第19話
・・・翌々日、ハインツはパーティ人員募集に関しての呼び出しを
『冒険者ギルド』の受付嬢掛けられ、ハインツは応接室へと向かった
ハインツは『よくまぁ、これほど早く見つかるな・・・さすがにそう何度も
規則外の新人は押し付けられんないだろ・・』と思っていた
が、またしても案内をする受付嬢が微妙な表情を浮かべていた
ハインツは『んな馬鹿な』と思いつつ、受付嬢の案内に従い、見慣れつつある
応接室へと向かった
ハインツが室内に入ると既に四人の人物が待っていた
一人目は北国の出身なのか白い肌をした長身の女性であり、その腰まで
伸ばした白髪は雪のように白く輝き、その貌は驚くほど整っていた
美しい女性だが瞳にはどこか冷たい光があった
服装は上半身の胸元が大きく開いた純白のドレスアーマーで、下半身が
スカートタイプの鎧を身に着けていた
また、その手には身長の倍はありそうなやや大きめの
剣が握られていた
一目観察しただけでも、白い肌をした長身の女性は歴戦の
猛者である事がハインツには分かった
二人目と三人目は共に男性で、四人目は女性だ
まず二人目の男性は二メートル近い長躯だ
この近辺では珍しい動きやすさを重視した革製の防具軽装を着け、黒髪で
黒い瞳の精強な雰囲気の男性だ
年齢は20代後半だろうか?
ハインツの所感としては前衛職を思わせた
武器もこの近辺では、あまり見慣れない湾刀と呼ばれる
片刃の剣が鞘に収まっていた
だが、それは戦闘に用いるにはあまりに長すぎる気がした
しかし、どうやら鞘に収められていて柄を握っていないため分からなかったが、
腰に差しているのではなく背中に背負っているようであった
見る限りかなりの業物の様だ
ハインツはある事に気づいた瞬間、背筋が凍る思いがした
それは彼の装備が、まるで今すぐにでも戦場へ赴けるかのような
普通の衣服にしか見えなかったからだ
故に、ハインツは得体の知れない不気味さを感じた
三人目の男性も黒髪で黒い瞳だ
顔立ちが整っており、かなり美形と言える容姿で年齢は恐らく
20代の後半~30代半・・・
少し細身で身長は低く表情は表情は穏やかで、戦士や拳闘士という
前衛より盗賊や斥候といった役割を思わせた
武器は何も持っていないように見えた
またその身体つきは冒険者とは思えないほど線が細く華奢な体格で、
動きやすさや機能性を高めた黒い衣服を纏っていた
その雰囲気からは何よりも油断ならないと思わせる・・・
まるで数々の戦功を上げた百戦錬磨の勇士のような風格があった
最後にハインツは女性の方を向いた
女性は金髪をショートカットにした少女だった
年齢は10歳前後だろうか?
一見すると子供のように見えるが、しかしその佇まいから只者では
無い事をハインツは感じ取っていた
まるで経験を積んだベテラン冒険者を彷彿させる
彼女は腰に剣を差しているが、それより気になるのは床に
下ろしている見た目通りの子供が持てるような重さではなさそうな、
登山用の大きなバックパックだ
服装は袖なしの上着にズボン 靴はサンダルのような
履物を履いている
また両手には指が出る手袋をつけていた
そして何故か、腰に付けているベルトに何本もの小瓶を下げていた
そして最も印象的なのはその幼い外見とは裏腹に、その表情からは
確かな知性を感じさせた
「・・・」
ハインツは何か言いたそうな表情で、受付嬢に視線を向けつつ席に着いた
「・・・・皆さんは冒険者登録したばかりの新人ですよ」
受付嬢は淡々とした口調で言った
ハインツは『んな馬鹿な』と内心思うが、そんな事はおくびにも出さず
受付嬢の言葉に納得したかのように相槌を打った
受付嬢は、この場にいる者達全員を見渡して確認をするように言う
それは彼等の身分を保証するものだった
「・・・皆さん全員が?」
ハインツは戸惑ったような声を上げつつ問いかけた
「『騎士』のウルリーカです」
最初に声を出したのは、白い肌をした長身の女性だ
彼女の言葉は丁寧だった
どこか拒絶するような冷たさがあるかもと、ハインツは身構えていたが
その口調は柔らかなものであった
『騎士』職と応えていたが、ハインツは見た眼の装備と大きめの剣の武器を見て
普通の『騎士』職ではなくさらに上級職なのではないかと感じた
「 『侍』のカモサワです
冒険者登録をしたばかりの若輩者なので至らぬ点もあるかと思いますが
よろしくお願いします 」
次に名乗り出たのは黒髪で黒い瞳の男性だ
こちらも穏やかな声で、優しそうな印象だった
だが、同時に強い意志を感じさせる声音でもあった
自己紹介が終わると、彼は軽く頭を下げた
ハインツは、自己紹介を聞くと『『侍』という職は聞いたことないんだが』と
疑問に思った
「 『忍』のオオシマです 冒険者として右も左も分からない未熟者ですが、
どうか宜しくお願い致します 」
ハインツの困惑を他所に、2人目の黒髪で黒い瞳の男性が落ち着いた様子で
名乗り、軽く頭を下げた
オオシマと名乗った男性の職も、ハインツは聞いた事のないモノだった
恐らく特別な職なのだろうと思ったが、この世界において自分の知らない
職種があるという事にハインツは多少なりとも衝撃を受けた
また、オオシマとカモサワの黒髪と黒い瞳がこの近辺では
見かけない人種であり、その容姿がこの近辺の人族ではない事も
理解できた
恐らく他国の出身者なのだろうと、ハインツは推測する
そして他の国には、そういった外見をしている種族がいるのか?
という疑問に辿り着いた
だが、それは些細な問題だと割り切り、思考を切り上げた
なぜなら、今はそれよりも気になる事があるからだ
オオシマとカモサワが、新人冒険者にしては妙な雰囲気をまとっている事が
気にかかったからだ
それは、傭兵あるいは兵士といった類いの雰囲気である
それこそ、まるで戦場を駆け抜けた猛者の如き存在感があったからだ
「こちらの2人は容姿から察しられる通り、この近隣国出身ではありません
西のペリアーレ大陸の、とある小国の出身になります
しかし、その国は先の戦争で滅んでしまいました
現在は難民として各地を放浪している身です 」
ハインツが考え込んでいる事に気づいた受付嬢が、代わりに彼等の
事情を説明した
それを聞いて、ハインツは少し驚いて納得した・・・いや、
無理に納得する事にした
自分がいる大陸でも隅々まで知っているはずもなく、まして西の
ペリアーレ大陸の事まで知っているわけがないからだ
そもそもこの国の情勢でさえ、ハインツはよく分かっていない
オオシマとカモサワについても、冒険者の暗黙ルールで余計な
詮索はしない事にした
もちろん、それは最初に口を開いた『騎士』のウルリーカについてもだ
「あ、『運搬人』のヴァレーアです
宜しくお願いします 」
最後に自己紹介をしたのは金髪をショートカットにした少女だ
『運搬人』の職は珍しくはなく、迷宮や魔境に挑む冒険者パーティーには
荷物持ち職は必須だ
特に迷宮の場合、食料や野営道具、武具等の物資は必須だ
その仕事内容は多岐にわたり、迷宮で手に入れた宝物や採取物を
運ぶ者もいれば、迷宮内で見つけた遺物や薬草を持ち帰る者もいる
つまり、彼女のように戦闘に参加する事もあるのだ
そんなありふれた役割の職の彼女の自己紹介だが、ハインツは
彼女のベテラン冒険者を彷彿させる佇まいと登山用の大きな
バックパックが引っかかった
とはいえ彼女が嘘をついている可能性は低い
受付嬢の言葉を信じれば、何せここにいる冒険者は全員が
登録をしたばかりなのだ
「・・・・彼女は珍しい『空間収納』保持者です
容量もかなり大きいですよ 」
受付嬢が、ハインツの心を読んだかのように補足した
この世界の魔法には空間に作用する術はない
故に、魔法の袋や鞄は存在するが、空間の捻じれを利用して空間を
拡張する技術は存在しない
なので空間収納を使える人物というのは極めて貴重な存在であり、しかも
容量が大きいという事は相当な実力者に 違いない
それが『運搬人』職で『空間収納』保持者となれば希少者だ
受付嬢の補足を聞いて、思わずさすがに『何処か新人冒険者だ!?』と
叫びそうになったが、何とかこらえた
ハインツは、内心の動揺を隠して平静を保つ
今回の仲介された新人冒険者も、明らかにギャップが違いすぎた
ハインツは何か言いたそうな視線を受付嬢に向けたが、当の本人は
苦笑いを浮かべるだけだ
受付嬢の無言の回答を受けハインツはため息をつく
いろいろと質問したい事は山ほどあるが、冒険者には暗黙の了解として
詮索してはいけない部分がある
ハインツは気になりつつも、今後の事を見据えつつ四人を仲間に
加えることに決めた
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