第141話

 ウルリーカと戦鎚持ちゴブリンが激突を繰り広げている場所より

 離れた所では、魔獣と闘っている1人の冒険者がいた

 その種類は、身体は獅子、頭部には獅子頭と山羊、尻尾は

 蛇の各部位が合成されたキマイラだ

 キマイラは獅子の口から炎を、山羊からは雷を放ち、蛇の尻尾で

 冒険者達を薙ぎ払う

 一撃一撃はまともに喰らえば即死しかねない威力である

 そんな状況下においても1人の冒険者は余裕の表情を

 見せながら立ち回っていた

 その冒険者は、このセレネギル大陸では珍しい『侍』職のカモサワだ

 余裕の表情を見せながら、全て見切り躱し続けている

 カモサワの装備は、大太刀と脇差だ



 キマイラは、獅子と山羊の貌に怒りの形相を浮かべ、 尻尾の蛇が

 鋭い牙を剝き出しにして威嚇している。

 カモサワはその動きは有数の実力者を彷彿させるに十分なものだった

 圧倒的な攻撃力で攻め立てるキマイラは、その獅子頭と山羊の貌を

 激しく歪ませ 火炎と雷を放ち続ける

 カモサワはその攻撃を紙一重で躱し続けながら、大太刀の

 柄に手を掛けていた

 剣術流派の一つ『戸田一刀流』は、相手の攻撃を完全に見切り

 剣で受け流す防御の技術に特化している流派だ。

 その為、超至近距離でも相手に有効な攻撃を与える事が

 可能な剣術である

 カモサワの握る大太刀の柄が、キマイラの火炎により熱くなっている

 その熱を掌から感じながらカモサワは、敵の攻撃を躱しつつ

 タイミングを見計らっていた

 そして遂にその時が来た。



 カモサワは一気に踏み込むと『戸田一刀流太刀之事』の一つ、

『絶命剱』を放った

 カモサワの振るった大太刀が、キマイラの獅子頭と山羊頭を

 斜めに一刀両断し胴体を断ち切り両断した。

 次の瞬間、体を分断された上に頭部まで飛ばされたキマイラは

 断末魔の叫びを上げながら絶命する。

 カモサワは余裕の表情を浮かべならも構えを解いていない

 その場にいた冒険者も魔物も、カモサワの強さに圧倒され

 一瞬動きを止めた

 瞬間、カモサワに何か黒い異形の物が襲いかかって来た

 反射的にカモサワは飛び退こうとした時、横合いから

 人影が割り込んでくる

 黒い異形の物は、その人影により地面に叩き落とされて

 地響きをあげて倒れ込んだ

 その異形は、豹を思わせるしなやかな肉体と暗闇に紛れる

 暗色の体毛を持ち、猫と鳥のような貌だ

 前足には巨大な刃が付いており、体長3メートルほどだ



「何だよこいつは⁉︎」

 突如、現れた魔獣に見覚えが誰一人ないため、1人の冒険者が思わず

 驚きの声を上げていた。

 しかし、そんな事を考えている暇などないほどの緊張感に冒険者達は

 苛まれていた。

「未確認の魔獣か!」

 全体の指揮をしていたヴォルフラムは表情を強張らせつつも、

 冒険者達に指示を出そうとしてはたっと止めた

 未知の魔獣は邪魔に入った人影を標的にすると、狙いを定め尻尾を回し、

 杭のような鋭く太いトゲを、標的に向かって飛ばしたのだ

 しかし、それは標的の人影にあっさりと弾かれてしまった

 未知の魔獣は苛立たしげに歯を剥き出して威嚇の声を上げた

 そして標的に向かって駆け出していくと、勢いを乗せて飛び上がる。

 その高さは5メートル以上ありそうだ

 そのまま落下して鋭い爪を振りかざしながら襲いかかるが

 人影は難なく躱す。

 驚異的なスピードと機動力だったが、人影は最小限の動きで回避した

 人影の正体は、セレネギル大陸では珍しい『忍』職のオオシマだ

 その手に握っているのは、苦無と呼ばれる投擲武器だ

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