第138話

 ヴォルフラム率いる80名の冒険者達からなる突入部隊がゴブリン砦に

 雪崩れ込むのたが、それを本来迎え撃つゴブリン達はタルコットの

 大規模魔法攻撃でお世辞にも万全とは言いがたい状態だった。

 攻撃魔法により負傷し、多少は戦力も削れたはずだか、元々の数の

 違いに加えタルコットの大規模魔法攻撃で混乱中のゴブリン達には

 対応しきれない様子だった

 突入部隊はそれぞれ40人ずつ2つのグループに分かれると、砦化した

 ゴブリン集落内に掲げられているゴブリンによる『軍旗』の奪取へ向かう



 砦内部は、数が減ったと言っても未だ数百以上に達するゴブリンや

 手懐けられた様々な魔獣や魔物が斬り込んでくる敵を迎え撃とう

 と待ち構えていた

 タルコットの大規模魔法攻撃により戦闘能力を半数も失ってはいるが

 抵抗するゴブリンや魔獣や魔物は中々手練れ揃いだ。

 その凄まじい抵抗を受け苦戦しつつも、冒険者側は 士気は下がる

 どころか逆に上がり、砦内部に潜むゴブリン達との戦闘を続ける

「足を止めるな!! 何としても『軍旗』を奪うぞ!!」

 革の上に金属の装甲をあしらった鎧を着込んだ冒険者の1人が、

 取り出した短剣で目前のゴブリンの喉を突きつつ、振り向きながら

 そう檄を飛ばした

 その背後からは短剣を振り上げて斬りかからんとするゴブリンに

 盾持ちの冒険者が体当たりをして、体勢を崩すと脳天目掛け

 剣を叩き付ける。

 身体を反らして絶命したゴブリンの身体に足を置くと、両手に

 ナイフを持った手練れの冒険者はそのまま周囲の敵に疾駆し肉薄する



 石畳一面はゴブリンや魔物らの臓腑や緑色やどす黒い液体で溢れ返り、

 足元が滑る

 錆び付いた武具や折れた剣が散乱しており、辺りはまさに地獄絵図だった

 手当たり次第にゴブリンや魔獣を葬る突入部隊の1つが、『軍旗』が

 立てられている場所まで辿り着いていた

 立てられている『軍旗』を護るが如く、筋骨隆々とした巨体で頭からは

 2本の角が伸び手に大きな槍を持った上位種のゴブリンの他に

 棍棒を構えたミノタウロス、通常よりやや大きい巨人種オーガ3匹

 8脚のゲイズハウンドというオオトカゲ型魔獣種が20匹程と

 まさに一騎当千の猛者揃いの姿があった

 そんな魔物集団に怯まず、電光石火の様に突撃した冒険者がいた

 それは虎の着ぐるみ姿のローザだ

 一瞬にして魔獣達の前まで躍り出る姿は、さながらハンティングをする

 肉食獣が獲物を見つけたようなものだった

 疾風のように魔獣達との距離をつめるローザに対して、1匹の

 ゲイズハウンドが跳躍した

 ローザに喰らい付こうと飛びかかるが、ローザは右手1本で

 ゲイズハウンドの顎を掴み上げるとそのまま持ち上げ地面に叩きつける

 その際、内臓が破裂したのか口から血を嘔吐した

 しかし絶命には到らないゲイズハウンドに止めを刺さず、跳躍した際に

 手に掴んだ 棍棒持ちオーガの頭を掴むと同時に引き降ろすことで

 首の骨を折り即死させる。

 その光景を目の当たりにしたゴブリン達は一瞬動揺したが、2本の角が

 伸び手に大きな槍を持った巨体ゴブリンが血走った眼で怒りを表すように

 大きく口を開けて威嚇するとすぐに体勢を立て直しローザに向かって

 突進する様に構えた



 巨体ゴブリンは瞬時に体勢を立て直すと手にしている巨大な

 槍を横に振るった

 凄まじい打撃音が響き渡る

 ローザはしゃがみ込んでそれを回避する前に、斧槍らしき

 武器一振りを手にしていた

 冒険者の1人が、巨体ゴブリンとローザの間に割り込み斧槍を

 盾にして一撃を防いだ

「何を見てやがる?

 このままだと美味しい所を虎の嬢ちゃん1人持っていかれちまうぞ!」

 斧槍らしき武器一振りで防いだ大柄な冒険者が凄みのある笑みを

 浮かべ挑発するようにそう言うと、斧槍を振り払う。

 大柄の冒険者は一瞬で間合いを詰めると強烈な横薙ぎの一閃を放つが、

 巨体ゴブリンは軽々とジャンプして回避する



「俺がこのデカブツの相手を務める!

 残りは頼んだぜっ!!」

 その言葉に戦鎚らしき武器を持った冒険者が応える様に、棍棒を構えた

 ミノタウロスの前まで前転するように躍り出ると、手にした戦鎚を

 大きく振りかぶってフルスイングした。

 頭部を狙った一撃は見事にヒットするが、ミノタウロスが怯む

 様子はなかった。

 ローザはその隙に一気に風の様に駆け抜けると、瞬時に

 ゲイズハウンドへと間合いを詰めていた

 虎の着ぐるみ姿のためか、それはまるで獲物を狩る

 疾風の如き速さだった

 ゲイズハウンドは威嚇する様に大きく口を開けると、唾液を

 飛び散らせながら 鋭く尖った牙を剥き出しにした。



 しかし、それに臆する事無くローザはゲイズハウンドの顔面に

 強烈な拳打を打ち込むと、 巨体のゲイズハウンドが仰け反る様に

 後方によろけた。

 しかしゲイズハウンドはすぐに体勢を立て直し、大きく跳躍すると

 ローザに飛びかかるべく身を屈めた

 しかしそこではまたも斧槍をもった冒険者が待ち受けており、下段から

 振り上げた一閃が脇腹を切り裂き鮮血が飛び散り派手に地面を転がった。

 それでもゲイズハウンドは血だらけになりながらも立ちあがろうとしたが、

 そのタイミングを合わせた様にローザが薙ぎ蹴りを繰り出すと、

 ゲイズハウンドは地面を滑る様に大きく吹き飛ぶと転がっていき壁に

 激突し動かなくなる。

 そこから1人の大柄な冒険者が躍り出ると手にした戦鎚をミノタウロスの

 頭上に振り下ろした直撃と同時に激しい火花が飛び散り

 轟音と共に石畳に亀裂が入る程の凄まじい一撃だった

 それでもミノタウロスはまだ絶命してはいなかったらしく、巨体を

 生かし振り上げた棍棒を振り下ろす。

 しかし狙いが定まらないのか無茶苦茶な動きだ。



 そこに鴉を模したであろう外套を纏っている女冒険者――アトリーサが長柄の

 鋸鉈で斬りかかっていた

 鋸鉈の一撃が標的のミノタウロスの肉を裂き、致命傷を与えている。

 アトリーサが振り下ろした鋸鉈の一撃をミノタウロスは咄嗟に

 棍棒で防ごうとした

 しかし武器と武器が接触すると同時に激しい火花が飛び散り、衝撃音が

 鳴り響く

 そんな様子を間近で見ていた冒険者達の間で議論になる事がある

『俺はあの闘いはじゃれられて戯れている様に見えたのだが、お前はどう思う?』

 仲間に訊ねる

『俺には命と誇りをかけた死闘に思えたんだがな』

 仲間に問われて答える冒険者

 どちらの意見が正しいかは、当人達にしかわからないだろう



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