第134話


「中央にいた時、大陸各地域からゴブリンの大群の影響で幾度も国境戦が

 起きていると聞いたことがあります

 ロージアンが傾けば、間違いなくご領主様の外交により微妙に

 たもたれていた秩序で安定しているこの辺境地域で、最悪

 都市国家群や弱小国家群で大規模戦争が起こる可能性すら・・・」

『ギルドマスター』エンゲルベルトが話に割って入る

 表情は真剣そのもので、やや険しい。



 エンゲルベルトは、『ギルドマスター』としての立場で発言したが、

 それは彼の本心でもあるのだろう

(これが辺境では普通なのか? 他だともっとこう・・・なんというか・・・)

 ハインツはその様子を見て、少し戸惑った

 冒険者稼業を続けていれば、短くても長くても『冒険者ギルド』と領主での

 やり取りは何度か経験したことがある

 だが、領主や騎士達とこんなにも親しげに話す冒険者を見たことは

 なかったのだ

 しかも、領主とギルドマスターはお互いに信頼し合っているのが傍から

 見ていても分かった



「それに10日以上時間をかける訳にも・・・仮に一カ月半も

 かけて気長にすれば降りしきる雪の季節まで縺れ込み、

 視界が悪くなり砦への侵入が困難になるだけでなく、寒さと

 積雪によって著しく行動が低下する可能性があります

 今の季節はまだ出没はしていませんが、雪の季節には

 その季節にしか出現しない魔物や魔獣が活発になります」

 ベイセルが外見は十代前後の子供外見とは裏腹な落ち着いた声音で、

 ギルベルトに説明をする


(確かベイゼルは、カルローラとヴァレーアより二つ年下だとか言ってたが・・・

 本当に年下か?)

 ハインツは、ベイセルに視線を向けつつ内心で呟く

 明らかに子供という体格なのに、ご領主とご子息、そして『ギルドマスター』と

『サブ・ギルドマスター』に不満の態度はまったくなく、

 一挙一動を好意的に受け入れており、全面的な信頼を

 預けているのが分かる

 それはこの2週間首都に滞在を共にしていたハインツですら、初めて

 見る光景があった

 ベイセルについて不満の態度持つ領民の姿が無かったことだ

 何処か優れていれば子供内でも公然と煙たがり、大人の前でも

 露骨に貶す

 だが、それが無くベイセルを信頼し慕っているのが誰の

 目からも明らかだった

 さらに言えば、老若男女問わず何か些細な事で相談をベイセルが

 首都に滞在中に受けていた

 ベイセルは嫌な貌一つせず、真摯に対応し適切なアドバイスをしていて

 しかもその全てが的確で理に適っていた

 知識の豊富さと的確さには、さすがにハインツは舌を巻いた

『サブ・ギルドマスター』アルヴィンやギルド職員のクロエが相談に

 持ちかけてくると、『そうやって俺をギルド職員に勧誘するため

 外堀を埋めていくつもりか』と笑いながら軽口を叩いてもいたのだ

 少なくともこの様な光景は、ここ辺境だけなのかもしれない


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