第132話
夕刻、言葉通りアルヴィンはハインツとベイゼルを連れて
『冒険者ギルドと地域住民合同訓練』の拠点となる野営天幕から
約1キロほど離れた場所に居ついているゴブリン集落へ
偵察に向かっていた
ぬかるんだ悪路に不慣れなハインツだけは遅れていたが、アルヴィンとベイセルは
慣れているためかそれほど時間はかからなかった
少ない人数でなおかつ夜間に出向いたのは、ゴブリン集落周辺には
至る所にゴブリンが小隊単位に分かれて巡回しているからである
その為、大勢で向かえばゴブリン達の目につく
恐れがあったからだ
ゴブリン達は気配に敏感だ
このため、アルヴィン達は慎重に慎重を重ねて移動していた
ベイセルが先導するように前方を歩き、アルヴィンが周囲を
警戒しつつ後ろからついてくる
ハインツはショートソードを片手に周囲を警戒しつつ、ゆっくりとした
足取りで二人についてきていた
「正直俺の気分としちゃあ、あんまゴブリン集落を叩くとかそういう
気分じゃない
あの砦化した様子を見ていると余計にな」
アルヴィンがベイセルに近寄り、小声で話しかける
「何言ってるんだよ・・・
集落を砦化させるまでになったゴブリンの群れを放置したのはギルド側じゃんか」
ベイセルも声を潜めて、同じく小声で返答した
「それは冒険者が居ないからとちびっこ先生が引き籠って
首都に来なかったからだと、言っているだろ?
・・・今回からロージアンが初めての冒険者が『冒険者ギルドと地域住民合同訓練』に参加することになるが、はたして上手く行くかな?」
アルヴィンは貌を少し歪めて歪め溜め息をつくが、その瞳には
隠し切れない闘志が宿っていた
ベイセルはその様子に、子供ながらも苦笑を浮かべて肩をすくめる
ハインツが二人のやり取りを見て少し首を傾げた
まるでその様子が、辺境の子供と『冒険者ギルド』の『サブ・ギルドマスター』との様子ではなく、歴戦の戦士同士がお互いを
理解しているといった風であったからだ
日が沈みかけた頃、アルヴィン達はゴブリンの集団拠点へと到着した
「ほら見ろ・・
ゴブリンの集落は思っていた以上に頑強そうな砦までに成長してんじゃん」
ベイセルが貌をしかめながら、舌打ちをする
そこには石や木などで造られた、堅牢な造りの砦が出来上がっていた
高さは2メートル程で、入口には木製の扉が設置してある
壁際には木の柵が立てられており、周辺一帯に焚かれた火が
周囲を照らしており、多数の天幕が張られていた
砦内からは、騒がしい声や金属がぶつかり合う音が響いてくる
ハインツはその様子を見て、呆然と立ち尽くす
「こいつは、さらに念入りに構築したみたいだな」
アルヴィンは腕を組みつつ呟く
「何他人事みたいに言ってんだよ・・・
これ見た限りだと『軍旗』が二つほどあるじゃないか」
ベイセルは頭を掻きむしり、苛立ったように呟く
「 『軍旗』? 」
ゴブリンが構築した堅牢な砦を見て、衝撃を受けていた
ハインツが聞き返す
「ハインツの兄ちゃん達にレクチャーした時に、ロージアンは肥沃な
大地て言ったよな?
その恩恵で他の地域のゴブリンとは違ってかなり攻撃性と集団戦に
優れてるんだよ
その一つが、この地域のゴブリンは集落に国の国旗に準じる騎士団や
傭兵団の象徴である旗印を立てるんだ」
ベイセルは、ハインツに向かって語りかける
「そしてその『軍旗』は、騎士団や傭兵団の様にゴブリンにも
団結や錬度が強化され、士気の水準を高める効果がある
この堅牢なゴブリン砦を叩くには、『軍旗』を潰さないとダメなのさ
いずれにせよ、さすがにこんな堅固な砦を3人だけで落とせる訳はないから、
ここは撤退だ」
アルヴィンは堅牢なゴブリン砦に視線を向けつつ、ハインツとベイセルに告げる
その声色は冷静沈着そのもので、いつもの飄々した
態度ではなかった
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