第137話

 その次は地面に拳を幾度も鬼気迫る勢いで地面に拳を激しく叩きつける

 その姿は狂人そのもので、正気を疑う行為であった

 一通り終えれば、表情を鬼の様に歪んだ凶相でゆらりと立ち上がると、足を

 交互に滑らし前に歩いているように見せながら後ろに滑る

 その場で全身を使い回ったり跳ねたり、また地面に背中や肩をつけて回る

 その奇妙な奇行は、さながら曲芸師のような軽やかなものだ

 奇怪行為を終えると同時に、まるで重力を無視するかのようにタルコットは

 一瞬フワッと身体を地面から浮き上がらせる

 それと同時に、タルコットを取り囲む様に無数の水晶玉ぐらいの

 大きな炎の塊が出現した



 周囲を明るく照らし出した 炎の明かりによってタルコットの顔と身体には、

 大量の赤い鮮血がこびり付いている事が否応なし分かる

 それはもちろん返り血ではなく、タルコット自身の血液だ

 大きな炎の塊はすぐに消え去ると、浮いていたタルコットも地面に

 ゆっくりと降り立った

「まほうはつどぅさせましたぁ――――――」

 タルコットが掠れた声で告げ終えると、ゴブリン砦周囲に無数の

 大型火球が降り注いだ

 あまりにも衝撃的な行動と鬼気迫る様子に、ゴブリン砦攻防に

 立ち向かうハイツ中心メンバーを覗いだ冒険者達とヴォルフラム、

 そして『サブ・ギルドマスター』アルヴィンはさすがに

 背筋が凍る思いをした

 だが、それ以上に衝撃が勝ったのは、タルコットの大規模魔法攻撃の

 精度の高さと規模の大きさだった

 冒険者達とヴォルフラム、『サブ・ギルドマスター』アルヴィンは

 ただ驚きを隠せなかった

 本来なら堅牢な砦化したゴブリン集落を殲滅するには、戦力を削ってから

 砦内部に侵入し、ゴブリン達を各個撃破して掃討しなければいけない


 しかし、タルコットはたった1人でゴブリン勢力を半減させてしまったのだ

『ヴォルフラム様、おいらの魔法でなら砦にいるゴブリンの群れを

 一掃できるかもしれません!』

 そう提案をヴォルフラムにしたのは、タルコットだった

 それに焦ったのは何を隠そうハインツとカーリンの

 古株コンビだ

 いくらなんでも『あの狂気染みた詠唱』は、目撃する者によれば精神に

 深い爪痕を残させるほどショックが大きい

 現にタルコットが新加入した時の古株メンバーの1人は、冒険者を辞めて

 故郷に帰っている

 幸いと言うべきかそれからの新メンバーは精神が強靭なのかどうかわからないが、

 タルコットの詠唱方法を受け入れており、全幅の信用を置いていた

『確かにタルコットちゃんの魔法なら、かなりの時間を短縮でますよ!』

 全幅の信用を置いているメンバーの1人カルローラがそう答えた時は、ハインツと

 カーリンの古株コンビは内心『この娘っ子は何言ってやがる!?』と思った



 その後は、進言し止める時間も無く、『あの狂気染みた詠唱』が始まったのだ

 衝撃的な光景から先に立ち直ったのは、ヴォルフラムだった

「冒険者諸君!!! 今こそ好機ぞ!

 ゴブリン相手に情けは無用! 斬り、刺し、打ち捨てにして進め!!」

 ヴォルフラムが剣を抜きながら高らかに宣言する

『おおおぉぉーっ!!』

 冒険者達は我に返ったように 一斉に雄叫びを上げ、ゴブリン達の砦に

 向かって駆け出していった

 一方ハインツとカーリンは顔面蒼白となり、その場に立ち

 尽くすだけだった

 その他にいるのは『回復土』のテレンスが、タルコットに

 治癒魔法をかけていた

「・・・何でそう簡単に受けいられた様に動けているんだ?」

 ハインツは絞り出すように言った

「・・・わからん・・・俺は少なくともアレが普通だとは思わん」

 その声に反応するように、カーリンに至っては顔面を蒼白のまま

 硬直させたまま応えた

「腕に覚えがある冒険者程、状況の切り替えが早いのさ

 しかし、初めてタルコットの『詠唱行動』を眼の当たりしたが・・・」

 そう言ってきたのは、『サブ・ギルドマスター』アルヴィンだった

 いつの間にか2人の傍に来ていたらしい

「・・・・」

 その言葉にハインツは眉を寄せて、危うく『そういうレベルじゃないだろう』と

 言いかけたがぐっと堪えた

 アルヴィンの言葉が、何か含みを持っているような気がしたからだ

 砦化した集落の内部と外には多数ゴブリンが存在していたおり、タルコットの

 大規模魔法攻撃がなければ通常通りの時間と労力が必要だったはずだ

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