第20話

「よくまぁ、あれで新人冒険者だとギルドが紹介したな」

 カーリンが、呆れたような口調でハインツに話しかけてきた

「ギルドが新人と言うんだ それ以上詮索はできない」

 それに対してハインツは肩をすくめ、応えた

 迷宮内の探索も終わり、今はキャンプをして休息をとっている

 テントの中では夕食の準備が始まり、その傍らでオオシマが簡易のかまどを作り薪を積みあげていた

「その新人の1人・・・カモサワの『侍』職の戦闘力は何なんだ?」

 カーリンは畏怖と尊敬を込めた声で呟いた


「俺に聞かれてもなぁ・・」

 先程の戦闘を思い浮かべながら応えつつ、それはハインツも同感だった

 カーリンもハインツも聞いた事もない『侍』職の強さは、予想を超える

 実力を持った別格職だった

 カモサワから簡単な説明では、彼が扱う武器は『大太刀』と呼ばれる

 種類らしく刃渡りが一メートル半近くもある、この世界に存在する

 刀剣類の中でも有数の長さを誇る武器だった

 それを軽々と使いこなし、まるで重さを感じさせない斬撃の嵐を繰り出し、

 またその攻撃の合間には刀による突き技も披露してみせた

 まるで舞のような美しい剣捌きにカーリンとハインツを含めた

 パーティメンバーは、見事に圧倒された

 一呼吸をおいて、カモサワが一歩踏み出し『大太刀』を振り上げれば

 襲い掛かる魔物は一撃で両断された

 地面や壁を穿つほどの威力の攻撃を 連発する様は正に無双状態だ

 他の冒険者が見たら、間違いなくカモサワを新人とは決して思わないだろう

 不意に現れた大型の牙獣種と角竜種の魔物相手でも、その格の違いを知らしめるように圧倒的な強さを見せつけた

 カーリンとハインツの二人は、カモサワの戦う姿を見ながら同時に

 同じ事を思った

『―――これの何処か駆け出しの新人冒険者だ?』・・・と



「カモサワと同じ滅んだ小国出身者のオオシマもだ

 西のペリアーレ大陸の連中は全員があんな技量が高いのか、それとも滅んだ

 小国の民が特別なだけなのか」

 カーリンがそう言うと、ハインツは考え込む

 オオシマの体捌きと戦闘技術は、カーリンとハインツは戦慄と恐怖を感じる

 程の次元であった

 気配も足音も立てずに、標的の魔物に風の様に接近したかと思えば

 瞬殺だ

 さらに驚く事に、戦闘が終わればまるで何事も無かったかのように、

 周囲の警戒を始め、その動きに一切の無駄が無い

 だが、一番驚くべき事はその卓越した戦闘能力とは裏腹に

 オオシマは人当たりは良く、パーティに馴染む様に話していた


 その態度は、熟練の冒険者と何ら変わらない振る舞いで、その点に関しても

 カーリンもハインツも驚いた

 オオシマが扱う武器は、本人からの説明では『苦無』と呼ばれる

 暗器の一種らしい

 手裏剣よりも小さいサイズだが投擲武器ではなく、どちらかと言えば

 接近戦での格闘や投げて使用する事が多いそうだ

 そんな戦い方をすれば、敵と接触する際に危険ではないか?と尋ねたが、それも

 問題無いと言われた

 オオシマは、『素手で仕留める事が前提の戦闘職なので、あまり刃物に頼る事はありません』と言っていた

 確かにオオシマの武器の扱いは、まさにプロの仕事と言えるものでとても

 素人には見えない

 ハインツの知る限りその様な仕事は、暗殺者などに代表される特殊な

 職業の人間が行う物だ


 中堅冒険者以上さえ出来るだけ避ける魔法生物種のゴーレムを素手で、オオシマは

 一瞬で解体して見せた

 その時に、ハインツとカーリンは思い知った

 オオシマの使う武術は、長い年月をかけて体系づけられた一つの完成された、

 近接戦闘職に特化した独特の技法であると・・・

 恐らく荒れ狂う戦いの中で武を磨き続け、殺しの技を極めつくして

 生まれた武術だと推測した

「後者だな・・・『侍』も『忍』という職は聞いた事がない

 恐らく滅んだ出身国の固有の職だろうな あの技は、並みの武芸者や戦士が

 簡単に扱える代物じゃない」

 ハインツが応える



 オオシマとカモサワが見せた動きに心奪われたかのように、戦闘後はローザ、カルローサ、タルコット、アトリーサ、 テレンス、

 同じく新加入したウルリーカとヴァレーアは怯えるどころか、尊敬とも憧れともいえる感情で話しかけていた

 カモサワとオオシマは、元々人付き合いが良いのか面倒がる事もなく皆の話を聞き、質問にも答えていた

 そんな中でローザとタルコット、そして同じく新加入したウルリーカとヴァレーアが特に興味深そうに聞いていたのが印象だった

「同じく新しく入れたウルリーカもだ

 オオシマとカモサワの双璧をなす技量なことはまず間違いないんだが、本当に新人冒険者の『騎士』職なのか?

 その職の上級職とかじゃないのか?」

 カーリンは複雑な表情を浮かべ首を傾げつつ尋ねる


「 『騎士』職の上となれば、秩序と社会の守護者の『君主』職だぞ?

 そんな職なのは相当才能に恵まれた貴族か王族くらいなものさ まして冒険者になんて普通ならないからな」

 その問いにハインツも複雑な表情を浮かべつつ応えた

 新加入したウルリーカについても、その戦闘技術は常識の範疇を超えていた

 更にその装備して身に着けている純白のドレスアーマーで下半身がスカートタイプの鎧と身長の倍はありそうなやや大きめの剣を見れば、彼女が

 裕福な家の生まれであろう事が解った

 鎧も剣もどれ一つ取っても魔法の品々で、それが格段に性能が高い物だ

 そんな武具を扱うウルリーカは、戦闘時はまるで歴戦の勇者のような

 風格を漂わせていた

 大きめの剣は、明らかに高度な魔法具でもあるようだった

 ウルリーカの常人離れした戦闘能力も相まってか、一振りの斬撃で周囲の

 魔物を吹き払い斬り裂く姿は圧巻で、その戦闘力の高さは

 まさに規格外だと言わざるを得ないものだった



 ウルリーカの剣の一撃は衝撃波を生みその威力は魔獣種の大型キメラすら

 打ち倒す程だった

 また、飛竜種と牙獣種の大群に不意打ちを受けそうになったが、ウルリーカの

 全身から放たれた空気を震わせるほどの威圧で大群たちを

 硬直させるほどだった


 雪のように白く輝き腰まで伸ばした白髪と、驚くほど整っている貌に

 どこか冷たい光の瞳で見据えられただけで動けなくなったのだ

 ウルリーカが前衛に居れば、どんな敵からも守ってくれるような

 自然と安心感をカーリンとハインツは覚えた

 ギルドの紹介では冒険者登録してからまだ日が浅い新人らしいが、身のこなしや

 佇まいは、熟練の冒険者よりも遥かに場慣れしているように感じさせた



 また魔物の大群を空気を震わせるほどの威圧で硬直させるとなれば、少なくとも

『騎士』職というレベルではない事は確かである

 間違いなく最上位に位置の『君主』職だ

「容姿を見る限りでは北国出身っぽいが・・・北方近辺は幾つもの

 中小国群や小領主などが集まってできた連合国家があるからな

 その中の誰かの子供って線も有るかもしれない」

 カーリンは顎に手を当てながら呟いた

 この大陸の北国は様々な中小国家が乱立する地域であり、絶妙な力関係により

 時には争い時には同盟を組み合いながらも共存共栄し合っていた

 そのためか各国間の情報交換なども盛んであり、そのおかげで国同士の仲は比較的良好で戦争なども滅多に起きていない



 それ故に北国の人間は比較的平和ボケをしている事が多い地域でもある

 だが、一部地域の中小国家群領土の大半には数多の魔獣が棲む広大な原野が広がっており、それらを開拓して生存圏を広げようと試みている地域もある

 そのような地域は大国の庇護下に無いために、日々多くの犠牲者を出し続けている

 周辺からは田舎呼ばわりされ、魔獣の襲撃に開拓村を奪われつつも、彼らは諦めることなく土地を切り開くため闘い続けている

 そんな北国辺境の地では、英雄と呼ばれ尊敬される冒険者たちも数多く存在し、

 魔獣が棲む広大な原野各地を転戦している

「北国近辺の中小国家群を全て把握なんかできるか・・・

 まあ、詮索はこれ以上はよそう

 何かしらギルドが知っているとは思うが、応えてくれるはずがないしな」

 カーリンはハインツの言葉に小さく肩をすくめた



「では、もう一人の『運搬人』のヴァレーアについても知っていると?

『空間収納』保持者以外に、何か知っているんじゃないのか・・・戦闘技術も

 判断力もあの新入り達よりも上だと思うがな」

 カーリンはハインツの目をジッと見つめる

 ハインツは僅かに視線を逸らしつつ、夕食の準備をしているヴァレーアを見た

 彼女は手際よく調理を進めており、鼻歌を歌いながら野菜を刻んでいる。

 その動きは淀みなく、まるで何年も前からその動作に慣れているような

 熟練の風格すら漂わせていた

 ハインツは口元を軽く手で押さえて少し考え込む

「確かになぁ・・・あとあの『空間収納』もだ

 ヴァレーアにそれとなく、どのくらい収納できるんだと聞いたんだが・・・」

 ハインツは頭をポリポリと掻いて言葉を濁す ハインツには珍しく歯切れの

 悪い言葉だ

「何だ? それほど収納は出来ないのか」

 カーリンが怪しむように眉を寄せつつ尋ねる

「あー・・・『大型船を四隻以上収納出来る』って答えが返ってきた」

 ハインツの答えにカーリンは大きく目を見開いた

 大型船といえば、中型の帆船とは違い帆が4枚もあり、その巨大さゆえに

 航行速度も遅く積載量も段違いに大きいものだ

 それが複数、しかも収納可能だと言うのだから驚愕してしまう

 普通なら冗談だと笑い飛ばすところだが、ハインツが嘘をつく理由も無いだろう

 もし事実ならばハインツ達のパーティに加入した『運搬人』のヴァレーアは、間違いなく最上位に位置する『運搬人』だ


「マジか・・・ギルドはそれ把握しているんだろうな?

 一応、冒険者同士の問題になるから確認しておいた方が良いんじゃないか?」

 カーリンはハインツに確認するように尋ねる

「そこまで把握しているとは思えない・・・仮に把握していたとしても、

 その事を口に出すことはないだろう?

 もしくは彼女の薬学や素材知識に関する優れた才能の方に眼がいって、

『空間収納』については気にも留めていない可能性だってある

 まだ短い付き合いだが、それでもこの迷宮探索で俺達が知る限りの

 最高品質の素材や解毒薬と回復薬の材料となる薬草類が、どこからか

 ともなく彼女によって採取され集められているんだぞ」

 ハインツは肩をすくめて首を横に振った

 今回の迷宮探索は、新加入したメンバーと現メンバーとの実力と技量の確認と、連携の強化が目的となっていた



 迷宮や魔境などの探索で、戦闘時の連携は生死を分けるほど重要な要素だ

 そのため新加入の4人とハインツ達はお互いの戦闘スタイルや戦術などを打ち合わせしながら、実際に迷宮内の魔物や魔獣と戦闘を重ねていた

 初めはのうちは何処かぎこちない所はあったが、数回も戦闘を繰り返せばまるで長年一緒にいるかのような一体感があった

 ハインツとカーリンが経験した迷宮や魔境などは、常に緊張状態を維持しなければ

 命を落としかねない場所であった

 それゆえにこの短時間の間に仲間同士で信頼関係を築くことは、困難だった

 それが、新加入したメンバーと現メンバーはわすが短時間で戦闘や会話による

 意思疎通が取れるようになっていた

 さらに『運搬人』ヴァレーアのサポートで迷宮探索の負担をかなり軽減されていた

 特にヴァレーアは地下迷宮移動中に武具や道具の材料や薬草類を収集し、ハインツ達に渡してくれている


 そして、そのどれもが最上質のものばかりだ

 ヴァレーア曰く、

『アトリーサさんやオオシマさん、そしてカルローラちゃんの索敵のおかげで、

 安全なルートを確保して迷宮内を移動できます。

 それに私はただ運んでいるだけですので』と言っていた

 その証拠に迷宮内で、幾つかの未発見の隠し部屋や武具や道具の

 材料などをヴァレーアが発見したからだ

 カルローラは

『ボクはマッピングと罠探知だけで、あとの解除はアトリーサさんと

 オオシマさんがやっています。

 本当に凄いのはアトリーサさんとオオシマさんです!

 アトリーサさんの不思議な罠設法、オオシマさんの想像もできない『忍』という

 特殊な職。この二つがあってこそなんです!』

 と興奮気味に話してくれた



 オオシマとアトリーサは自分の事は余り語りたがらない性格なようで、大げさに

 自慢するような事はなかった

 ただ、オオシマとアトリーサはそれぞれの技術に興味を惹かれたのか、何かと

 話を聞きに行っているようだ

 ヴァレーアもそれぞれに質問されたら、嫌な顔一つせずに丁寧に答えている

 ようだった

 このパーティの斥候と罠解除は、アトリーサとオオシマの常識外れの技能の

 恩恵で安全だった

 その恩恵を受けているヴァレーアとカルローラは、二人の技術を熱心に学んでいた

 ハインツとカーリンは、ただ引きつるような表情を浮かべてお互いの

 貌を見合わせるだけだった

(本当に新人冒険者なのか?)

 ハインツとカーリンは、思ったのは同じだった


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る