第151話

 ベイセルの手信号に真っ先に気がついたのは、蒼い獅子のような

 体躯の未知なる魔獣との闘いを繰り広げていたクリストフェルだった

「了解したぜ! ちびっこ先生!」

 頼もしき戦友だ、と言いたげな表情を浮かべつつクリストフェルは、

 一旦未知なる魔獣との闘いを切り上げる



 奇妙な募集に誘われ話のネタとして応募してみたら、とんでも ない

 大舞台に招ばれてしまった実感がクリストフェルにはあった

 驚く事はいろいろとあったが、特に『ちびっこ先生』という愛称の

 ベイセルには驚かされた

 具体的な事としては年齢に合わないほどの博識な知識と戦闘技術が

 高い事が挙げられる

 当初はクリストフェルを含めた、奇妙な募集に応募した冒険者達全員が

『なんでこの辺境の住民は、こんな1人の子供に対して信用が高いのか?』

 と疑問に思っていた



 特に最初の説明会では、大多数の冒険者達が『何で子供が紛れ込んでいるんだ?』

 と疑問と困惑が混じったような貌を浮かべた

 その後、その疑問もすぐに氷解した

 ベイセルの説明は、見た目は子供でありながらも理路整然として

 非常に分かり易く、知識と経験が豊富で、しかも的確だったからだ

 説明会から『冒険者ギルドと地域住民合同ぬ訓練』が行われる間での

 短い期間で、ベイセルはすでに一癖も二癖もある奇妙な募集に応募した

 冒険者達全員から篤い信用と信頼を 集めている

 ベイゼル本人は『信用と信頼はするのは良いけど、ちびっこ先生と言うのは

 やめろ!!』と何度も言っている

 が、なかなか浸透すらしていない



 ―――今回の『冒険者ギルドと地域住民合同訓練』で、一番喜色を

 浮かべていたのはホワイトグリフィンを乗り熟すブラハルトだった

 当初、ベイゼル本人は『馬の騎乗もままならん、お子様にそれよりも高度な

 騎乗技術が必要になるグリフォンに乗せようとするな!!

 俺は冒険者じゃなくて一般の農民だぞ!!』

 と、散々言い張ってはいた。

 しかし、ブラハルトと幾人かの冒険者達の迫力ある説得と周囲からの

 期待の視線に抗し切れず不本意ながら騎乗する事になったのだ



 初めて騎乗するのが普通種のグリフィンではなく、超絶希少種の

 ホワイトグリフォンな事を知った時のベイセルの反応を思い出して

 思わずクリストフェルはクスリと笑った。

 その間にも誰も補足できないほどの瞬発力と動きで、杖を構えるゴブリン達へ

 真っ直ぐにクリストフェルは疾走する。

 杖を構えるゴブリン達は慌てて杖をかざし、慌ててクリストフェルに向けて

 魔法を発動した

 前方から幾つもの閃光が走り、若干の間を置いてクリストフェルの前方と

 左右に爆発光が閃く

 黒い華を思わせる爆煙が発生しクリストフェルを覆い隠した

(魔法攻撃の密度は、想像していたほどではないな)

 爆煙の中を凄まじい速さで疾走するクリストフェルは、左右に連続して奔る

 閃光を見やりながら、心の中でつぶやく

 尤も魔法を碌に避けれない状態で走り続けている姿に余裕などはなく、冷汗を

 背中に垂らす



 杖を持ったゴブリン集団に近づくにつれて、魔法攻撃は激しさを

 増してくる

 前方に左右に爆発光が走り、黒煙のような爆煙が立ち昇る

 しかし、クリストフェルは爆煙に突っ込む事を止めずひた走る

 額や頬を熱波でチリチリと焼くような感覚を感じながらも止まらない。

 パッと閃く閃光が視界の隅を横切った瞬間、クリストフェルは身体を

 大きく横に傾けると同時に 地を蹴りつけ跳躍する。

 そして、その勢いのまま空中で前転し着地した。

 眼の前には驚き戸惑っている一匹の杖持ちゴブリンが視界に

 飛び込んできた

 クリストフェルは迷うことなく、手に握っている短剣で

 横薙ぎに斬り払った

 胴を撫で斬られ、割れた腹から腸が飛び出したまま痙攣を起こすゴブリンには、

 クリストフェルは一瞥をくれただけですぐに視線を 前に向けた。

 その眼は次の敵を求めて鋭く光っているが、その口元は微かに笑っている。

 それは、まるで獲物の喉に喰らいつく瞬間を待つ獣のように獰猛なものだった

 続く2匹目の杖持ちゴブリンに標的を向けたクリストフェルは、地面を

 蹴って前進する。



 閃光が連続して迸り、轟音と共に地面が爆ぜた

 地面が弾け、爆音と衝撃波に襲われながらもクリストフェルは止まらない

 進行方向にいる2匹目の杖持ちゴブリンに間合いを詰めると袈裟懸け

 斬りを繰り出した

 その斬撃の勢いは凄まじく、杖持ちゴブリンの上半身と下半身は

 泣き別れる事になり、地面に転がった。

 続けざまクリストフェルは3匹目の杖持ちゴブリンに詰め寄ると、靴先を

 ゴブリンの頸にお見舞いした

 硬い蹴りはゴブリンの頸をへし折り、回転させながら吹き飛ばす

 周囲にいたゴブリン達へ、散らばった下顎から上の頭部が鈍い音を

 立ててぶつかる

 それを見た他の杖持ちのゴブリンは、クリストフェルへ一斉に

 敵意を剝き出しにした

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