第145話

 本能的恐怖の感情を押し殺し――フッとクリストフェルは鼻を鳴らす

 さすがのクリストフェルもこの三匹を相手にするのは骨が折れるだろうが、

 彼は『蒼玉』等級の冒険者だ

 多少誇張された表現もされることはあるが、絶望的な状況など幾度も経験している

 地面を蹴ろうとした時――

 何処からともなくハンドベルらしき音が鳴り響いた

 音のした方向に視線を向けると、そこには黄色の道士着とも呼ばれる

 法衣を纏った十代半ばの少女が、ハンドベルを片手に立っていた

 その少女は、まるで人形のように美しく可愛らしい顔立ちをしていた

「みんなが集結するまで、ボクが相手だ!」

 ――そう言いながら、魔力を込めたと思われるハンドベルをリズムよく

 鳴らし始めた

 十代半ばの少女はハインツパーティー中心メンバーの1人、カルローラだ

(ありゃあ、ハインツ大将所の・・・・何で1人なんだ?)



 クリストフェルは疑問に思いながらも、ハンドベルを鳴らし始めた

 少女から 距離を取りつつ、周囲を確認する

 カルローラの付近には、複数のゴブリンや魔物の死骸が散乱しており戦闘の

 激しさを物語っていた

(1人で複数の魔物を相手したのか?)

 クリストフェルは驚きながらそう考えるが、すぐに気を持ち直す事になる

 カルローラの背後から何かが具現化されつつあったからだ

 呑み込まれそうな鬼気迫るオーラを纏った複数の『何か』が

 実体化しつつあった

 それは『霊体』と呼ばれる召喚体で、――まるでカルローラを護るかのように

 黒いオーラをその身に纏いながら 具現化したのは前衛職や近接職系の

『霊体』だ

 剣士、騎士、重装歩兵、拳闘土、甲冑を身に纏う骸骨兵は、自然と

 カルローラを護り始め周囲の敵意ある者に襲いかかるかのように

 身構え始めた

 クリストフェルが一目見ただけでも特に剣士、騎士、拳闘土、重装歩兵の

『霊体』は、歴戦の猛者を思わせる佇まいだった



 カルローラがハンドベルを軽く鳴らした瞬間には、抜き放った劔の如く

 剣士、騎士、拳闘土、重装歩兵の『霊体』が一斉に駆け出す

 その速度はまさに疾風の如しで、立ちはだかっているそれぞれの標的

 ――ゴブリンや巨竜、未確認の魔獣へと詰め寄る

 群がってくる甲冑を着込みマントを纏ったゴブリン達を捉えていた

 剣闘士は、乱舞する様は美しく優雅な舞踏を舞うかの如く斬撃を飛ばしていき

 胴を撫で斬り割れた腹から腸が零れるように、ゴブリンは地に落ちていく

 騎士の剣技も華麗で、剣身の軌跡で骨の断ち切られる音、肉の千切れる響きが

 乱舞する様は優雅で美しく、まるで剣舞を彷彿させる

 凄まじい速度で甲冑を着込みマントを纏ったゴブリンを拳で迎え撃っているのは、

 拳闘土の霊体だろう

 その拳撃は凄まじい轟音を鳴り響かせ、一撃で甲冑ごとゴブリン達を

 粉砕する様は圧巻だ



 突っ込んできていたゴブリンの左胸に放った一打は、肋骨をまとめて

 へし折り背骨を砕き内臓を押し潰す程の威力を見せる

 拳がまるごと胸にもぐり込むほどの一撃だ

 ゴブリンの身体は吹っ飛んでいき、近くにいたゴブリンと激突する

 複数の骨がまとめて砕け、内臓が押し潰される鈍い響きと共に複数の

 ゴブリンを巻き込んで宙を舞う

 辺り一面を血煙で覆いながら、雷光の如く別のの顔面に左拳を

 打ち付けて陥没させる

 力任せにモーニングスターを振り回しては次々と叩き潰したり

 粉砕しているのは 重装歩兵の霊体だ

 巨人族と見間違う程の体躯で、鎧を身に纏っているとはとても思えないほど

 野性味に溢れており、凄まじい膂力で振り回されるモーニングスターは一振りで

 数体のゴブリンを肉塊へと変えている

 その様はまさに鬼神の如しだ



 重い一撃で、数体のゴブリンは衝撃を受け止められずに、壁に

 叩き付けられ 身体が折れ曲がるように潰される

 倒れ伏すゴブリンには、喉を踏み抜き、顎を蹴り潰し、口の中に踵を

 落として頭部を粉砕し、眼球や眼窩から血と体液が飛び出し辺り

 一面を汚していく


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