第21話
ハインツ一行がキャンプをして休息をとっている頃、何かしら知っている
と思われる「冒険者ギルド」のギルドマスターの部屋では
ウルリーカ ヴァレーア カモサワ オオシマをそれぞれ担当した教官から、
前回以上に理解できない内容の報告書にギルドマスターが信じられない
表情を浮かべていた
「この報告書を信じるのであれば、大変な資質を秘めている人材ね」
『ギルドマスター』の彼女は、報告書を全て読み終えるのに三十分を要したが、
時間の感覚など無くなっていた
それは彼女の目の前にいる秘書も同じらしく、書類の束を片付けていた
そしてようやく終わったようで、大きな溜息を吐いていた
「 『侍』 『忍』という職について、ペリアーレ大陸の『冒険者ギルド総本部』に証明依頼をしましたが・・・」
秘書は一礼すると素早く資料を『ギルドマスター』の
彼女の前に持ってきた
『ギルドマスター』の彼女がその資料を手に取り眼を通すと、貪る様に
読み続ける
「総論すれば『侍』と『忍』という職は、ペリアーレ大陸の西方に
位置する国々で主君に仕える役職のようね
しかし、それらの職に就くためには厳しい条件が存在するらしいわ
まずは、その職に関する十分な知識と技能を有すること、そして
人格的に優れており主君からの信頼を得る必要があるみたい
その信頼を得た者のみが就く事ができる職なのね
ただし必ずしも主君に忠誠を誓う必要はなく、場合によっては
裏切る事もあるとか・・・」
『ギルドマスター』の彼女はそう告げる
「それは『騎士』や、他国の上級騎士の事も言えますよね?」
秘書はそう口にした その言葉は正しいのだが、問題は彼らがその職に
就いたとしても、主人のために尽くすのかどうかという事である
仮に仕え主を変えた場合でも、新たな主君に忠誠を尽くしてくれるのか
それとも、今まで仕えてきた主君への義理や恩情を優先して裏切り、
新たに仕えた主君の配下になる事を良しとするのか・・・
それが問題だった
「この証明書類によれば、まだ詳しくは判明していないけれど、どうも仕え
主に絶対の忠誠を誓い、忠義に厚く、忠誠心が篤い者が就ける職業みたいなの
この職に就いてしまったら、たとえどんな命令であっても拒否する事は
できないと書かれているわ
おそらく、これが最大の理由なんでしょうけどね・・
それに、『侍』『忍』という職の西方諸国出身冒険者は滅多に居ないようね
それに西方諸国の一部では、戦乱が絶え間なく続いている地域があるようだから」
『ギルドマスター』の彼女はそう言いながら溜息を漏らす
「つまりこの2人は、戦乱が絶え間なく続いている地域の滅んだ国の出身者で、
戦いの場を求めて 傭兵稼業をしていたというわけですか?
でも、それだけなら別に不思議な話でもないですが・・・」
秘書は腕組みしながら呟いた
確かにその通りなのだが、ペリアーレ大陸の『冒険者ギルド総本部』からの
調査書類には2人が渡り歩いた傭兵団は規模か大きいものから
小さいものと幅が大きく、それぞれの傭兵団で率先して最前線に立っては、
各地の戦乱に容赦なく飛び込んで活躍していたという記載があった
「これを読めば、どうもそれだけではないような気がする
『侍』『忍』の少ない情報を拾い集めたペリアーレ大陸の
『冒険者ギルド総本部』には頭が下がる思いだわ」
ギルドマスターの彼女は感心するように何度も首肯する
そして再び報告書を読み始めるとページを捲る指を止めた
「どうなさいましたか?」
その行動に驚いた秘書が、すぐに問いかける
「 『侍』という職に就いている者には、特に剣術や武芸に優れた者を
『剣豪』と呼ぶそうよ
また西方諸国には剣術の流派という物が存在しているようで、その流派の中で
特に優れた技を持つ者を各道場で選び出して剣豪として認定しているらしいの
その称号を持っている者達はかなりの腕前らしいわ・・・
そして、剣術だけでなく槍術・弓術などの武芸においても、同様に優秀な
武芸者と試合が行われるみたいね・・・で、その各剣豪達はそれぞれ己の
流派に誇りを持ち、他の流派と競っているうよ」
ギルドマスターの彼女は淡々と口にする
「・・・カモサワを担当した教官の報告書によれば、その本人は
西方諸国の剣術流派の1つ『トダイットウリュウ』なる流派に
所属しているとありましたが」
武術の名称についてはさすがに違う大陸なこともあり聞き覚えはなかった秘書は、その事に首を傾げながら応えるしかなかった
「 『大太刀』という特殊な刀は、刃が通常よりも長く作られていて
斬撃に特化しており、 その特性故に扱いが非常に難しく使いこなすには
相当な修練と長い時間を要するみたいね・・・
そんな『大太刀』という独特の形状の刀を好んで使用する武芸者達は、
ペリアーレ大陸西方地域の戦乱が絶え間なく続いている小国群の出身である
可能性が高いらしいわ・・・」
ギルドマスターの彼女は、表情を苦虫を噛み潰したような貌で告げる
「では、『忍』という職も、戦乱が絶え間なく続いている地域からの
出身者だと推測できますね・・・ その者たちはどのような職に就いていて、
その国のどこの出身なのでしょう?」
秘書の言葉を聞いたギルドマスターの彼女は、しばらく考え込む
その顔を見た秘書は何気なく窓から外の様子を眺めると、そこには
いつも通りの街並みが見えた
「ペリアーレ大陸の『冒険者ギルド総本部』からの報告書では、『忍』という職は
表街道で派手に立ち回るものではない裏稼業の様なもので、
表には記録として残ったり、名前が残ったりしない仕事が多いので素性を隠して活動している者も多いと書かれているから、詳しい情報は得られなかったようね」
窓の外を眺めていたギルドマスターの彼女がそう静かに呟く
「それは暗殺者や『冒険者ギルド』の処刑人と同じような感じの者ですか?」
秘書は、その言葉に反応して問い質す ギルドマスターの彼女は、小さく首肯する
「後ろ暗い仕事をやるときに呼び出される職ね
この職にも流派があるらしく、幾つかの集団を形成しているようだけど、
基本的に隠密活動を得意としているらしいわ
流派や集団はペリアーレ大陸西方地域各地に分かれており、どれほどの
流派があるのかは現時点ではわからないそうよ
ただ限り少ない断片的な情報を集めて判明した流派は、『イガ』 『コウガ』 『アスカ』 『ヒャッキ』 『キュウビ』の5つが確認されているみたいね
それぞれの集団にはそれぞれ得意とする任務があり、それに特化した職に
就いて行動する場合が多いみたいよ
体術や柔術という武術にも精通し、領主に仕え諜報活動、破壊活動、浸透戦術、
諜術、暗殺などを仕事をしている『忍』もいれば、中には領主に
仕えず戦毎に雇われる傭兵のような存在になっている者もいるみたいね」
ギルドマスターの彼女は淡々と語る
その言葉を聞きながら秘書は腕組みをして目を瞑ったまま、暫く無言で考えていた
「ペリアーレ大陸から、遠路はるばるこの大陸まで流れてきたのは何故でしょうか? この大陸で傭兵でもしながら暮らしているのなら、まだ
理解はできるのですが・・・」
秘書はゆっくりと目を開けると、疑問を口にする
「さあ? 冒険者稼業に興味があったからじゃないかしら
この2人も謎だけど、あとの2人も謎よ・・・彼女の1人を担当した教官からの訓練報告書を確認したけど、成績結果を
読めば、あきらかに『騎士』職ではないわ・・・恐らく・・・」
ギルドマスターの彼女は報告書に記載されているウルリーカの訓練成績を
確認しながら、眉間にしわを寄せた
その表情からは、彼女の実力が相当に高いことが読み取れた
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