第13話

 中級者冒険者向け迷宮の一階層を探索する所は、まだまだあった

 ハインツが「冒険者ギルド」で迷宮の情報を集めた限りでも、地下へ進む

 道は見つかってはいる

 が・・・ 一層一層が特殊な空間の捻じれでもあるのか、とてつもなく広く

 現在調査中の未到達領域がまだまだあった

 その為、中級者冒険者達は一階層を中心に活動して、少しずつ深く潜っていく

 形を取っている

 だが、それはあくまで一般的な場合の話であって中には、もっと

 早く攻略したいと考える冒険者達もいる

 そういった者たちの中には、無理を承知で一日に二層までしか進めない中を

 強行突破しようとする

 だが、それはあまりに無謀な行為でしかなかった

 何故なら迷宮内の魔物は、外界の通常より強さが格段に上がっているからだ

 それに下層に進めは進む程狂猛な魔物が棲み処として犇めき合っており、

 魔物以外にも仕掛けられている罠、 隠し通路、転移装置がある





 そうした場所では魔物との戦いだけではなく、その魔物の棲み処の

 地形そのものを利用した 罠にも気を付けなければならない

 だから、初級者や中級者の冒険者が無茶をすればするほど、命を落とす

 確率が高くなる

 そう言った意味でも、中級者冒険者向けの迷宮を踏破するには

 上級冒険者でなくては不可能なのだ


 あえて無茶をする命知らずな中級冒険者以外は、一階層を中心に活動している

 一階層では中級冒険者の数も比較的多いのだが、すれ違う事は滅多にない

 そんな一階層でハインツ達は今、とある少し開けた広場のような場所にいた

「ボクにまかせてください」

 カルローラが、そう告げると『迷宮道士』の道具の一つで正八角形の

 盤の真中に鏡を埋め込み、周囲に先天図の八卦を記した魔方陣が

 描かれたアイテムをを取り出した

 それを地面に置くと、彼女は呪文を唱え始めた

 すると、魔方陣が光り輝きだした

 この術でパーティーの現在位置を確認しているのだが、ハインツとカーリンは

 見た事もない

 魔法道具なため どのような効果があるか分からないが、とにかく

 凄いという事は分かった



「おお!」

 と感嘆した声を出したのは、タルコットだけだった

 他のメンバーに至っては、目を輝かせて食い入るように見つめていた

 しばらくして、魔方陣の光が収まると そこには、自分達の現在地を示す

 地図が表示されていた

「これがこの階層の主な地図ですね

 そして、ボク達がいる所はここです」

 カルローラが言い、地図の一室を指し示した

「・・・・おいおい、なんだこの広さ・・・」

 カーリンが指さしている地図を見て、震える声で呟いた

 ハインツも、あまりの広さに言葉が出なかった

 実際に迷宮内を歩いていても端に辿り着く気配がなかったため、かなり

 広いなとは思っていた

 しかし、地図を見る限りでは迷宮の常識を覆すほど広大な面積だった



「この地図って正しいの?」

 興味深そうに地図を見ていタルコットが、ふと疑問を口にした その質問に、

 タルコット以外の全員が貌を見合わせた

 確かにタルコットの言う通り、これだけの面積を

 地図に書き込める訳がない

「間違いない」

 タルコットの問い掛けに答えたのは、カルローラではなくアトリーサだった

 彼女は、自信満々に断言した




「なぜ、断定できる?」

 ハインツはアトリーサに訊ねた

「 地図の縮尺は、ある程度分かるようになっている 例えば、同じ階層でも階層主

 の部屋がある場所だけは異様に広かったりするが、それ以外の部屋や

 通路などはそれほどでもない

 それに、私達が探索していない部分も表示されているからな

 つまり、これは最新版ではないという事になる

 それでも、ここまでの詳細な地図は他にはない

 それだけ、ここの迷宮は謎が多いという証拠にもなる

 だから、信用していいだろう 」

 アトリーサは淡々とした声で応えた

「つまり、この迷宮の一層一層は国か一つ二つ入るほど広大だという事ですか?

 しかも、まだ未踏破の領域がいくつもあると・・・それなのに、魔物の

 強さは外界よりも遥かに強い

 ・・・迷宮とはとんでもないですな」

 テレンスが 呆れたような口調で言った

 ハインツも、その意見には同感だった



「やれやれ・・・そりゃあ迷宮の完全突破した冒険者がいないはずだぜ

 こんな迷宮の攻略を目指そうとするのなんて 馬鹿しかいないだろ」

 カーリンが溜め息交じりで言った

 その言葉を聞いて、テレンスとハインツが苦笑した

「じゃあ、この若干白くなっている所は、おいら達のパーティーが探索してる

 場所なの?」

 タルコットが指差しながら、確認するように訊ねてきた

 ハインツは、タルコットが差し出した地図を覗き込んだ

 すると、確かに自分達のいる位置を示す場所に確かに自分達のいる

 位置を示す場所にわずかに白い部分が残っていた

 おそらく、自分達が通った道なのだろうと推測できた

「そうだよ

 あと他の冒険者パーティーが探索した所も示しているね 

 まだ白くも何もなっていない所はまだ誰も行ってもいない事を示しているよ」

 カルローラが、タルコットの質問に対して説明をした



 タルコットは、納得したように何度も小さくうなずいていた

 だが、それに凄まじい衝撃を受けたのはハインツとカーリンだった

 互いに視線を向けると、二人は同時に地図を覗き込む

「つまりこれは・・・下層に続く道は判明しているがそれ以外は

 何も判明していないって事か・・!」

 カーリンが呻く様に呟く

「恐らく全ての階層が、これぐらい広いんでしょうなぁ」

 テレンスの言葉に、全員が同意するかのように黙り込んでしまった

「・・・端にたどり着くには、恐らく外界の国から国に移動するのと

 同じくらいの時間がかかる」

 しばらくして、アトリーサが呟く

 


 それは、あまりにも途方もない話であり、想像すらできないほどの距離だ

 迷宮の恐るべき広さを改めて認識させられた

 ハインツは、迷宮に挑んでいる冒険者達でこの事を知っているのは恐らく

 自分達以外は いないのではないだろうかと思った

 この事は、冒険者ギルドでもトップシークレット扱いになるのではと

 思うほどだった

 カルローラが言ったように、この地図は最新のものではない

 それでも、この広大な迷宮の全てを網羅している訳ではないが、この地図だけで

 十分すぎるほど驚愕に値するものだった

 だが、一番凄まじいと実感したのは カルローラのマッピング能力だ

 戦闘能力も優れているが、マッピング能力も優れているとなれば、もはや

 新人冒険者とは呼べない

 彼女の実力は一流の冒険者の域だ

 それなのに、「冒険者ギルド」は新人冒険者だと紹介した事に違和感を覚えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る