジマリ
『時間』を買う人がいるという噂はどこからともなく聞こえてきた
「ねえ、知ってる?時間が売れるって話」
「聞いた聞いた~!なんか色んなモノ手に入るんでしょ?」
「売りたいって思ってる人の前に突然現れるんだって!」
大学の授業の途中で、隣に座っている女子の会話だ
『んなもんウソに決まってんだろ…信じてるとか小学生かっつーの』
ノートをとりながら思っていた
でも、心のどこかで信じたい俺がいた
『そんなことが出来たら、俺の人生もっと楽しいものだったのかなあ…』
20年間生きてきて友達といえる奴はほとんどいなかったし、可愛い彼女がいたわけでもない
将来の夢が決まらなくてなんとなくこの大学にきた
唯一あったのは金だけ
両親が会社を経営していたが故にそこら辺の奴らより金持ちだった
『人生で一度でいいから友達とどっか遊びに出掛けたり、彼女とデートなんてものをしてみたい…』
この時俺は本当に時間を売って、その対価に友達と彼女を手にいれるとは思ってもいなかった
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今俺はビルの屋上に立っている
何でこんな所にいるかって?
そりゃあ死ぬ為さ
小さい頃に決めていたんだ
ハタチになったら死ぬって
実行されるとは思ってなかったけど、これまで生きてきてそんなに価値があるようには思えなかった
それはこの先も同じだろう
早いとこ区切りをつけてこの世におさらばしたいものだ
眼下には大きな環線道路が広がっている
『俺はこれからこの中に飛び込むのか』
後悔するようなことは何もなかった
悲しんでくれる人もいないし、遺すものも何も無い
遺書は敢えて書かなかった
だって死ぬ理由は単純だから
「今日もいい風が吹いている…」
そう呟いて前に倒れかけた瞬間、突然手を掴まれた
身体が宙ぶらりんになった
力を抜かれたらサヨウナラだ
『!?』
「初めまして…」
静かにこう言った目の前の人物は顔を上げた
「…誰だ」
「僕は唐草堂の者だ…ああ分からないよな。ここら辺の人には『時間買い』なんて噂されているアレだ」
本当に現れた…実在したんだ…
「お前は今命を投げ出そうとしていたな?何故だ?」
「特に意味はない…昔から決めていたし、この世に俺は必要ないと思ったからだ」
「命の大切さを分かっていてそのようなことをほざいているのか?……まあいい。死ぬ理由なんて人それぞれなんだから他人が口を挟むようなことでもない。単刀直入に言おう。時間を売る気はないか?」
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